2017年05月08日

浅田真央引退 〜繋げた伊藤みどりからの「トリプルアクセルの系譜」〜

浅田真央が自身のブログで現役引退を表明した4月10日、私は前の週から「あること」に取り組み始めたばかりだった。フィギュア大ファンで、このブログにも多くのフィギュア関連の記事を載せている私が、浅田の引退についてのブログ記事をまとめようと思ったら優に数日はかかる。「根性なし・根気なし」のノーコン人間を自認するこの私が、始めたばかりのことを横に置いてこんなことをしたらまた挫折するのは目に見えている。なので、書きたい気持ちをずっと抑えていた。また、浅田真央の引退についての記事は安易に書けるものではないので、じっくり頭の中でまとめてから書きたいという思いもあった。

その後2週間にわたり、この「あること」もしんどくなるような仕事が続いたのだが、何とか乗り切ってGWを迎えた。GWも「あること」でスケジュールはみっちりだったのだが、この最終盤にきてようやく少し余裕が出てきたので(というより、そればっかりで連休を過ごすのが嫌だったので)、1か月近く経ってようやく、「我が思いのたけ」をギュッと凝縮して、ここに記すことにする(まともに書いたら、どんどん長くなって収拾がつかなくなるだろうから)。


【 出場すれば書かずにはいられない、それが浅田真央 】

彼女の引退表明のあと、私は購読している毎日新聞の彼女に関する記事をすべてスクラップした。朝刊・夕刊・日曜版あわせ、実に19。スポーツ面はもちろん、1面・社会面・社説、「記者の目」、さらには日曜版の、普段は芸能関係の記事が多いコラムでも扱っていた。浅田真央という選手が、単なるアスリートを超えた「国民的アイドル」だったことを示す、この記事の多さと幅の広さである。

世間的にはこうだが、自分自身の彼女への関心度はどうだったのか。それを確かめるべく、このブログ内で「浅田真央」で検索してみた。その数、実に46。カテゴリー「フィギュアスケート」の記事が総数61、2度のオリンピック(2010バンクーバー・2014ソチ)の記事はカテゴリー「五輪・世界大会」に入っているので、これを加えて65。フィギュア関連の記事の70%超で彼女を取り上げていることになるのだ。というか、浅田真央が出場した試合で彼女についてコメントしないことなどありえないので、残り30%は彼女が不出場だったGPシリーズなどなのだろう。つまり出場すれば、記事にした確率100%。いつどんな大会に出場しても、常にセンターに置かれ、注目を一身に浴び、書き手は書かずにはいられない。浅田真央とはそういう選手だったのだ。


【 つないだ伊藤みどりからの「バトン」:応援せずにはいられない 】

GPファイナル4回優勝、世界選手権3回優勝、バンクーバー五輪銀メダル。しかしこれは、彼女の戦績の「上澄み」を記したにすぎない。浅田真央という選手の大きな功績の1つは、フィギュアスケートという魅力あふれる世界を、日本全土に広げ、浸透させたことにある。老若男女を問わず愛され、誰もが「真央ちゃん」と呼んで応援したくなる、その愛くるしいルックスと、スケートへの純粋で真摯な姿勢。彼女の出現によって、フィギュアスケートの日本における認知度は飛躍的に高まった。

しかし私個人としては、「自分をフィギュアスケートの世界にいざなってくれた大恩人」伊藤みどりから始まる「トリプルアクセルの系譜」を、浅田真央が引き継いでくれたことに最大の功績と意義を見る。伊藤みどり本人が、毎日新聞紙上で「トリプルアクセルに挑戦し続けてくれてありがとう」とコメントし、Number誌上でも「真央ちゃん、引退おめでとう」の特別メッセージを贈っているように、浅田真央は伊藤みどりからの「トリプルアクセルのバトン」を受け取り、最後までそのバトンを持って走り続けた。1988年のカルガリー五輪での伊藤みどりの演技に魅了されて以来のフィギュアファンである私にとって、その伊藤みどりの系譜を継ぐ浅田真央は、応援せずにはいられない選手だったのだ。


デビューが早かったので、この世界で21年過ごしてもまだ26歳。これからの人生の方がはるかに長い。「人間・浅田真央」がどんな生き様を見せてくれるのか、これからどんなことに挑戦してくれるのか。長年のファンとして、じっくり温かく見守ろう。

(とりあえずはフィギュアの試合で「解説者・浅田真央」のコメントが聞きたい。橋大輔、織田信成、鈴木明子といった同時代を戦った選手たちは、みなすばらしい解説をしてくれている。世界のヒロイン・浅田真央の解説は、さぞ聞く者の心に染みるものになるに違いない。楽しみだ


P.S. 浅田真央の引退と被ってしまって目立たなかったが、村上佳菜子も引退を表明した。羽生結弦と同世代で、同じ2010-11シーズンにシニアデビュー。いきなりGPシリーズ優勝・GPファイナル表彰台を遂げたシンデレラガールだった。その後も着実に成長し、その弾ける笑顔でファンにアピールしてきた。しかしここ数年はジャンプに苦しんで伸び悩み、若手の追い上げを受けていた。昨年末の全日本選手権のFSで渾身の演技を見せ、演技終了後、感極まってリンクに伏してしまった。今思えばあの時、「これが現役最後の演技」と覚悟していたのだろう。

同期の羽生結弦が世界王者になったのと比べると、その才能を十分には発揮できずに終わった感があり、ファンの一人としては残念だ。しかしその情感あふれるしっとりとした演技は、観る者に訴えた。非常にファンの多い選手であり(リンクに現れた時の歓声の大きさがそれを物語る)、記録よりも記憶に残る選手だ。浅田真央と同様、彼女の人生もこれからまだまだ長い。何より、その「弾ける笑顔」をいつまでも失わずにいてほしいものだ。

(個人的には、2014-15シーズンのSP「『オペラ座の怪人』から“Think of me”」が、彼女の明るくまぶしい雰囲気にマッチしていてすばらしかった。あれが我が「村上佳菜子・ベスト演技」だな)

posted by デュークNave at 12:08| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月02日

新しい地平に立ったチャンピオンたち:男子シングルは究極の日本勢1−2フィニッシュ 〜フィギュアスケート世界選手権2017〜

「すごい」としか言いようがない。今季のフィギュアスケートのクライマックス・世界選手権は、史上空前のハイレベルな戦い。女子シングルでは若きディフェンディングチャンピオンが、またも完璧な滑りで世界最高得点をマークして連覇達成。そして男子シングルは、五輪チャンピオンがFSで空前の高得点を叩き出して3年ぶりに王座奪還、さらに日本の誇る「2トップ」がダントツの1−2フィニッシュを決めた。


【 女子シングル 】

大会直前、日本のエース・宮原知子がケガによる欠場を表明。急きょ本郷理華が出場することになった。来年の平昌五輪の出場枠(上位2選手の合計順位が13位以内なら3枠、14〜28位なら2枠)がかかる世界選手権で、GPファイナル2位・全日本選手権3連覇中のエース宮原の欠場は非常に痛かった。急な出場になった本郷、初出場の樋口新葉三原舞依にかかったプレッシャーは大きかっただろう。

本郷と樋口は、シーズン後半のジャンプの不安定さをこの大舞台でも克服できなかった。本郷はFSで転倒1度に加え、3つのジャンプでアンダーローテーション判定を受け、技術点が伸びなかった。樋口も転倒1度にダウングレードや着氷の乱れがあり、得意のジャンプで得点が伸びなかった。ただ演技構成点では4項目で8点台を得ており、表現力の成長は示すことができた。

この中で会心の演技を見せたのが三原だ。SPでは最終盤の3フリップでまさかの転倒があり15位に沈んだが、FSではジャンプを次々にきれいに決め、すべての要素でGOE加点を得る完璧な演技。5コンポーネンツでも4項目で8点台の高評価。FSでは4位に入り、総合でも5位にジャンプアップ。初出場の大舞台で見事入賞を果たした。

しかしこの結果、上位2選手(三原・樋口)の順位合計は16(5+11)となり、日本女子シングルの平昌五輪への出場枠は2にとどまった。宮原の欠場がやはり響いた。年々レベルが上がり、層が厚くなっている日本女子シングル。この2枠の巡っての来季の戦いは熾烈になりそうだ。


我が目を疑ったのが、SP4位のアンナ・ポゴリラヤ。冒頭の3ルッツがシングルに抜けたのがつまずきの始まりで、ジャンプで3度の転倒(計4点の減点)。気落ちした最後のスピンもレベル2にとどまり、FSではまさかの15位。総合でも13位に沈んだ。演技終了後、あまりの出来にリンクに泣き伏してしまった。

昨季の世界選手権で3位に入り、今季のGPシリーズ(連続優勝)やファイナル(3位)でも持ち味を生かしたすばらしい演技を見せていた。「これは一皮むけたな。新しい境地に入ったかな」と、ファンの1人として心から喜んでいた。それだけに、このクライマックスでの大ブレーキは信じられない。でもそのしっとりとした雰囲気が醸し出す、艶のある演技は魅力たっぷりだ。まだ18歳、来季は熾烈なロシア国内の争いを勝ち抜いて、五輪の舞台でまたあでやかな演技を見せてほしい。


表彰台の両サイドを占めたのが、今大会大躍進のカナダ勢。3位のガブリエル・デールマン、2位のケイトリン・オズモンドは、ともにスピードと躍動感あふれる演技を得意とする。その勢いそのままに、SP・FSともにほとんどノーミス。演技構成点でも8点台後半から9点台の高得点で、技術性・芸術性を併せ持つ総合力の高さを見せた。ともにパーソナルベストを更新し、見事に初の世界選手権の表彰台に昇った。この結果、カナダは五輪出場枠「3」を確保。これはロシアのみならずカナダ勢も、日本の強力なライバルになりそうだ。


このハイレベルな戦いの中、まったく揺るがない演技を見せたのが、シニアデビューの昨季GPファイナル・世界選手権2冠、今季もファイナル連覇の「盤石の女王」、エフゲニア・メドベージェワだった。本当にこの人の演技は、とても人間業、しかもまだティーネージャーの成せる業とは思えない。非常にハイレベルな演技構成にもかかわらず、ほとんどミスがなく、しかもGOE加点を得られる要素をそちこちに散りばめている。まさに「女王の勝利の方程式」であり、これを完璧にこなした。FS154.40、トータル233.41はともに世界最高得点を更新。圧巻の連覇を果たした。


来年の五輪、このメドベージェワの「盤石の牙城」を崩せる選手はいるのか。正直、昨季・今季のこのあまりの盤石ぶりを見ると、「大きなミスをしない限り、彼女の五輪女王の座はほぼ決定じゃないのか?」と思ってしまう。彼女を倒すには、限界に挑むようなハイレベルの演技構成を完璧にこなして初めて勝負になるのだ。しかしこれはハイリスクハイリターン、至難の業だ。


【 男子シングル 】

中継のテレビ局が「真・4回転時代」と銘打った今大会。だがこの4回転、選手の取り組み方は大きく2つに分かれるようだ。

1つは、羽生結弦、宇野昌磨、ネイサン・チェン、ボーヤン・ジンに代表される、4回転の種類と回数を増やし、よりハイレベルなジャンプ構成を追求する選手たち(高目追求派)。もう1つは、ハビエル・フェルナンデス、パトリック・チャン、ジェイソン・ブラウンに代表される、4回転は2種類程度に抑え、ジャンプの精度を上げ、演技構成を熟成させて勝負する選手たち(熟成派)だ。

これは過去にもあった構図だ。2010年のバンクーバー五輪で、4回転を跳ばなかった「熟成派」イバン・ライサチェクが優勝し、4回転を跳んだ「高目追求派」エフゲニー・プルシェンコは銀に甘んじた。しかしその後、4回転を複数回跳ぶチャンが世界選手権を3連覇し、他の選手たちは「打倒・チャン」のために「高目追求」を余儀なくされた。その流れの中で羽生が2014年のソチ五輪を制し、その後も宇野ら気鋭の若手の台頭で「高目追求派」が有利に推移していた。しかし、世界選手権では「熟成派」のフェルナンデスが2015・2016年を連覇。「高目追求」はリスクが高いので、彼らにミスが出て「熟成派」が完璧な演技をすると、その円熟の技が勝ってしまうのだ。

昨年のGPファイナルでは、フェルナンデスとチャンがジャンプで失敗し、「高目追求派」の羽生・チェン・宇野が表彰台を占めた。今季のクライマックスではどちらに軍配が上がるのかが注目された。


SPでは、フェルナンデスの熟練の技が冴え、SBを更新してトップに立つ。同じくSBを更新して2度目の100点台を獲得した宇野が2位につける。3位にはこれも100点台に載せたチャンが続く。注目の羽生は4サルコウで転倒し、5位発進。4位にボーヤン・ジン、6位にネイサン・チェンが入り、FSの最終組はこの6人となった。「高目追求派」4人・「熟成派」2人。現在の男子シングルの勢力図そのままのメンバーになった。


さて、その結果は! 今年は「高目追求派」の完勝に終わった。「熟成派」の2人はともにジャンプにミスが出て技術点が伸びなかった。「熟成派」はもともとのジャンプ構成の得点が低いので、ミスをしては「高目追求派」に太刀打ちできない。「完璧に演じなければならない」というプレッシャーを常に背負うのが「熟成派」の宿命なのだ。GPファイナル同様、2人の世界王者がこのプレッシャーに負けた。

そして表彰台を占めたのが、「高目追求派」の3人。銅のボーヤン・ジンは、わずかなポイント差でGPファイナル進出を逃した悔しさを、この大舞台にぶつけた。SP・FSを通じてノーミス、すべての要素でGOE加点を得る会心の演技。5コンポーネンツでもほぼ8点台を獲得し、総合力の高さを見せつけた。2年連続の銅・表彰台。彼のキレのいいジャンプ(特に4ルッツの高さは圧巻!)のファンである私にとっても、彼の復活は非常にうれしい。


昨季の世界選手権ではFSの演技後半で尻すぼみし、7位に終わった宇野昌磨。その悔しさを抱き続けて挑んだ今季、GPシリーズ優勝・2位、ファイナル3位、全日本初優勝と着実に結果を積み上げてきた。その集大成と臨んだ今大会で、最高の結果を出した。

冒頭、今季後半から取り組んだ4ループを見事に決める。シニアデビュー以来、この吸収の速さが彼のすばらしさだ。続く「ギネスホルダー」4フリップもきれいに決める。次の3ルッツで着氷が乱れ、エラーエッジになったのが唯一のミスで、あとはほぼプラス評価。特に後半の3アクセル−3トウで+3.00、3アクセル−1ループ−3フリップで+2.57と、疲れが出る演技後半のジャンプで大きな加点を得ているのがすごい。演技構成点でもすべて9点台を得て、「高目追求」のみならず「熟成」も併せ持ったすばらしい作品に仕上がった。FSで初の200点越え(214.45)、トータルでも初めて300点を越え(319.31)、2度目の世界選手権で堂々の2位表彰台をゲット。見事に去年のリベンジを果たした。


しかし日本のエース、いや世界のエースはもっとすごかった。SP5位、トップのフェルナンデスとは10点以上の差。完璧に演じなければ王者奪還は成らない状況の中で、それをやってのけるすごさ。「絶対王者」を自認する羽生結弦の底力を見た。

まさに「完璧」を絵に描いたような演技だった。先日の大相撲春場所での横綱稀勢の里の逆転優勝の時も思ったが、「どうしてこんなことができるのか」。すべての演技要素が流れるように美しく進み、観る者はただただ酔いしれるのみ。すべての要素で加点を得ているのはもちろんだが、圧巻なのは、3つの4ジャンプ(単独)と3つのコンビネーションジャンプですべて2点以上の大きな加点を得ていること。加えて、5コンポーネンツはすべて9点台、4項目が9点台の後半である。昨季のGPファイナル、「SEIMEI」で世界最高得点をマークした演技を彷彿とさせるが、今回は10点アヘッドを逆転しなければならないという逆境の中にあったので、「気迫」という要素がかなり色濃く加わっていたのではないか。まさに底力である。

FSは223.20。自らが持つ世界最高得点を更新し、トータル321.59。3年ぶりに世界王者の座を奪還した。そしてこの瞬間、日本勢圧巻の1−2フィニッシュが成り、平昌五輪出場枠「3」が確定した。これ以上ない最高のフィニッシュだった。


この男子シングルの結果を見て思うこと:「高目追求派」がミスせずにこなしたら、「成熟派」は勝ち目がないということだ。「高目追求派」はもともとの演技構成レベルが高いので、多少失敗しても勝負になる。しかし「成熟派」はノーミスでこなして初めて勝負になるのであって、今回のようにミスが出ては「高目追求派」に大差をつけられてしまう。

来季はいよいよ五輪シーズン、この2つの「流派」の趨勢はどうなるか。「高目追求派」はこのままを維持するか、さらに4ジャンプのレパートリーを増やすかになるだろう。一方「成熟派」は、勝つために「高目追求派」に宗旨替えするのか、そのままさらなる熟成に努めるのか。その動きを見守りたい。


posted by デュークNave at 13:21| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月27日

3月26日は「ミラクル記念日」 in Sports 〜大相撲、そしてセンバツ〜

こんな結末をいったい誰が予想できただろうか。「勝ってくれ」とはもちろん誰もが思っていただろうが、逆転優勝するには、手負いの体で今場所絶好調の相手を2番連続で倒さねばならなかったのだ。


【 連勝ストップ、そしてケガ:休場必至と思われたが 】

大相撲春場所、新横綱・稀勢の里は12日目まではほぼ盤石の取り口で全勝を続けていたが、13日目に先輩横綱・日馬富士の鋭い押しに圧倒され、土俵下に落ちた。しかもその際に左肩と胸を強打し、救急車で搬送された。休場は濃厚かと思われたが、稀勢の里は強行出場を決める。しかし14日目の横綱鶴竜戦は、立ち合い全く力が入らずにもろ差しを許し、あっけなく土俵を割る。一方1敗で追っていた大関照ノ富士が13勝目を挙げ、優勝争いの単独トップに立った。稀勢の里が逆転優勝するには、千秋楽の本割での直接対決と優勝決定戦とで照ノ富士に連勝しなければならなくなったのだ。しかし14日目の取り口を見ると、「連勝どころか、本割でもまともに相撲が取れないのではないか。照ノ富士があっさり勝って優勝を決めるだろう」と誰もが思っていたに違いない。


【 どうしてこんなことができるのか:2度起きた奇跡 】

そして結び前の本割。向こう正面解説の舞の海秀平さんが「稀勢の里が勝つには、やや右に変わり気味に立って右上手を取り、右から投げを打って決めるしかない」と語った。確かに左がほとんど使えない以上、右からの攻めに活路を見出すしかなさそうだった。しかし立ち合いでその通りに右に変わり気味に立ったが待ったがかかり、手口を見られてしまった。さてどうするのか。仕切り直しの立ち合い、今度は左に変わって差し手争い。昨日よりは左腕が使えているようだが、照ノ富士に右前みつを許す苦しい体勢になる。ここで照ノ富士が寄って出るが、稀勢の里は左下手を抜き、体を開きながら左で頭を押さえ、右からの突き落とし。これが見事に決まり、照ノ富士は土俵に這った。

奇跡が起こった。ほとんどまともな相撲にならないと思われたのが、苦しいながらもどうにか組み止め、足の動きと体のバランスで照ノ富士のパワーをかわした。どうしてこんなことができるのか。とにかく、これで優勝決定戦である。


その決定戦。今度はどう取るのか。立ち合い、稀勢の里はもろ手突きに出たが、照ノ富士に入りこまれてもろ差しを許す。一気に出る照ノ富士。しかし稀勢の里はまたも体を開きながら、右からの小手投げ。照ノ富士の体がわずかに先に土俵に落ちた。

(この瞬間、支度部屋で観ていた弟弟子の関脇高安(今場所12勝3敗の好成績)は、大粒の涙を流して号泣した。この2人の関係、かつての千代の富士と北勝海(現・八角理事長)に似ている)

またも奇跡が起こった。またも苦しい体勢からの逆転勝ち。そしてまたも、足の動きと体のバランスで照ノ富士のパワーをかわした。ほとんどあり得ないと思われた、本割と決定戦での連勝。それを目の当たりにして、私はまた思った。「どうしてこんなことができるのか」


【 ”ZONE”? 本人が感じた「何か見えない力」 】

この夜の番組で稀勢の里は「足は元気なので、足で何とかしようと思った」と語った。言葉通り、2番とも足の動きで手にした白星だった。しかしこの連続の奇跡は、それだけで説明できるものではない。本人が「何か見えない力を感じた」と語ったように、いわゆる“ZONE”に入っていたのか。あるいは稀勢の里の逆転優勝を願うファンの思いが、空気になって背中を押したのか。とにもかくにも大相撲春場所は、稀勢の里本人にとってもファンにとっても、想像をはるかに超えたドラマティックな形で幕を閉じた。


【 甲子園でもミラクル:2試合連続引き分け再試合 】

大阪で起きたこの超弩級のミラクル。しかしお隣の兵庫県・甲子園球場でも、史上初のミラクルが起きていた。第89回選抜高校野球第7日、2回戦。第2試合の福岡大大濠−滋賀学園戦と、第3試合の健大高崎−福井工大福井戦が、ともに延長15回・引き分け再試合になったのだ。1大会で2試合、しかも連続での引き分け再試合は、春夏通じて史上初である。

第2試合は緊迫した投手戦の末、1−1の引き分け。第3試合は、9回までは点の取り合いで7−7。しかし延長戦に入ってからは、互いにチャンスを作るがピッチャーの踏ん張りで得点を許さず、そのまま引き分けとなった。


この第3試合の延長戦は大相撲中継と同時進行で進んでいたため、私は両方の観戦で大忙しだった。稀勢の里−照ノ富士戦を見逃すわけにはいかないので、本割と優勝決定戦の時とその前後はNHKGに合わせ、それ以外はEテレにチャンネルを回して観ていた。おかげで本割の時だったか決定戦だったかは「記憶にない」が(最近の流行り言葉)、14回裏の健大高崎の1死満塁のサヨナラチャンスを観られなかったのが残念だった。「機動破壊」ファンの私としては、このチャンスで念力を込めて応援したかったのだが・・・。

(余談だが、私のこの「記憶にない」は何の罪もないが、安倍昭恵さん、石原慎太郎さん、稲田防衛大臣さん、あなた方の「記憶にない」はそれじゃ済みませんよ!)


この日関西の地で起こった2つの奇跡。3月26日は、スポーツの世界での「ミラクル記念日」として、我が記憶にとどめておこう。

posted by デュークNave at 03:37| Comment(0) | スポーツ-全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月05日

「森友学園事件」にまつわる3つの疑問:その結末はいかに?

今や世間の最大の関心事となった感がある「森友学園事件」。安倍首相嫌いの私としては、メディアの皆さんや野党の方々にはこの際トコトンいじめてほしいと思うのだが、そんな個人的な感情を抜きにしても、これは捨て置いてはいけない事件、徹底的に真相を解明してもらいたい事件だと思う。その理由を私なりにまとめてみた。


@ 国有地が不当な廉価で売却されたこと

近畿財務局が、大阪府豊中市の国有地(評価額9億5,600万円)を、学校法人「森友学園」に1億3,400万円で売却した。8億円以上もが減額された理由として国交省は「地中のごみの撤去費用として8億2,000万円を差し引いた」と説明している。

こういう場合、撤去費用の見積もりは専門業者が行うのが一般的だそうだが、今回はなぜか近畿財務局の依頼で大阪航空局が見積もった。国家機関が直接見積もるのは前例がなく、「前例がないとテコでも動かない」中央官庁にしては異常事態である。

しかも財務省は、この売買を巡る学園側と近畿財務局との交渉記録を、「2016年6月の売買契約成立後に破棄した」と報告した。これにも納得がいかない。


「これは森友学園に安値で売るように、外部からの働きかけあるいは圧力があったに違いない。そしてその証拠隠滅のために記録を破棄したんだろう。」一般常識的に考えれば、誰もがこう思うだろう。


A 森友学園の前時代的な教育方針

この「不当廉価」で手に入れた土地に、森友学園は小学校を新設するという。しかしメディアが明らかにした森友学園の教育内容は、誰もが唖然とするものだった。


学園が運営する幼稚園では、園児に「教育勅語」を暗唱させている。この教育勅語は、「基本的人権を損ない、国際信義に対して疑いを残す」として、1948年の衆参両院で排除と失効確認が決議された。こんなシロモノを幼児に暗唱させるなど時代錯誤も甚だしく、教育方針に根本的な欠陥があると言わざるを得ない。

また運動会の選手宣誓で、「安倍首相がんばれ。安保法制、国会通過よかったです」と唱えさせる。これは教育の政治的中立を求めている教育基本法を逸脱しているし、何よりまだ政治を理解できない幼児にこんなことを唱えさせるのは、「洗脳」以外の何物でもない。政権にすり寄る教育機関、これは非常に危険な香りがする。

さらに「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」という差別表現のある文書を保護者に配り、大阪府の事情聴取を受けていたことも明らかになった。ここにも教育機関にあるまじき偏った思想が見える。

こんな「前時代の遺物」に小学校設立の認可を与えていいのかと思っていたら、さすがに大阪府は認可判断を先送りするという。これで予定していた4月開校は困難になったようだが、これで済まされる問題ではない。そもそもこんな極端な「右寄り」の教育機関の存在が許されていいのか。その存在そのものが危険だと思うのだが。


こういう状況を見て、誰もが思うこと:「こんな危険な教育機関が存在し、一度は新たな学校の認可も受けたその最大の理由:それは森友学園が『安倍派』であり、安倍首相の政策を強く支持しているからだ。」これが一般常識的な考えだろう。


B 「安倍晋三記念小学校」「安倍昭恵名誉校長」

森友学園は一時期、「安倍晋三記念小学校」の名目で寄付を集めていた。また4月開校予定のこの小学校で、安倍首相の昭恵夫人が名誉校長に就任した。ところが「国有地の不当廉価売却」が騒ぎになったため、(たぶんあわてて)名誉校長を辞任した。

この事実関係を見て、誰もが思うこと:「首相夫婦がお揃いで森友学園と何らかの関係を持っていたんだな。」名前を冠して寄付金を集めたり、名誉職に就任したりと、こんな事実が明らかになってしまっては、どう強弁して関与を否定しても意味があるまい。「ネタは挙がってるんだよ!」というヤツだ。

2月17日の衆議院予算委員会での安倍首相の答弁:「(籠池理事長は)私の考えに共鳴している方」「妻から森友学園の先生の教育への熱意はすばらしいと聞いている」と、そのわずか1週間後(24日・同)の答弁:「(「安倍晋三記念小学校」の名義使用要請が)非常にしつこい。何度も断った」「この方(籠池理事長)は簡単に引き下がらない人」「教育者としてはいかがなものか」との間にはあまりにギャップがあり、呆れるほどに手のひらを返しているのに唖然とする。だが、この人の国会での詭弁は今に始まったことではないのでさほど驚かないし、今後この人の答弁をいくら聞いてもさほどの意味はないだろう。


それより早く事実関係を明らかにし、学園や理事長と首相夫妻や議員、官僚との関りを明白にしてもらいたい。再度言うが、これは単なる権力者いじめではない。「国家財産が不当に処分され、それが政権寄りの極端な思想を持つ教育機関に安売りされ、しかもそれに首相夫妻が絡んでいるかもしれない。」これは国家運営の根幹にかかわる重大事なのだ。徹底的な全容解明を望む。

posted by デュークNave at 04:23| Comment(0) | 政治・時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月01日

フェデラー、18度目のグランドスラムタイトル:その「美しきテニス」の復活に、ただ感嘆 〜全豪オープン2017・男子シングルス〜

【 「神が創造した芸術品」の完全復活:その美しさに触れた心地よさ 】

全豪オープンの試合を連日観戦していて、私は不思議な心地よさに包まれていた。最初はその原因がよくわからなかったのだが、男子シングルスの準々決勝を観終わった時に気がついた。ほぼ半年のブランクを経て戦線に復帰したロジャー・フェデラー(スイス)の、柔らかい芸術的なプレーに魅せられるとともに、全盛期を彷彿とさせる美しきテニスの復活を目の当たりにした喜びの入り混じった、至高の心地よさだったのだ。「神が創造した芸術品」とまで称賛されるフェデラーの美しいプレースタイルが、この全豪で完全復活した。


【 第17シードからの快進撃:我らが錦織も飲み込まれる 】

膝の手術のために昨シーズンの後半を棒に振り、今大会は第17シード。しかしフェデラーは大会前、「低いシードからの復帰は楽しみ。心配すべきは早い段階で僕と戦う他の選手たちの方じゃないかな?」と余裕のコメントを残していた。その言葉通り、3回戦で第10シードのベルディヒ(チェコ)をストレートで破り、続く4回戦では、我らが錦織圭(第5シード)をフルセットの激闘の末に下す。第2シードのノバク・ジョコビッチが2回戦、第1シードのアンディ・マリーが4回戦でまさかの敗退を喫しており、グランドスラム初制覇を狙う錦織にとっては絶好のチャンスだった。それだけにベスト16での敗退は残念だが、「相手がフェデラーなら仕方がないか」とも思ったし、フェデラーのプレーにかつての輝きが戻ってきたことに、私は喜びを感じていた。


【 決勝の相手はナダル:復活したレジェンド同士のドリームマッチ 】

続く準々決勝ではマリーを下したM・ズベレフ(ドイツ)をストレートで破り、準決勝ではスタン・バブリンカ(第4シード)とのスイス勢対決をフルセットの末に制する。期待し注目はしていたものの、故障明けでほぼぶっつけ本番だったフェデラーがまさか決勝まで勝ち上がるとは、ファンはもとより本人も驚きだっただろう。

しかし、今大会のサプライズはこれにとどまらない。
もう一方のブロックから決勝に勝ち上がってきたのは、第9シードのラファエル・ナダル(スペイン)。
かつてはフェデラーとともに「ビッグ4」の一角に君臨してきたナダルだが、ここ数年は故障に悩まされ、グランドスラム大会でも不振が続いていた。しかし今大会ではそのスピンの利いたパワフルなショットが復活し、準々決勝では第3シードのミロシュ・ラオニッチ(カナダ)を何とストレートで屠り、準決勝ではグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)を約5時間の大激戦の末に退けた(この試合はすごかった!)。

フェデラーVSナダル。この長きにわたってテニス界の頂点に君臨してきたレジェンド同士の対決が、グランドスラム大会の決勝で再現するとは何とすばらしいことか。この顔合わせだけで、私を含めた長年のテニスファンは感涙にむせんでいたに違いない。そして試合も、全豪のみならずテニス史に永遠に刻まれる、観る者にテニスの醍醐味を堪能させてくれる、「これぞテニス!」と呼ぶにふさわしいすばらしい戦いになった。


【 第4セットから最終セット序盤、ナダルに流れが行きかけたが 】

フェデラーの2−1リードで迎えた第4セット。それまで正確だったフェデラーのストロークが乱れ始める。フォア・バックともにアンフォーストエラーが増え始め、特に長いストローク戦になると先にフェデラーがミスをするケースが増えてくる。フェデラーのラケット面を揺さぶり続けてきたナダルの強烈なスピンショットが、ここにきてボディーブローのように効いてきたのか。第4ゲームでフェデラーのサービスを破ったナダルが、そのまま押し切って6−3で第4セットを奪う。両雄の頂上決戦は、ついにファイナルセットにもつれこんだ。

その最終セットの第1ゲーム、ナダルはここでも強烈なショットを連発し、いきなりフェデラーのサービスを破る。この試合、先に相手のサービスをブレークした方がそのセットを取るという流れになっている。第4セットから目立ち始めたフェデラーのミスとナダルのストロークの伸び、そして最終セット出だしでのサービスブレーク。フェデラーファンの私は「これはナダルに流れが来ているな。ヤバいな」と思ったのだが・・・。


【 よみがえったフェデラーの「芸術品」 】

その後はサービスキープが続き、ナダルが3−2とリードを保つ。なかなか追いつけないフェデラーだったが、私は一筋の光明を見ていた。ナダルはブレークは許していないものの、第2ゲームで3つ、第4ゲームでも1つのブレークポイントを迎えており、かなりサービスキープに苦しんでいた。私は「この流れならブレークチャンスは十分にある。とにかく早くブレークすることだ」と念じていた。

そして迎えた第6ゲーム、ナダルのサービス。すばらしくスリリングなストロークの応酬の末、フェデラーがつかんだ2つ目のブレークポイント。ナダルの深いショットをフェデラーがライジングで返し続け、その速いテンポにナダルが押されてフォアがサイドアウト。ついにフェデラーがブレークに成功し、3−3のタイに持ち込む。続くサービスゲームをラブゲームでキープし、フェデラーが初めてこのセットでリードする。テンポの速いプレーが再び決まり始め、流れはフェデラーに傾きつつあった。

そして勝負の第8ゲーム。ナダルのダブルフォルトなどで、0−40とフェデラーが3ブレークポイントをつかむ。しかしこの絶体絶命のピンチを、ナダルはスピンの利いたサービスとパワフルなストロークで3ポイントを連取、デュースに持ち込む。だがここからもフェデラーはプレッシャーをかけ続け、連続でブレークポイントをつかむ(特にこのゲーム4つ目のブレークポイントをつかんだ時のラリーは、この試合最長の26。エース級のショットの応酬の末、フェデラーのフォアのダウンザラインが決まった。テニスのストローク戦の、まさに最高峰だった)。そしてこのゲーム5つ目のブレークポイント、フェデラーの角度のあるバックのリターンをナダルが返し切れずにネット。フェデラーがナダルのサービスを連続で破り、4ゲーム連取で5−3とリードする。

第9ゲーム、フェデラーの”Serving for the Championship”。ネットに詰めるフェデラーの脇をナダルの鋭いパスが抜ける。次のポイントもストローク戦をナダルが制し、0−30。ノータッチエースでフェデラーがポイントを返すが、またもナダルのパワフルなショットがフェデラーを圧迫し、浅くなったロブをナダルがボレーで仕留めて15−40。ナダルが逆にブレークバックのチャンスをつかむ。しかしここでまたフェデラーのノータッチエースがセンターに決まり、次のポイントも速いストロークでウイナーを奪ってデュースに。そして迎えた2度目のChampionship point、フェデラーのフォアのクロスがサイドラインに決まる。ナダルはチャレンジを要求するが、しっかりラインに乗っていた。フェデラーが3時間38分の激闘を制し、全豪5度目の優勝、そして前人未到の18度目のグランドスラムタイトルをつかんだ。


【 多言を要しない、2人のレジェンドの「至高のテニス」 】

興奮のあまりずいぶん長々と書いてしまったが、こういう「絶品」はあまり言葉を要しない、いや多言してはいけないのだろう。「とにかく観ろ!」の一言だ。互いの技術と経験、そして精神力のすべてを注ぎ込んだ至高のテニス。「フェデラーはすばらしかった、しかしナダルもすばらしかった。」もうこれしか言えない。テニスのすばらしさの神髄を見せてもらった。2人のレジェンドが紡ぎ出したこの芸術品は、全豪史上、そしてテニス史上永遠に語り継がれるであろう、世紀の名勝負になった。今はただ、この両雄に「すばらしいものを見せてくれて、本当にありがとう」の言葉を贈るのみである。

posted by デュークNave at 05:50| Comment(0) | スポーツ-テニス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする