2023年06月03日

藤井聡太最年少7冠誕生!〜「初代7冠」羽生善治九段を上回る驚愕の強さ〜

1日、将棋名人戦七番勝負・第5局が終了し、挑戦者の藤井聡太6冠(竜王・王位・王将・叡王・棋王・棋聖)が渡辺明名人を破って対戦成績を4勝1敗とし、初の名人位を獲得した。20歳10カ月での名人就位は、谷川浩司十七世名人の21歳2ヵ月を40年ぶりに更新する最年少記録であるとともに、1996年に羽生善治九段が達成した7冠も最年少(史上2人目)で達成した。

藤井新名人・7冠の偉業は、デビューからわずか6年余にしてすでに多くが成し遂げられてきた。14歳2カ月でのプロデビュー(2016年)、デビュー戦から29連勝(同・新記録)、17歳11カ月での初タイトル「棋聖」獲得(2020年)はすべて最年少記録だ。その後も王位(同・2冠)、叡王(2021年・3冠)、竜王(同・4冠)、王将(2022年・5冠)、棋王(2023年・6冠)と次々に初挑戦でタイトルを奪取し、また保持したタイトルはすべて防衛し(棋聖・王位・叡王は2回、竜王・王将は1回)、今回の名人位を含めて通算タイトル数はすでに15期に達している。

藤井7冠の強さ・すごさにはさまざまな面があるが、もっとも注目すべきは驚異的な勝率の高さだ。プロデビュー以来の通算勝率は8割3分台。6割台で一流と言われる将棋界にあって、まさに異次元の強さなのだ。15度のタイトル戦での番勝負を見ても、その圧倒的な強さがわかる。8度の七番勝負で2敗したのは2度だけで、他は4連勝と4勝1敗が3度ずつ。6度の五番勝負でも3勝2敗のフルセットは1度だけで(2021年叡王戦・対豊島将之叡王)、あとは3連勝と3勝1敗が2度ずつなのだ。

タイトル戦はタイトルホルダーがトップ棋士であることはもちろん、挑戦者もトップ棋士か、その時点で絶好調の棋士が登場してくる。そういう並みいる強豪を相手に戦績で競ったことがほとんどないというのは、棋界で彼だけが超越した存在になっている感がある。今回の名人戦でも、第1局でいきなり渡辺名人の先手番を「ブレーク」し、先手番の第2局と第4局はしっかり「キープ」して勝ち切った。そして後手番の第5局で再びブレークし、一気に奪取を決めた。

こう振り返ってみると、先の王将戦七番勝負で藤井王将に挑戦した羽生九段が、第4局終了時点で2勝2敗のタイに並んだのがいかにすごかったかがわかる。羽生九段は第2局・第4局の先手番をしっかりキープし、接戦に持ち込んだ。この対戦カードだけで全国の将棋ファンのすさまじい注目を浴びたが、その戦いの推移も注目と期待に十分応えてくれるものだったのだ

谷川十七世名人がこう語っている。「羽生さんでも3勝1敗のペースだったが、勝率8割3分台の藤井さんは5勝1敗のペース。そういう人に五番勝負で3勝、七番勝負で4勝することはちょっと考えられない。」確かに番勝負で藤井7冠を破るには、フルセットでも五番勝負なら6割、七番勝負なら5割7分の勝率を上げなければならないが、これは現状では至難の業だ。もし今後もこのペースで推移すれば、残る1冠・王座の獲得=8冠全制覇はもちろん、いずれのタイトルも長期に保持し続けることになるだろう。

将棋界の驚異の一番星・藤井聡太7冠の「天下統一」はいつ成るのか。この「史上最強帝国」はいつまで続くのか。そしてこの堅城を最初に崩す棋士は誰か。棋界の関心はここに集中しているのではないだろうか。それは唯一の牙城を保つ永瀬拓矢王座なのか、それとも他のタイトルの挑戦者なのか。今はただじっとその行方を見守るだけだ。
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2023年02月12日

羽生九段、藤井王将を圧倒してタイに戻す/第5局はまさに正念場 〜第72期将棋王将戦七番勝負・第4局〜

全国の将棋ファンの注目を一身に浴びている、第72期ALSOK杯王将戦七番勝負。初防衛を目指す藤井聡太王将(五冠)と、久しぶりのタイトル戦登場となった羽生善治九段との「新旧王者対決」である。

【「レジェンド羽生復活」を印象付けた、挑戦者決定リーグ全勝 】

この両者の対戦が決まった時から、今期の王将戦七番勝負は異様なほどの注目を集めた。何といっても羽生九段の久方ぶりのタイトル挑戦だ。しかも挑戦者決定リーグを6戦全勝で勝ち抜いたことが周囲を驚かせた。王将戦の挑戦者決定リーグは毎期強豪がひしめく修羅場になるが、今期のリーグ戦も渡辺明名人・永瀬拓矢王座のタイトルホルダー、豊島将之九段・糸谷哲郎八段のA級棋士に、近藤誠也七段・服部慎一郎五段の若手の精鋭が加わった。このメンバーを見ただけでも勝ち上がるのは相当にタフなことと思われたが、この強豪ひしめくリーグ戦を最年長・52歳の羽生九段が全勝で勝ち抜いたのだ。

羽生九段は前期、A級陥落・勝率が初めて5割を割り込むというデビュー以来の不調にあえいだ。ここからいかにして復調したかは定かではないが、とにかく永世七冠・十九世名人資格者・名誉NHK杯選手権者は蘇り、2020年度の竜王戦以来の番勝負登場となったのだ。

対する藤井王将。現在は王将位とともに竜王・王位・叡王・棋聖の五冠を保持している。棋王戦でも渡辺棋王に挑戦中で、先日はその五番勝負の第1局を制した。順位戦でも今期ついにA級に昇級してトップを並走し、初の名人挑戦も視野に入れている。今や棋界初の八冠独占はいつ達成されるのかが最大の関心事だ(「いつ」というのがすごいこと。「全冠制覇」はこの人にとっては時間の問題だろうと思われているのだ)

【 雌伏の時を経て、前人未到のタイトル通算100期達成なるか 】

しかし何より今回の王将戦が注目されているのは、「羽生九段のタイトル通算100期がついに達成されるか」に関心が集まっているからだ。2017年度の第30期竜王戦で渡辺竜王から竜王位を奪取し、タイトル通算99期を達成するとともに、竜王位が通算7期に達して「永世竜王」の称号を得た。これにより当時の全7タイトルすべてで永世・名誉の称号を得たことになり、永世七冠が達成された。この年の秋、囲碁の井山裕太七冠とともに国民栄誉賞を将棋界で初めて受賞した。

この時、私を含め多くの将棋ファンは「羽生さんのタイトル通算100期が達成されるのは時間の問題だろう」と思っていた。ところがこの後、2018年度の名人戦(挑戦)、棋聖戦(防衛)で相次いで敗退。最後の1冠となった竜王戦でもフルセットの末広瀬章人八段に敗れ、1990年度の棋王獲得以来27年ぶりの無冠となった。その後2019年度はタイトル戦での番勝負への登場が31年目ぶりに途切れ、2020年度は竜王戦で挑戦者となったが、豊島竜王に敗れて復位はならなかった。そして翌2021年度のA級順位戦では不調にあえぎ、名人9期を含め29期連続で在籍(史上4位タイ)していたA級からの陥落が決まった。

「レジェンド・羽生九段といえども年齢的な衰えは隠せないのか」多くのファンが落胆したに違いない。私自身、「史上3人目の中学生棋士」ということでデビュー当時から注目していたし、かの「伝説の5二銀」もリアルタイムで目撃している(この絶妙手と、この時の解説の米長邦雄九段(当時)の「オオーッ、やった!」という叫び声と、聞き手の永井英明さん「すごい手だな、何ですかこれは」といううめき声は、「我が忘れじの3点セット」として、未来永劫我が脳裏から消えることはないだろう)。その後の七冠全制覇や十九代名人資格の獲得など、「羽生時代」は長きにわたって続いた。しかし過去に棋界を制覇して一時代を築いた大棋士たちと同様、羽生時代にも終焉の時がやってくる。4人目の中学生棋士・渡辺名人を筆頭とする下の世代の台頭、そして稀代の天才、5人目の中学生棋士・藤井聡太五冠の登場である。

このような流れの中、今回の羽生九段の挑戦者決定リーグ6戦全勝・王将挑戦は、「ついに羽生さんにも衰えの時が来たか」という世間の風評を吹き飛ばす快挙だった。世の注目度はがぜん跳ね上がり、第1局から前夜祭や大盤解説会への申し込みが殺到したという。そして先日七番勝負の第4局が終了し、羽生九段が勝って2勝2敗のタイに戻した。残りの「三番勝負」、どんな結果が待っているのか。

今期の王将戦七番勝負での羽生九段の戦いぶりには、他のプロ棋士の方々も感嘆の息を漏らしているようだ。第2局で指した手を解説の稲葉陽八段「異次元の手」と驚嘆し、第4局では解説の佐々木大地七段「戦型選択と踏み込みがすばらしい」と絶賛している。全体的に果敢で積極的な指し手が多く、32歳年少の王将に挑むレジェンドの意気込みが感じられる。

【 番勝負の先手番で驚異的な強さを誇る藤井王将:羽生九段の「サービスブレーク」なるか 】

さて、次局の第5局は藤井王将の先手番である。藤井五冠は番勝負での先手番で圧倒的に強く、この第3局を制した時点で通算で22勝1敗という驚異的な戦績を残している。私は先の第4局で「羽生さん勝ってくれ〜!」と祈り続けていたのだが、それは次の第5局が藤井王将の先手番だからだ。もし第4局で羽生九段が敗れていたら、藤井王将が圧倒的に強い先手番を1勝3敗のカド番で迎えることになり、一気に敗退濃厚な空気になってしまっていただろう。しかしそのプレッシャーがかかったであろう第4局を、羽生九段は駒損覚悟で果敢に攻め、藤井王将の珍しい読み違いもあって、2日目の夕食休憩前に終局という羽生九段の快勝譜になった。これで2勝2敗のタイ、勝負は残り三番勝負にもつれこむことになった。

ここで注目すべきは、藤井王将が七番勝負の第4局の時点でタイに追いつかれたのは初めてという事実だ。藤井五冠は過去の七番勝負ではフルセットにもつれたことは一度もなく、4連勝と4勝1敗がそれぞれ3回、4勝2敗が1回(3勝1敗のあと唯一の2敗目を喫したが、次局で勝って防衛)と盤石の強さを見せている。番勝負の中盤を迎えてなお優勢に立てていないという初めて経験する現状を、若き五冠王はどう感じているのか。加えて、第4局で羽生九段に圧倒されて敗れたのも気になる。1日目の封じ手を、2時間24分を費やしたにもかかわらず「間違えてしまった」「読みの精度が足りなかった」と振り返ったが、詰将棋の天才であり、めったなことでは読み間違いをしない藤井王将がこんなコメントをするのは珍しい。この稀代の天才棋士も、「羽生マジック」の魔術に翻弄されつつあるのだろうか。

第5局は約2週間後の2月25・26日。過去4局ではすべて先手番が勝っており、テニスで言えばサービスキープが続いている状況だ。それだけに、この第5局は注目度極大である。もし羽生九段が「ビッグサーバー」藤井王将の先手番を「ブレーク」すれば、3勝2敗で王手がかかるし、次局は羽生九段の先手番なので「奪取」の機運がグッと高まる。それは両対局者とも十分にわかっているだろうから、第5局はまさに正念場になる。全国の将棋ファンの皆さん、再来週の週末はどこにもお出掛けせず、家に籠って王将戦第5局に刮目しよう!
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2021年01月25日

「広く浅く」人間の自分/幅広い好奇心? ただの器用貧乏?(5)将棋

【 将棋:日本が世界に誇る、すばらしき伝統文化/すばらしき将棋界 】

 私の郷里は山形県だ。山形には、全国の将棋駒の9割以上を生産する「将棋駒のふるさと」天童市がある。天童温泉の老舗「滝の湯ホテル」では、名人戦などのタイトル戦が昔から何度も行われてきたし、毎年恒例の「人間将棋」も、将棋ファンの大きな注目を浴びるイベントだ。

 こういう地理的な条件もあって、山形の子供たちの多くは当たり前に将棋を指す。かく言う私も例外ではなく、小学4年ころから新聞の将棋欄を読み始め、クラスの友だちと将棋を指し始めた。6年の時は学校の将棋クラブに入って他のクラスの子たちとも対戦したし、休み時間にクラスの子たちと指すのもしょっちゅうだった。NHK教育(当時)の「NHK杯将棋トーナメント」を観始めたのもこの頃だったと思う。

 中学に入るとさらに熱が入り、自分で詰将棋の問題を作ったり、将棋の定跡本を買い込んで研究し、クラスの強い奴に挑んだ。…ただやっぱり「ノーコン人間」なので、すごく強くなるまでのめりこむことはなく、受験勉強が忙しくなると、将棋を指すことからも遠ざかっていった。

 それでもNHK杯は時々観ていたし、新聞の将棋欄も観て、将棋界の動きからは目を離さなかった。当時は大山康晴十五世名人から中原誠名人に覇権が移っていた頃で、これに米長邦雄、加藤一二三、内藤國雄、有吉道夫、二上達也ら歴戦の猛者が挑むという構図になっていた。

 そこに現れたのが、史上2人目の中学生棋士・谷川浩司だった(1人目は加藤一二三)。「光速の寄せ」の異名を取った攻め将棋で将棋界を席巻し、史上最年少の21歳で名人の座に就いた(「名人位を1年間預からせていただきます」は名言だった)。このまましばらく「谷川時代」が続くかと思われたが、そこに彗星ごとくデビューした3人目の中学生棋士が、その後の将棋界を制覇し、その覇権は長きにわたって続いた。

 羽生善治。その名を全国に轟かせたのは、1988年度の第38回NHK杯だった。当時18歳の高校生だった羽生五段は、名人経験者4人(大山康晴・加藤一二三・谷川浩司・中原誠)を次々になぎ倒し、衝撃的な初優勝を飾った。とりわけ棋士たちや将棋ファンを驚愕させたのは、準々決勝の加藤九段戦。まだまだ終盤戦が続くと思われていた局面で、羽生五段が加藤陣に放った「5二銀」。解説の米長九段(当時)が「オオーッ、やった!」と叫び、聞き手の永井英明さんが「何ですかこれは、すごい手だな〜」とつぶやいた、NHK杯史上もっとも有名な一手だ(と、「将棋フォーカス」の講座で中村太地七段も語っていた)。この「伝説の5二銀」と初優勝で、「羽生善治」の名は将棋界で一気に全国区になった。

(ちなみにその何年後だったか、NHK・BSで将棋界の歴史をたどる2時間番組が放送された時、この5二銀が取り上げられ、解説の米長永世棋聖が「羽生さんのこの手そのものより、その時の私の叫び声の方が妙手だった」と語り、聞き手の清水市代女流四冠(当時)を大笑いさせていた)

 その後19歳で初タイトル(竜王)、23歳で初の名人位を獲得する。奪った相手の米長名人が、前年の名人就位祝賀パーティーで「来年の名人戦は『あれ』が出てくるんじゃないかと思うんですが」と語って来場者を沸かせたが、その「あれ」が本当に出てきて、米長名人が苦節7度目の挑戦で手にした宿願の名人位を、初挑戦でさらりと手にしてしまったのだ。

 その後の大活躍は周知のとおり。1996年には前人未到の7冠全制覇を達成。2017年には通算7期目の竜王位を獲得して永世竜王になり、叡王を除く7タイトルすべてで永世・名誉の称号を得る「永世7冠」を達成した。NHK杯でも通算11回の優勝で「名誉NHK杯選手権者」の称号を持っているので、これを入れれば「永世8冠」だ。

 通算タイトル獲得数は、名人9期(歴代3位)、竜王7期(同2位)、王位18期(同1位)、王座24期(同1位)、棋王13期(同1位)、王将12期(同2位)、棋聖16期(同1位)の計99期。このうち王座は19期連続、棋王は12期連続、棋聖は10期連続で保持しており、いずれも歴代1位だ。タイトルはどれか1つでも、1期でも獲得することがすべての棋士の願いなのだが、それを99期、しかも7つのタイトルで永世の称号を得る。こんな棋士は、少なくとも私が生きている間は現れることはないだろう。

 羽生さんの通算成績は、1,476勝624敗、勝率は7割3厘(2021年1月23日現在)。2,000局以上もの対局数で勝率が7割を超えるというのは驚異的だ(谷川浩司、佐藤康光、森内俊之といった歴戦の強豪ですら、通算勝率は6割1・2分なのだ)。

 この人の偉大さ、すごさ、持っている世界の広さ・深遠さについては、多くの方々が語り、著作を残している。私も何冊かの本を読み、いろいろなエピソードを目にし、耳にもしてきたが、ここでそれを書くには紙幅が足りないし、何よりも筆者の筆力が足りなすぎる。とにかく「すごい!」の一言なのだ。「羽生善治は史上最強の棋士である」。総合力で考えれば、これに異論のある人はほとんどいないだろう。

 この「羽生時代」は20年以上の長きにわたったが、現在はこの羽生さんでさえ無冠になり、群雄割拠の戦国時代の様相を呈している。一時は8つのタイトル(4年前に新タイトル「叡王」が誕生:2日制の7番勝負)の保持者がそれぞれ異なるという「乱世」だったが、現在は渡辺明三冠(名人・王将・棋王)、豊島将之二冠(竜王・叡王)、藤井聡太二冠(王位・棋聖)、永瀬拓矢王座の4人がタイトルを分け合っている。

 今の私の注目は、@羽生さんのタイトル通算100期はいつ達成されるか、A藤井(聡)二冠のA級昇級・名人位獲得はいつか、Bここ数年とみに実力をつけてきた女流棋士、特に里見香奈女流四冠西山朋佳女流三冠のお二人の活躍だ(西山さんが女流棋士で初の奨励会三段リーグ突破・四段デビューなるかも大注目だ)


 ところで、子供の頃から見てきた将棋だが、あの頃も、そして今でも、「すごいな、どうしてあんなことできるんだろう」と思うことがある。それは感想戦だ。たとえばNHK杯で対局終了後に行われる感想戦。司会の女流棋士の方が「では、仕掛けの局面からお願いできますか」と言うと、両対局者がためらいもなくササッと駒を並べ替え、その局面を寸分違わず再現してしまう。これが私には信じられないのだ。「どうして二人ともこんなに正確に局面を覚えてるんだ? プロ棋士の頭の中ってすごいんだな〜」これが子供の頃から今に至るまで、ずっと抱いてきたプロ棋士に対する驚愕と尊敬の念だ。

 もっともこれは、私の棋力が足りないだけなのかとも思う。アマチュアの強豪から将棋教室で習っている子供たちまで、けっこう頻繁に将棋を指す人ならできることなのかもしれない。要するに「強くなりなさい」ということだ。藤井二冠の登場で将棋人気がスパークし、「観る将」ファンが急増しているそうだが、やっぱり「指す将」もやりたい。今の私の棋力は、持っている詰将棋の本からするとアマ4〜5級程度なのだが(これじゃ感想戦なんかできるわけがない 苦笑)、できればアマ初段を取りたい。元乃木坂46のメンバーで、将棋親善大使に任命された伊藤かりんさんは、「将棋フォーカス」のMCを4年間勤め、アイドル活動も続けるという多忙の中、見事アマ初段を獲得した(アマ初段最終試験で森内俊之大先生に二枚落ちで勝ったのはすごかったな〜)。私もかりんさんを見習って、「60代初段」を目指そう! まずは詰将棋と、パソコンの将棋ソフトでの対局をコンスタントにやること、この2つだな。

 日本が世界に誇るべき伝統文化・将棋。その対局風景だけで、日本文化の美しさ・形式美が凝縮している。そして棋士たちの静かなたたずまいと、81升の盤上で繰り広げられる激しい戦いとのコントラスト。将棋そのものがゲームとして面白いのに加え、プロ棋士の方々が織りなす将棋界もすばらしく魅力的だ。観るもよし、指すもよし。私は両方ともやりたい。これからはもっと積極的にこの世界と関わり、その魅力を味わい尽くしたいと思う。

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2019年03月18日

羽生善治九段、NHK杯11度目の優勝:平成最初と最後の優勝をともに手にしたこの人は、やはり依然将棋界の第一人者!

第68回NHK杯将棋トーナメントは決勝戦が行われ、羽生善治九段が郷田真隆九段を破り、通算11度目の優勝を果たした。平成最後の今大会を制した羽生九段は、平成最初の第38回でも優勝している(この時が初優勝)。時代の最初と最後をともに優勝で飾るとは、やはりこの人は「持っている人」だし、こういうドラマチックな展開には最もふさわしい人だな、と改めて思った。

思えば今大会は、長年将棋界をリードしてきたベテランの活躍が目立った。大会最年長の谷川浩司九段が2回戦でA級棋士・稲葉陽八段を破り、森内俊之九段は準々決勝で勢いに乗って勝ち上がってきた三枚堂達也六段を下した。丸山忠久九段は2回戦で斎藤慎太郎王座を破り、3回戦では前年の覇者・山崎隆之NHK杯を下した。郷田九段は準々決勝で、竜王位を獲得したばかりの絶好調・広瀬章人竜王を退けた。そして羽生九段も、3回戦で菅井竜也七段、準々決勝で前年に棋聖位を奪われた豊島将之王位・棋聖を破った。準決勝の組み合わせは、羽生九段VS丸山九段、森内九段VS郷田九段という、いわゆる「羽生世代」が占め、将棋ファンにとってはたまらない、平成最後を飾るにふさわしい重厚な顔ぶれになった。

私は準々決勝から羽生九段の対局を観ていたが、決勝戦を控えて、「平成最後はやっぱりこの人に締めてほしいな。思えば平成最初の優勝も羽生さんのあのドラマチックな優勝だったし。無冠になったとはいえ、まだまだ将棋界の第一人者はこの人なんだということを見せてほしいな」と願っていた。

(「あのドラマチックな優勝」とは、平成元年・第38回大会で、当時五段だった羽生さんが、大山康晴十五世名人・加藤一二三元名人・谷川浩司名人・中原誠前名人と、名人経験者を次々に破って初優勝を遂げ、羽生さんの華々しい「全国デビュー」となったメモリアルな優勝のこと。準々決勝の加藤戦で放った「伝説の5二銀」とともに、我が脳裏に強く刻まれている)



さて、始まった決勝戦。大流行の角換わりになったが、とにかく盤上の展開が速く、鋭い。ともに40代後半の、将棋界では大ベテランだが、盤上では、わずかなスキも逃さない鋭さを秘めた、最新形のスピーディーな将棋が展開している。両者とも深い研究によって、最先端の流行戦法を熟知していることが盤上からも伝わる。またそうでなければ、この変化の激しい世界でトップクラスに君臨し続けることはできないのだ。

将棋は、中盤で羽生九段が敵陣に放った摩訶不思議な「4三歩」の対処に郷田九段が苦慮し(解説の佐藤康光九段・日本将棋連盟会長も「狙いが全くわからない」と首をひねるばかり)、その後は互いの攻め合いの中で、じわじわと形勢が羽生九段に傾いていった。そしてまだまだ終盤戦が続くと思われた状況で羽生九段が放った「3五桂」が詰めろになり、これを郷田九段は角を捨てて払わざるを得ず、一気に羽生九段の勝勢になった。「4三歩」と「3五桂」。久々に「羽生マジック」を目の当たりにし、「やっぱり羽生さんはすごいな」と改めて唸らされた。

これで羽生九段は11度目の優勝。NHK杯では唯一「名誉NHK杯」の称号を持つ羽生さんが、さらに実績を積み上げた。若手に有利と言われる早指し戦で最多の11度目の優勝を飾ったことで、まだまだ羽生九段の牙城は崩れていないことをまざまざと見せつけた。タイトルは無冠となってしまったが、「NHK杯選手権者」の称号を手にした羽生九段。私はもちろん、多くの将棋ファンが願っていること:「早くタイトルを奪還して無冠を返上してほしい。」その日を楽しみに待とう。


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2017年07月09日

勝って驕らず、負けて潔し 〜将棋界の超新星・藤井聡太四段〜

昨年12月のデビュー以来、破竹の29連勝で将棋界の連勝記録を30年ぶりに更新した14歳の中学3年生・藤井聡太四段彼の成し遂げたことがどれほどすごいことか、ここで改めて振り返ってみよう。


【1】14歳2か月:史上最年少のプロ棋士誕生

中学生でプロになった棋士は藤井四段で5人目。過去の4人は、加藤一二三九段、谷川浩司九段(十七世名人)、羽生善治三冠、渡辺明竜王・棋王という、いずれも一時代を築いた名棋士である。この中でも藤井四段は、最年少の14歳2か月。当然「この4人のような歴史に残る棋士になってほしい」という期待が寄せられてはいたのだが・・・。


【2】11連勝で、デビュー以来の連勝記録を塗り替える

デビュー戦で加藤一二三九段を破り(棋界最年少と最年長、「年齢差62歳の対戦」と話題を呼んだ)幸先いいスタートを切る。4月4日の王将戦予選で小林裕士七段を破って11連勝を達成し、それまでのデビュー以来の連勝記録を塗り替えた。このころから羽生三冠のデビュー時との比較が語られ始める。「羽生さんは序盤の劣勢を終盤力で逆転することが多かったが、藤井四段は序盤からスキがなく、終盤も寄せのスピードが速く、完成度が高い」。


【3】圧倒的な終盤力を支える詰将棋:詰将棋解答選手権で3連覇

連勝を続ける中、藤井四段は詰将棋解答選手権のチャンピオン戦に出場。これはA級棋士の行方尚史八段広瀬章人八段など、プロのトップ棋士も出場する最高難度の大会なのだが、何と藤井四段は奨励会員だった2年前(小学6年生)からこの大会を連覇していた。そして今回も優勝して3連覇を達成(しかもその解答スピードも他を圧倒していた)。先輩棋士たちが脅威を覚える終盤力は、詰将棋で培われたものだったのだ。


【4】そしてついに29連勝、30年ぶりの記録更新

6月26日、竜王戦決勝トーナメント1回戦。対戦相手は19歳の増田康宏四段棋界唯一の10代同士の対局を藤井四段が制し、神谷広志八段が1987年に達成した28連勝を30年ぶりに更新した。29連勝はとてつもない記録だが、それをデビューしたての新人棋士、しかもまだ中学生の14歳の少年が、デビュー以来無敗で達成してしまうとは! 小説や漫画にしたら荒唐無稽すぎて成り立たないようなドラマを現実に見せつけられた、世間の驚きは尋常ではなかった(毎日新聞は、28連勝と29連勝の記事をともに朝刊の1面トップに掲載した)


【5】周囲の喧騒に惑わされない、「14歳の『尋常ではない』落ち着き」

デビュー以来無敗で勝ち続けたことも驚きだったが、それと同じぐらいに驚き、かつ感銘を受けたのは、藤井四段の「尋常ではない落ち着き」だった。デビューそのものが「史上最年少棋士」として騒がれ、その初戦が「ひふみん」の愛称で親しまれる加藤九段との「最大年齢差」対戦。そこから連勝が続き、勝つごとに周囲の喧騒が大きくなる。しかし当の本人は、「ここまで連勝できたのは望外の結果でした」と、大人びた落ち着いたコメントを残した。それは29連勝達成の時も変わらず、「この連勝もいつかは終わる。記録のことは考えず、一局一局全力を尽くして指していきたい」と語った。驚異の連勝記録は、周囲の喧騒から超然としているようなこの落ち着きがもたらしたものなのかもしれない。


【6】ついに連勝ストップ:その瞬間に見せた潔さにまた感銘

しかし本人がコメントした通り、その連勝もついに止まる時が来た。7月2日、竜王戦決勝トーナメント2回戦、佐々木勇気五段戦。当日は東京都議会議員選挙の投票日で、私はNHKの開票速報番組に釘付けになっていたのだが、その最中にテレビ画面の上部にテロップが流れた。「藤井四段敗れる 連勝29でストップ」(確かこんな感じ)

私は彼が連勝を続けていたころ、思っていたことがあった。「この連勝もいつかは止まる。その時彼がどんな態度を見せるのか。そしてその後どうなるのか」。負けた瞬間に悔しさをあからさまに見せたりしないだろうか、さらにそのあと反動で連敗したりしないだろうか。神童とはいえまだ14歳、こういう懸念を消せなかったのだ。

しかし後日のニュースで彼の「プロ初投了」の映像を観た時、安堵とともに感銘した。藤井四段は勝った時と全く変わらない落ち着いた態度で、「負けました」と潔く頭を下げたのだ。この態度から察するに、「この時」への心の準備、覚悟はできていたのだろうが、それにしても潔い、見事な投了だった。「勝って驕らず、負けて潔し」。美しい光景を見た。将棋界のすばらしい伝統が、この新人離れしたニューカマーにもしっかりと受け継がれているのだ。

そしてその初黒星から4日後の順位戦・C級2組。藤井四段は中田功七段に勝ち、順位戦2連勝を飾った。大連勝が止まったあとの反動を心配していたのだが、そんな周囲の懸念をよそに、しっかり勝ち切った。負けを引きずらずに、すぐにいつもの自分に戻ることができる。このセルフコントロール力も、彼の強さの要因の一つなのだろう。


驚異の最年少棋士・藤井聡太四段。目下30勝1敗、今期の最優秀新人、そして最高勝率はほぼ確定だろう。今後各棋戦でどんな活躍を見せてくれるのか、そしてどんな奇手・妙手を披露してくれるのか。楽しみは尽きない。


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