【 W杯2019日本大会:日本代表の快挙+世界最高峰の戦いの数々で大成功 】
こうしてラグビー観戦の楽しみがさらに増したところでやってきた、ラグビーワールドカップ日本大会。会場に観に行く時間が取れそうになかったので観戦チケットはもとから諦めていたが、せっかくの機会なのでテレビ観戦だけではもったいないと思い、有楽町のファンゾーンにはかなり足繁く通った(ただ肝心の日本戦は、テレビ観戦の方がいい結果が出たので、ゲン担ぎで5戦とも自宅で観た)。
あの全国で巻き起こったすさまじい盛り上がり、熱狂の渦の最大のエナジー源は、やはり日本代表の予選プールでの4戦全勝だ。戦前の大方の予想、そして私自身の予想も、「第2戦のアイルランド戦は勝つのが難しいだろう。ロシアとサモアに勝ち、最終戦のスコットランド戦に勝てれば、2位で予選プールを突破できるのではないか。ただし4年前の教訓があるので、勝ちゲームで4トライ以上を取ってボーナスポイント(BP)1を得ることが必須だ」だった。
「4年前の教訓」:2015イングランド大会で、日本代表は初戦で南アフリカを破るという「史上最大のジャイアントキリング」をやってのけ、サモアとアメリカにも勝って3勝1敗というかつてない好成績を挙げた。しかし各試合のトライ数が少なくBPを獲得できなかったため、同じ3勝1敗の南アフリカとスコットランドに勝ち点で及ばず、予選プール敗退となった(3勝を挙げながらの予選敗退はW杯史上初)。
このほろ苦い教訓を胸に、日本代表は史上初の決勝トーナメント進出に挑んだ。初戦のロシア戦は4トライで快勝。次戦の当時世界ランク2位のアイルランド戦は、劣勢を跳ね返してまたもジャイアントキリング。第3戦のサモア戦は、後半残り7分から2トライを挙げ、執念でBP1を奪い取った。そして最終・スコットランド戦。目にも鮮やかなトライの連続でまたもBP1をものにし、最終盤のスコットランドの猛攻を”ONE TEAM”になって防ぎ切った。全勝で予選プールをトップ通過・決勝トーナメント進出。これは失礼ながら「想定の範囲外」の快挙だった。お見事としか言いようがない。
しかし大会を盛り上げたのは、日本代表の活躍だけではない。世界中に熱狂的なファンを持ち、最多3回の優勝を誇る「オールブラックス」ことニュージーランド。4年前の日本代表に大躍進をもたらしてくれた、名将エディー・ジョーンズ率いるイングランド。「ワラビーズ」の愛称で親しまれる、過去2回優勝のオーストラリア。強靭なフィジカルを活かしたプレーを得意とする、同じく過去2回優勝の「スプリングボクス」南アフリカ。これら世界の強豪チームの世界最高峰の舞台での戦いぶりは、海外からやってきた各国のラグビーファンのみならず、ラグビーに疎かった日本の人たちをも熱狂させ、全国に多くの「にわかファン」が生まれた。
ファンゾーンでも、試合中の盛り上がりはもちろん、会場のあちこちで行われていたさまざまなイベントも楽しかった。この中でも特に楽しかったのが、オールブラックスの試合前の踊り「ハカ」の実演コーナー。実は私は、このハカの「カ・マテ」をほぼ完璧に演じることができる。1991年の第2回W杯の時、NHKがこの大会のハイライト番組を放送し(日本が記念すべきW杯初勝利を挙げたからだろう。もちろん録画した)、その中で「カ・マテ」が紹介されたのだ。私はこれにのめり込み、何度も再生して動きを覚えた。だから実演コーナーで「できる人いますか?」と講師の人がお客さんたちに聞いてきた時、”Yes!”と手を挙げなかったことを今でも後悔している(笑)。
オールブラックスの「ハカ」には、実はもう1つのパターンがある。「カパ・オ・パンゴ」といい、大事な試合の時に行われる踊りだ。実際この大会でも、予選プールの初戦でいきなり強豪の南アフリカと対戦した時、この「カパ・オ・パンゴ」をやっていたし、決勝トーナメントの準々決勝、準決勝も「カパ・オ・パンゴ」だった。私にとってもっとも強烈に印象に残ったのは、2015年イングランド大会決勝、ワラビーズと対面してオールブラックスが行った「カパ・オ・パンゴ」。フィフティーンの作るトライアングルの先頭に立つリッチー・マコウ主将のパフォーマンスの、ものすごい迫力!これにすっかり魅了された私は、当然録画していたこの試合のこの「カパ・オ・パンゴ」を何度も見返し、今ではほぼできるようになった。
(新型コロナウイルスの蔓延で外出がままならない人が多くなった今、運動不足を補うために、家の中でできるさまざまな運動がメディアで取り上げられている。これでふと思ったのだが、この「ハカ」もいい運動になるんじゃないか。「カ・マテ」も「カパ・オ・パンゴ」も、なかなか迫力のある動きだし、手足も腰もよく動かす。何より楽しいし、気合も入り、元気になる。「運動不足解消のためのハカ・パフォーマンス」。これはお薦めだ!)
【 「紳士のスポーツ」ラグビーに栄光あれ! 】
おっと、「ラグビー戯れ言」はここまでにしておこう。こうしてワールドカップ日本大会は、日本代表の大活躍と世界最高峰の戦いの数々とが相まって空前の盛り上がりを見せ、大成功を収めた。その後もトップリーグの試合には多くの観客が詰めかけ、W杯でのファンの熱気は続いてくれているようだ。
コロナ騒ぎのおかげでトップリーグもスーパーラグビーも中断となり、プレーする人もそれを観る人も、ラグビーに触れる機会が失われている。しかしせっかく灯ったラグビーへの熱意の炎は消えてほしくない。
(トップリーグは1月から再開されることになった。来季からはプロリーグとして発展解消することになっている)
もう20年以上も前になるが、年上の友人に「ラグビーの面白さって何?」と聞かれた私はこう答えた。「プレーの連続性ですね。タックルを受けて倒れても、そこからまたプレーが続く。あと、ちょっとしたミスですぐボールが奪われ、攻守が入れ替わってしまうのも見ごたえがあります。とにかく試合の動きが目まぐるしいので、観ていてすごくスリリングで、グッとのめり込んでしまって目が離せなくなるんですよ。」
しかし観る者にとってはすばらしくエキサイティングだが、プレーする側にとってはこれほどハードなスポーツはない。鋼のような肉体の男たちが、アメフトのようなヘルメットやプロテクターもつけずに、正面からぶつかり合うのだ(今はマウスピースや肩パットはつけるようになったが)。トップスピードで走ってくる相手の足や体に飛びついて、そのパワフルな突進を阻止せんとするのだ。「あんなのとぶつかったら脳震盪やムチ打ちになっちゃうんじゃないか」「あんなガタイで、あんなスピードで走る奴にタックルに行ったら、膝で跳ね返されて歯が折れたり鼻がつぶされたりするんじゃないか」なんて思ってしまい、それをやってのけるラガーマンの勇気と敢闘精神にはまったく頭が下がる。これほどハードなスポーツだから、W杯での試合間隔も最低3日開いており(普通は1週間程度)、その分大会期間が長くなって、ファンにとっては長きにわたって楽しむことができた。
ラグビーを観ていてすごく魅力的だなと思うのが、選手たちの相手へのリスペクトだ。試合後、両チームのフィフティーンが互いに列を作って相手チームを拍手で称えるあの姿は、ラグビーの「ノーサイド精神」をもっとも象徴するシーンだろう。「美しいなあ」と感激して観ていたのは私だけではあるまい。
レフェリーに対する選手たちの態度も極めて紳士的で、判定に食ってかかる選手などほとんどいない(いたらイエローかレッドを食らう)。そしてレフェリーも、常に冷静沈着に、毅然としたレフェリングをする。このキリッと締まった試合の雰囲気が私は大好きで、これがラグビーを観続けている理由の1つだ。
この選手たちやレフェリーの紳士的な態度に影響を受けているのだろう、観客たちのマナーもいいのがラグビーだ。ラグビーではサッカーのように、応援するチームごとにサポーターのエリアを区切るようなことは全くしない。オールブラックスとスプリングボクスのファンが隣り合わせで観戦するのが当たり前なのだ。これがサッカーならたちまちあちこちでケンカ騒ぎになってしまうが、ラグビーではそれが起こらない。PGやコンバージョンの場面でも、キッカーをヤジるようなことは一切しない。このピッチ内外での選手たちや観客の紳士淑女的な振る舞いを、試合会場で、またファンゾーンやテレビで観て感激した日本の人たちも多かっただろう。これも多くの「にわかファン」を生むことにつながったと思う。
激しくもジェントルなラグビーの世界。こんなすばらしいスポーツなのだから、もっともっと日本に広まってほしい。競技人口も観客数ももっと増えてほしい。コロナ騒ぎが収まったら、私もまた秩父宮に観戦に行きたい(無観客になってしまって現地で観れなかったが、本当は年末年始には、高校ラグビーの聖地・花園に記念すべき第100回大会を観に行きたかった)。そしていつかはニュージーランドに行き、世界最強チームを生み出したその土壌、「ラグビー文化」を肌で味わいたい。NZの人たちと「カ・マテ」や「カパ・オ・パンゴ」で盛り上がりたい。そしてぜひ、プレースキックをやってみたい(その時のルーティンは、五郎丸歩と今泉清だな)。これが今の私の「ラグビー・ドリーム」だ。
2021年01月12日
2021年01月11日
「根無し草人生」を支え、生き永らえさせてくれた「我が大好物たち」(2)スポーツ:ラグビー・1
【 ラグビー 】
大会前の予想をはるかに上回る盛り上がりを見せた、ラグビーワールドカップ2019日本大会。40年来のラグビーファンである私にとっても、多くの人たちがラグビーで盛り上がってくれているのを見てとてもうれしかった。
私がラグビーを初めてテレビで観たのは、中学か高校の頃だったと思う。観たのはたぶん関東大学ラグビー対抗戦・早稲田VS明治。最後に早稲田が右へのオープン攻撃でパスをつなぎ、右隅に逆転トライを決めたのを覚えている。これが我がラグビー最古の記憶だ。
それ以来、毎年冬のラグビーTV観戦は私の定番になった。12月第1日曜の早明戦(のちに早慶戦や慶明戦も観るようになった)、新年1月2日の大学選手権準決勝、その後の大学選手権決勝、そして1月15日(当時)の日本選手権決勝(当時は大学王者VS社会人王者の対決)。ラグビーはなかなかルールが複雑なのだが、何度か観ているうちにわかるようになり、だんだん目が肥えてきた。「あ〜、ノックオンだ」「あっ、今のパスはスローフォワードじゃないか?」「あ〜ダイレクトタッチだ、蹴った地点に戻されちゃうな」「ああ、これでボールをすぐ出せないとノットリリースザボールを取られるぞ」などなど。
【 ルール変更によりプレーがより攻撃的に 】
かつてトライが4点だった頃は、敵陣でペナルティの判定が出ると場内がワッと沸いた。PG(ペナルティゴール:決まれば3点獲得)を狙うのを期待する歓声だ。かなりの労力と時間を要するトライよりも、1点しか違わず比較的決まりやすいPGを狙うことが多かったのだ(トライ後のコンバージョンキックが決まれば計6点になるが、トライは隅に決まることが多いので、コンバージョンの角度がきつくて決まりにくいのだ)。さらに当時はペナルティをもらってタッチキックを蹴っても相手ボールラインアウトになるルールだったので、敵陣深くまで攻め込むのが大変だったのだ。
加えて、当時は密集からなかなかボールが出なくてもレフェリーがすぐには笛を吹かず、密集プレーの時間が長かった。ランニングラグビー・展開ラグビーをこよなく愛する私としては、あくびが出そうな長い密集プレーは見ていて退屈で、「さっさとボール出せよ」とテレビ画面に向かって毒づいていた(だから早明戦ではいつも、「前へ」の明治より「荒ぶる」早稲田を応援していた)。
しかし1993年からトライが5点になり、ペナルティをもらってタッチキックを蹴るとマイボールラインアウトになるようにルールが変更になった。これがプレーの選択に大きな変革をもたらした。
まず敵陣でペナルティをもらった場合、これまでならPGを狙っていたのが、タッチキックを蹴って敵陣深く入りこみ、マイボールラインアウトからドライビングモールを組んでトライを狙う、という攻撃パターンがかなり増えた。その攻撃中にペナルティをもらっても、再度タッチキックを蹴り、マイボールラインアウト〜ドライビングモール〜トライ狙いという攻撃パターンを繰り返す。これは敵陣10mラインあたりのゴールから遠い位置でのペナルティの場合はもちろん、ゴール正面・22mライン上のような、PGでほぼ確実に3点取れるようなケースでも、トライが5点になってからは、上記のパターンでトライを狙うことが増えた。これは観る側にとっては、よりプレーがアグレッシブ&スリリングになるので大歓迎だった。
またかつては退屈の極みだった密集プレーも、レフェリーの笛が早くなり、密集になるとレフェリーが"Use it! Use it!"と言って早く球を出すよう促すことが多くなった。ボールホルダーが突っ込んで密集になり、アンプレアブル(密集からボールが出せない状態)になると相手ボールに変わることも多くなった。これはプレーの流れを速くスムーズにするための改正で、これも試合をよりスピーディー&エキサイティングにしてくれた。
この改正のおかげか、我が「ラグビー・アイ」がさらに肥えてきたのか、かつてはあくびが出る思いで観ていたモールやラックも、だんだん面白くなってきた。これは帝京の大学選手権連覇が始まった頃だったと思うが、タックルを受けて密集になった時、相手ディフェンスの突っ込みと味方のサポートとのせめぎ合いがすさまじく、ちょっとでもサポートが遅れるとすぐボールを奪われてターンオーバーになる。屈強な男たちの密集でのぶつかり合い、ボールの争奪戦は迫力満点・スリル満点。プレーがスピーディーになったことで密集プレーの魅力が格段に増し、ラグビー観戦の楽しみの幅がグンと広がった。
(ラグビー・2に続く)
大会前の予想をはるかに上回る盛り上がりを見せた、ラグビーワールドカップ2019日本大会。40年来のラグビーファンである私にとっても、多くの人たちがラグビーで盛り上がってくれているのを見てとてもうれしかった。
私がラグビーを初めてテレビで観たのは、中学か高校の頃だったと思う。観たのはたぶん関東大学ラグビー対抗戦・早稲田VS明治。最後に早稲田が右へのオープン攻撃でパスをつなぎ、右隅に逆転トライを決めたのを覚えている。これが我がラグビー最古の記憶だ。
それ以来、毎年冬のラグビーTV観戦は私の定番になった。12月第1日曜の早明戦(のちに早慶戦や慶明戦も観るようになった)、新年1月2日の大学選手権準決勝、その後の大学選手権決勝、そして1月15日(当時)の日本選手権決勝(当時は大学王者VS社会人王者の対決)。ラグビーはなかなかルールが複雑なのだが、何度か観ているうちにわかるようになり、だんだん目が肥えてきた。「あ〜、ノックオンだ」「あっ、今のパスはスローフォワードじゃないか?」「あ〜ダイレクトタッチだ、蹴った地点に戻されちゃうな」「ああ、これでボールをすぐ出せないとノットリリースザボールを取られるぞ」などなど。
【 ルール変更によりプレーがより攻撃的に 】
かつてトライが4点だった頃は、敵陣でペナルティの判定が出ると場内がワッと沸いた。PG(ペナルティゴール:決まれば3点獲得)を狙うのを期待する歓声だ。かなりの労力と時間を要するトライよりも、1点しか違わず比較的決まりやすいPGを狙うことが多かったのだ(トライ後のコンバージョンキックが決まれば計6点になるが、トライは隅に決まることが多いので、コンバージョンの角度がきつくて決まりにくいのだ)。さらに当時はペナルティをもらってタッチキックを蹴っても相手ボールラインアウトになるルールだったので、敵陣深くまで攻め込むのが大変だったのだ。
加えて、当時は密集からなかなかボールが出なくてもレフェリーがすぐには笛を吹かず、密集プレーの時間が長かった。ランニングラグビー・展開ラグビーをこよなく愛する私としては、あくびが出そうな長い密集プレーは見ていて退屈で、「さっさとボール出せよ」とテレビ画面に向かって毒づいていた(だから早明戦ではいつも、「前へ」の明治より「荒ぶる」早稲田を応援していた)。
しかし1993年からトライが5点になり、ペナルティをもらってタッチキックを蹴るとマイボールラインアウトになるようにルールが変更になった。これがプレーの選択に大きな変革をもたらした。
まず敵陣でペナルティをもらった場合、これまでならPGを狙っていたのが、タッチキックを蹴って敵陣深く入りこみ、マイボールラインアウトからドライビングモールを組んでトライを狙う、という攻撃パターンがかなり増えた。その攻撃中にペナルティをもらっても、再度タッチキックを蹴り、マイボールラインアウト〜ドライビングモール〜トライ狙いという攻撃パターンを繰り返す。これは敵陣10mラインあたりのゴールから遠い位置でのペナルティの場合はもちろん、ゴール正面・22mライン上のような、PGでほぼ確実に3点取れるようなケースでも、トライが5点になってからは、上記のパターンでトライを狙うことが増えた。これは観る側にとっては、よりプレーがアグレッシブ&スリリングになるので大歓迎だった。
またかつては退屈の極みだった密集プレーも、レフェリーの笛が早くなり、密集になるとレフェリーが"Use it! Use it!"と言って早く球を出すよう促すことが多くなった。ボールホルダーが突っ込んで密集になり、アンプレアブル(密集からボールが出せない状態)になると相手ボールに変わることも多くなった。これはプレーの流れを速くスムーズにするための改正で、これも試合をよりスピーディー&エキサイティングにしてくれた。
この改正のおかげか、我が「ラグビー・アイ」がさらに肥えてきたのか、かつてはあくびが出る思いで観ていたモールやラックも、だんだん面白くなってきた。これは帝京の大学選手権連覇が始まった頃だったと思うが、タックルを受けて密集になった時、相手ディフェンスの突っ込みと味方のサポートとのせめぎ合いがすさまじく、ちょっとでもサポートが遅れるとすぐボールを奪われてターンオーバーになる。屈強な男たちの密集でのぶつかり合い、ボールの争奪戦は迫力満点・スリル満点。プレーがスピーディーになったことで密集プレーの魅力が格段に増し、ラグビー観戦の楽しみの幅がグンと広がった。
(ラグビー・2に続く)
2020年01月08日
桐蔭学園、念願の花園単独優勝・3冠達成! 〜第99回全国高校ラグビー・決勝〜
高校ラグビーの聖地・花園で行われる年末年始の風物詩・全国高校ラグビー。今年の決勝戦は、去年の春の選抜で3連覇、夏の7人制でも優勝し、「高校ラグビー3冠」そして初の花園単独優勝を狙う桐蔭学園(神奈川)と、初優勝を目指す御所実(奈良)の顔合わせとなった。
FW・BKのバランスが良く、多彩な攻撃パターンを持つ桐蔭学園は、FWに4人、BKにもSO伊藤とWTB西田の高校ジャパン候補を擁するタレント軍団だ。対する御所実は、今大会4試合で失点はわずかに10、喫したトライは1つのみという鉄壁のディフェンスを誇る。点の取り合いになれば桐蔭学園、ロースコアなら御所実と目された頂上決戦は、戦前の予想以上のスリリングな展開になった。
(個人的には、桐蔭学園の花園単独優勝を熱望していた。9年前の初優勝は、東福岡との両校優勝。この試合を私は記事にしたためているが(http://keep-alive.seesaa.net/article/179732344.html?1578475923)桐蔭学園の華麗なる展開ラグビー・ランニングラグビーに私は魅せられた。そしてこの「魅せるラグビー」の中心にいたのが、去年のラグビーW杯日本大会で5トライを挙げて大活躍した、FBの松島幸太朗だったのだ。最後の最後で追いつかれて単独優勝を逃し、観ている側も悔しかった9年前。準優勝5回の「シルコレ」を脱却し、スッキリと単独優勝させてあげたいと、いつにもまして注目していた)
【 桐蔭、らしからぬミスで連続失点:相手につき合いすぎた前半 】
前半、エリアを重視する御所実はキックを多用してくるが、桐蔭学園はキャプテンのSO伊藤が試合前「蹴り合いにはとことんつき合います」と言っていた通り、キック合戦になる。しかし4分、この蹴り合いで桐蔭学園がキャッチミス、御所実が敵陣深く攻め込む。そしてゴールライン5m地点でのラインアウトからドライビングモールを組み、一気に押し込んで先制トライを挙げた。FWの1人平均体重で2.5キロ上回る桐蔭学園のFW陣が、あっさりと崩されてしまった。
さらに15分、ロングキック合戦でまたも桐蔭学園がキャッチミスを犯し、22mライン上で御所実ボールのスクラム。FWの突進からBKに展開し、CTB谷中が桐蔭ディフェンスの間隙を突破して見事なトライを決める。FB石岡のコンバージョンも決まって14−0。桐蔭学園のミスを突いてすばやく得点につなげる、御所実の切れ味鋭い攻撃が光った。
しかしこの直後のキックオフで競り勝ちペナルティを得た桐蔭学園は、CTB桑田がPGを決め、3点を返す。テレビ解説の大畑大介氏が「14点リードされると、トライを取らなきゃいけないと気持ちが先走ってしまうものですが、60分を通して自分たちのラグビーをどのように展開するかを想定している」と述べたように、確実に点を取り返した桐蔭学園の冷静な判断はすばらしかった。
さらに前半終了間際、桐蔭学園は連続攻撃で敵陣深く攻め込むが、密集からの球出しで反則を犯し、攻撃を断ち切られる。しかし押されていた中で最後にかなり押し返した形で前半を終え、後半の反撃に希望が持てる展開になった。
【 桐蔭、ポゼッション重視に変換:突破力と展開力で連続トライ 】
後半、桐蔭学園は戦術を変える。キックの蹴り合いをやめ、キャッチしたBKがカウンターアタックを仕掛け、ボールを保持してつなげる戦法に転換してきたのだ。エリアよりポゼッションを重視する戦い方、これは桐蔭学園の持ち味である走力・展開力を生かせる戦法だ。大畑氏が「桐蔭は前半はエリアに意識が行きすぎて展開力を出せていなかった。御所実のラグビーにつき合っていた」と指摘したが、桐蔭フィフティーンもこれを十分にわかっていて、本来の「桐蔭のラグビー」に変えてきたのだ。
これが後半早々に功を奏する。6分、パスをつないで敵陣深く攻め込んだ桐蔭学園は執拗にFW戦を仕掛け、17のフェーズを経てLO青木がポスト左に飛び込む。さらに16分、ロングキックを自陣でキャッチしたSO伊藤がカウンター。御所実のDFラインを巧みなステップで突破して快走、ラストパスを受けたFB秋濱が右隅にトライ。ついに15−14と逆転に成功した。ゲスト解説のトンプソン・ルーク氏が「すごい試合になりましたね」とつぶやいた、スリリングな展開になった。
後半に入ってからペースを取り戻した桐蔭学園は、さらに攻勢を強める。23分、FW戦で16フェーズを重ねたのちに右に展開し、LO青木が絶妙のオフロードパス。これを受けたWTB西川が右隅にトライを決める。トンプソン氏が「ソニー=ビル・ウィリアムズみたいだ」と絶賛した青木のオフロードパスが、御所実を突き放す千金のトライにつながった。密集戦で相手守備陣を引きつけた後に大きく展開。FW・BKのバランスの良い波状攻撃を得意とする桐蔭学園の、持ち味を十二分に生かした鮮やかなトライだった。
(それにしても、2015年のW杯ではエディー・ジョーンズHCが日本代表に使用を禁止していたオフロードパスを、今は高校生ラガーが駆使している。日本のラグビーのレベルは格段に向上しているようだ)
しかし点差はまだ6点、1トライ1ゴールで逆転できる。それを断ち切ったのが27分、SO伊藤のドロップゴールだった。御所実陣22mライン内に攻め込み、SH島本からのバックパスを受けた伊藤が右足を一閃。楕円球は見事にポールの間を通過し、3点を追加。23−14、これでワンプレーでは逆転できない点差になり、残り時間を考えると「勝負あり」。常にこの試合の攻撃をリードしてきたキャプテン伊藤の、まさに「ウィニングDG」だった。
桐蔭学園、9年ぶり2度目の優勝、そして宿願だった初の単独優勝。2019年シーズンは、高校三冠を達成した「桐蔭学園Year」と言っていいだろう。攻守のバランスの良さ、広い視野、的確なゲーム展開の読み。三冠王者にふさわしいすばらしい戦いぶりだった。
FW・BKのバランスが良く、多彩な攻撃パターンを持つ桐蔭学園は、FWに4人、BKにもSO伊藤とWTB西田の高校ジャパン候補を擁するタレント軍団だ。対する御所実は、今大会4試合で失点はわずかに10、喫したトライは1つのみという鉄壁のディフェンスを誇る。点の取り合いになれば桐蔭学園、ロースコアなら御所実と目された頂上決戦は、戦前の予想以上のスリリングな展開になった。
(個人的には、桐蔭学園の花園単独優勝を熱望していた。9年前の初優勝は、東福岡との両校優勝。この試合を私は記事にしたためているが(http://keep-alive.seesaa.net/article/179732344.html?1578475923)桐蔭学園の華麗なる展開ラグビー・ランニングラグビーに私は魅せられた。そしてこの「魅せるラグビー」の中心にいたのが、去年のラグビーW杯日本大会で5トライを挙げて大活躍した、FBの松島幸太朗だったのだ。最後の最後で追いつかれて単独優勝を逃し、観ている側も悔しかった9年前。準優勝5回の「シルコレ」を脱却し、スッキリと単独優勝させてあげたいと、いつにもまして注目していた)
【 桐蔭、らしからぬミスで連続失点:相手につき合いすぎた前半 】
前半、エリアを重視する御所実はキックを多用してくるが、桐蔭学園はキャプテンのSO伊藤が試合前「蹴り合いにはとことんつき合います」と言っていた通り、キック合戦になる。しかし4分、この蹴り合いで桐蔭学園がキャッチミス、御所実が敵陣深く攻め込む。そしてゴールライン5m地点でのラインアウトからドライビングモールを組み、一気に押し込んで先制トライを挙げた。FWの1人平均体重で2.5キロ上回る桐蔭学園のFW陣が、あっさりと崩されてしまった。
さらに15分、ロングキック合戦でまたも桐蔭学園がキャッチミスを犯し、22mライン上で御所実ボールのスクラム。FWの突進からBKに展開し、CTB谷中が桐蔭ディフェンスの間隙を突破して見事なトライを決める。FB石岡のコンバージョンも決まって14−0。桐蔭学園のミスを突いてすばやく得点につなげる、御所実の切れ味鋭い攻撃が光った。
しかしこの直後のキックオフで競り勝ちペナルティを得た桐蔭学園は、CTB桑田がPGを決め、3点を返す。テレビ解説の大畑大介氏が「14点リードされると、トライを取らなきゃいけないと気持ちが先走ってしまうものですが、60分を通して自分たちのラグビーをどのように展開するかを想定している」と述べたように、確実に点を取り返した桐蔭学園の冷静な判断はすばらしかった。
さらに前半終了間際、桐蔭学園は連続攻撃で敵陣深く攻め込むが、密集からの球出しで反則を犯し、攻撃を断ち切られる。しかし押されていた中で最後にかなり押し返した形で前半を終え、後半の反撃に希望が持てる展開になった。
【 桐蔭、ポゼッション重視に変換:突破力と展開力で連続トライ 】
後半、桐蔭学園は戦術を変える。キックの蹴り合いをやめ、キャッチしたBKがカウンターアタックを仕掛け、ボールを保持してつなげる戦法に転換してきたのだ。エリアよりポゼッションを重視する戦い方、これは桐蔭学園の持ち味である走力・展開力を生かせる戦法だ。大畑氏が「桐蔭は前半はエリアに意識が行きすぎて展開力を出せていなかった。御所実のラグビーにつき合っていた」と指摘したが、桐蔭フィフティーンもこれを十分にわかっていて、本来の「桐蔭のラグビー」に変えてきたのだ。
これが後半早々に功を奏する。6分、パスをつないで敵陣深く攻め込んだ桐蔭学園は執拗にFW戦を仕掛け、17のフェーズを経てLO青木がポスト左に飛び込む。さらに16分、ロングキックを自陣でキャッチしたSO伊藤がカウンター。御所実のDFラインを巧みなステップで突破して快走、ラストパスを受けたFB秋濱が右隅にトライ。ついに15−14と逆転に成功した。ゲスト解説のトンプソン・ルーク氏が「すごい試合になりましたね」とつぶやいた、スリリングな展開になった。
後半に入ってからペースを取り戻した桐蔭学園は、さらに攻勢を強める。23分、FW戦で16フェーズを重ねたのちに右に展開し、LO青木が絶妙のオフロードパス。これを受けたWTB西川が右隅にトライを決める。トンプソン氏が「ソニー=ビル・ウィリアムズみたいだ」と絶賛した青木のオフロードパスが、御所実を突き放す千金のトライにつながった。密集戦で相手守備陣を引きつけた後に大きく展開。FW・BKのバランスの良い波状攻撃を得意とする桐蔭学園の、持ち味を十二分に生かした鮮やかなトライだった。
(それにしても、2015年のW杯ではエディー・ジョーンズHCが日本代表に使用を禁止していたオフロードパスを、今は高校生ラガーが駆使している。日本のラグビーのレベルは格段に向上しているようだ)
しかし点差はまだ6点、1トライ1ゴールで逆転できる。それを断ち切ったのが27分、SO伊藤のドロップゴールだった。御所実陣22mライン内に攻め込み、SH島本からのバックパスを受けた伊藤が右足を一閃。楕円球は見事にポールの間を通過し、3点を追加。23−14、これでワンプレーでは逆転できない点差になり、残り時間を考えると「勝負あり」。常にこの試合の攻撃をリードしてきたキャプテン伊藤の、まさに「ウィニングDG」だった。
桐蔭学園、9年ぶり2度目の優勝、そして宿願だった初の単独優勝。2019年シーズンは、高校三冠を達成した「桐蔭学園Year」と言っていいだろう。攻守のバランスの良さ、広い視野、的確なゲーム展開の読み。三冠王者にふさわしいすばらしい戦いぶりだった。
2019年11月03日
南アフリカ、「圧力」がもたらした3度目の戴冠 〜 Rugby World Cup 2019 Japan Vol. 14 〜
有楽町のファンゾーンで、偶然隣り合わせたウェールズから来たという男性に、「今日の決勝、どっちを応援するんですか?」と尋ねた。ウェールズはイングランドの「お隣さん」だから、当然イングランドだろうなと思っていたのだが、彼は即座に
「南アフリカだよ」
と答えた。
「どうしてですか?」とさらに聞くと、明快にこう語った。
「ウェールズは準決勝で南アフリカにわずかな差(筆者注:3点差)で負けた。その南アフリカが優勝すれば、ウェールズも強かったことが証明されるからね」
なるほど、そういう見方もあるか。これに対して私はこう応対した。
「悪いんですが、私はイングランドを応援します。ご存じの通り、エディー・ジョーンズは元日本代表のHCです。彼のコーチのおかげで、2015年のW杯で日本は3勝を挙げました。だから日本のラグビーファンは皆彼をリスペクトしているんです」
彼はうなずき、「まあ、お互いに頑張ろう」と握手を交わした。試合前にファン同士で交わされた「ノーサイド精神」だった。
この時は気がつかなかったのだが、彼の論理でいけば、準々決勝で南アフリカに敗れた我らが"Glorious Blossoms"にとっても、スプリングボクスが優勝した方がいいことになる。そして結果は・・・、ウェールズから来た彼の望み通りになった。
【 予想通りのロースコアの展開:密集とエリアの激しい争奪戦 】
試合は予想通りの展開になった。ともに密集から出たボールを蹴り上げて相手のキャッチングにプレッシャーをかけるか、タッチキックを深く蹴ってエリアを挽回するのが主な戦術で、自陣での戦いを極力避け、相手陣でのセットプレーや密集戦で圧力をかけてのペナルティを狙う。エリアマネジメントを最も重視し、リスクをできるだけ減らすという戦いになった。
こういう戦いはお互いになかなか敵陣深くまで攻め込めず、ゴールラインが遠くなる。必然、遠くからでも得点が狙えるペナルティゴールの応酬になり、前半はともにノートライ、南アフリカの6点リード(12−6)で終えた。
キックの応酬が多く、パスによる展開の少ない試合は、観る側にとっては見どころのあまりない、エキサイティングなシーンが少ない試合になりがちだ。しかしこの試合は、最後まで観る者を飽きさせない、すさまじいせめぎ合いが続いた。キーワードはズバリ「圧力」である。
ハイパントの落下地点での競り合い、ボールホルダーへの二重三重のコンタクト。相手に圧力をかける密集での激しい競り合いが絶え間なく、ピッチのあらゆるところで繰り広げられた。これをファンゾーンの大画面でどアップで観ていたわけだから、その迫力たるや物凄い。
しかも普通なら淡白になりがちなPG合戦も、角度のある難しいPGをSOポラード(南ア)・CTBファレル(イングランド)がともにさらりと決める。ファンゾーンではそのたびに拍手が沸き、感嘆のため息があちこちから漏れた。
しかし前半を見る限りでは、スクラムでは南アが押し勝ち、ラインアウトでもイングランドはやや安定感を欠いた。南アの圧力のせいかハンドリングミスが目立ち、攻撃がいいリズムで続かない。
これを見たTV解説者が、「すばらしい試合をすると、次の試合は少し落ちることがある」と語った。確かにここまでを振り返ると、そういうケースはいくつかあった。スコットランドに圧勝したあと日本に敗れたアイルランド。そのアイルランドに決勝トーナメントで完勝した次に、イングランドに封じ込まれたニュージーランド。そして今度はイングランドが、南アフリカに圧迫されている。
南アがPGで先行しイングランドがPGで追いつくという展開だったが、終了間際の連続PGで南アがリードした。点差だけではなく「イングランド押され気味」の印象が残った前半だった。「セットプレーでやや劣勢のイングランドが、どう立て直してくるか。」これが後半の注目点だった。
【 流れがイングランドに来るかと思ったが・・・痛恨のPG失敗 】
45分、南アがまたもスクラムでペナルティを誘い、ポラードがPGを決める。後半もこの流れは変わらないのかと思われたが、51分、南ア陣10mライン上のスクラムで、これまでずっと劣勢だったイングランドが逆に押し込み、コラプシングを誘う。主将ファレルがきっちりとPGを決め、15−9、再び6点差。これは点差だけではなく、押されっ放しだったスクラムで初めて押し勝ったことで、流れを変えるチャンスと思われた。
53分、相手キックをキャッチし、カウンターを仕掛けたポラードが足を滑らせ、タックルを受けてボールを離さずペナルティ。変わり始めた流れをグッと持ってくるチャンスだったが、このPGをファレルがわずかに外す。これで一息ついた南アは57分、キックで敵陣深く攻め込み、密集での圧力でまたもペナルティを呼び、ポラードが正面のPGを難なく決める。しかしイングランドも直後のキックオフからの密集で反則を誘い、ファレルがPGを決めてまた6点差(18−12)。南アはなかなか突き放せず、イングランドも流れを持って来れない。ぎりぎりのせめぎ合いの中、勝敗を決するラスト20分に突入した。
【 ついに破られたDFライン:南アFWのボディーブローが結実 】
しかし、ついにこのせめぎ合いに決着の時が来る。65分、南アはハーフウェイライン付近の密集から左に展開、WTBマピンビがタッチライン際を快走し、ショートパントを放つ。CTBアムがこれをキャッチし、ゴールライン寸前で相手DFをかわしてマピンビにパスを返す。マピンビは余裕でインゴールに入り、回り込んでトライ。PGの応酬でのねじり合いが60分以上続いていたこの試合に、ついにトライが生まれた。コンバージョンをポラードが決め、25−12。
劣勢のイングランドがものにしたかったトライを逆に南アが挙げたことで、試合は一気に傾いた。残り10分余り、もうPGでコツコツ返すわけにはいかないイングランドは、ボールを保持して攻め込む。しかしこれは南アにとっては、ターンオーバーからの逆襲のチャンスにもなる。73分、自陣で懸命にボールを回すイングランドがボールをこぼし、これを拾った南アが逆襲、WTBコルビが華麗なサイドステップで相手タックルをかわして40mを独走、勝利を決定づけるトライを決めた。
32−12。結局南アはイングランドをノートライに抑え、予想外の快勝を収めた。勝因の第一は、FWを中心とした、出足がよく強固なディフェンスだ。象徴的なのが、6−3で迎えた前半30分のイングランドの攻撃。敵陣ゴール正面での攻撃中に主審のペナルティ判定をもらったイングランドは、アドバンテージで猛然と攻める。FWの突進で何度もゴールライン寸前まで攻め込んだが、南アの「緑の壁」が立ち塞がり、どうしてもインゴールに飛び込めない。結局トライを奪うことはできず、ペナルティ⇒PGでの3点にとどまった。ここでイングランドに逆転を許さなかったことが、流れを渡さないことにつながったのだ。
【 ディフェンスの圧力が勝利を呼ぶ:今大会全体に感じた潮流 】
この頂上決戦でも強く表れていたが、今大会で随所に見られたのが、この「圧力」で相手を抑え込む戦い方だ。日本が金星を挙げたアイルランド戦がそうだったし、決勝トーナメントでは逆に日本が南アの圧力、分厚い壁に屈した。準決勝ではイングランドが鉄壁のディフェンスで、3連覇を狙った王者・ニュージーランドをほぼ完璧に抑え込んだ。
この圧力の強い戦法がもたらすもの:それは「攻め味の強さ」ではないか。主に相手陣でプレーし、前掛かりの守備で相手の攻撃の出足を止め、前進をなかなか許さない。スクラムやラインアウトのセットプレーでも主導権を握り、相手ボールの時は圧力をかけ、反則を誘う。これが自陣ならタッチキックでエリアを挽回し、マイボールラインアウトから攻勢に転じる。敵陣ならPGで着実に得点していく。常に姿勢が前向きで、敵陣をにらんでいる。しかも地に足をつけた着実な戦い方なので、ミスや失点のリスクが少ないのだ。
これは相手にとっては非常に圧迫感があり、息苦しい戦いを強いられる(日本にとっての南ア戦がまさにこんな感じだった)。しかしFWの働きがクローズアップされるこの戦法は、ラグビーの発展のためにはいいことだと思う。ラグビーはトライを決めるバックスや、PGやコンバージョンを蹴るキッカーに注目が集まることが多く、FWは「縁の下の力持ち」だった。この「圧力戦法」でもそれは変わらないが、バックスのトライはFWが密集を支配していいボールを供給するから生まれるものであり、PGはスクラムや密集でFWが相手を圧迫するから得られるものなのだ。それがはっきりと認識される、縁の下に光が当たるこの戦法は、15人がバランスよく注目されるという意味で非常にいいことで、選手たち(特にFW)のモチベーションアップにつながるのではないかと思うのだ。
15人がバランスよく注目される、つまり「トータルラグビー」だ。今大会での日本も得意とした、FW・BK一体となった守備と攻撃。これを高いレベルでこなすチームが、これからもW杯では上位を占めるだろう。さて4年後のフランス大会まで、各国はどんなチームに仕上げてくるのか? とても楽しみだ。
【 イングランド:前回大会の屈辱からのV字回復は成し遂げた 】
惜しくも2度目の優勝は逃したイングランドだが、前回の屈辱はほぼ晴らすことができたのではないか。地元開催だったにもかかわらず、そのアドバンテージを生かせず(むしろプレッシャーになったのか)、同国史上初の予選敗退、しかもこれも史上初の、開催国の予選敗退になってしまった4年前。その大会で日本を率い、それまで7大会通算で1勝しかしていなかったチームに、南アを破って3勝を挙げるという快挙をもたらしたエディー・ジョーンズの手腕を買い、初めて外国人をHCに招いた。予選プールを無敗で1位通過し、準々決勝で前回準優勝のオーストラリア、準決勝で2連覇中の王者ニュージーランドと、南半球の強豪を連破して決勝進出。これは見事なV字回復と言っていいだろう。
【 南アフリカ:3度目の優勝、オールブラックスに並ぶ 】
予選プール初戦が、いきなり3連覇を狙うニュージーランド。接戦の末敗れたが、結局敗戦はこれが最初で最後。ここから6連勝を飾り、見事に3度目の優勝を果たした。実は、予選プールで敗れたチームが優勝したのは史上初。これは相撲に例えれば、初日黒星のあと14連勝で逆転優勝したようなものか。もっとも南アの場合、初戦の黒星は相手が優勝候補No.1なので、横綱が平幕に敗れるようなショックではなかっただろう。そこから地力を発揮して着実に予選プールを勝ち上がり、決勝Tでも日本・ウェールズに堅実な戦い方で勝ち切り、決勝でもそれは崩さず、まさに負けない相撲・「横綱相撲」でイングランドを寄り切った。
この南アフリカの天下はこのあとも続くのか。敗れたイングランドのリベンジは。そして失冠したニュージーランドの巻き返しは。次回ホームのフランスの「シャンパンラグビー」は弾けるのか。過去2度優勝のワラビーズは。今回ベスト4のウェールズは。そして我らが"Glorious Blossoms"は、さらに新しい景色を観ることはできるのか。
4年後が待ち遠しい。
「南アフリカだよ」
と答えた。
「どうしてですか?」とさらに聞くと、明快にこう語った。
「ウェールズは準決勝で南アフリカにわずかな差(筆者注:3点差)で負けた。その南アフリカが優勝すれば、ウェールズも強かったことが証明されるからね」
なるほど、そういう見方もあるか。これに対して私はこう応対した。
「悪いんですが、私はイングランドを応援します。ご存じの通り、エディー・ジョーンズは元日本代表のHCです。彼のコーチのおかげで、2015年のW杯で日本は3勝を挙げました。だから日本のラグビーファンは皆彼をリスペクトしているんです」
彼はうなずき、「まあ、お互いに頑張ろう」と握手を交わした。試合前にファン同士で交わされた「ノーサイド精神」だった。
この時は気がつかなかったのだが、彼の論理でいけば、準々決勝で南アフリカに敗れた我らが"Glorious Blossoms"にとっても、スプリングボクスが優勝した方がいいことになる。そして結果は・・・、ウェールズから来た彼の望み通りになった。
【 予想通りのロースコアの展開:密集とエリアの激しい争奪戦 】
試合は予想通りの展開になった。ともに密集から出たボールを蹴り上げて相手のキャッチングにプレッシャーをかけるか、タッチキックを深く蹴ってエリアを挽回するのが主な戦術で、自陣での戦いを極力避け、相手陣でのセットプレーや密集戦で圧力をかけてのペナルティを狙う。エリアマネジメントを最も重視し、リスクをできるだけ減らすという戦いになった。
こういう戦いはお互いになかなか敵陣深くまで攻め込めず、ゴールラインが遠くなる。必然、遠くからでも得点が狙えるペナルティゴールの応酬になり、前半はともにノートライ、南アフリカの6点リード(12−6)で終えた。
キックの応酬が多く、パスによる展開の少ない試合は、観る側にとっては見どころのあまりない、エキサイティングなシーンが少ない試合になりがちだ。しかしこの試合は、最後まで観る者を飽きさせない、すさまじいせめぎ合いが続いた。キーワードはズバリ「圧力」である。
ハイパントの落下地点での競り合い、ボールホルダーへの二重三重のコンタクト。相手に圧力をかける密集での激しい競り合いが絶え間なく、ピッチのあらゆるところで繰り広げられた。これをファンゾーンの大画面でどアップで観ていたわけだから、その迫力たるや物凄い。
しかも普通なら淡白になりがちなPG合戦も、角度のある難しいPGをSOポラード(南ア)・CTBファレル(イングランド)がともにさらりと決める。ファンゾーンではそのたびに拍手が沸き、感嘆のため息があちこちから漏れた。
しかし前半を見る限りでは、スクラムでは南アが押し勝ち、ラインアウトでもイングランドはやや安定感を欠いた。南アの圧力のせいかハンドリングミスが目立ち、攻撃がいいリズムで続かない。
これを見たTV解説者が、「すばらしい試合をすると、次の試合は少し落ちることがある」と語った。確かにここまでを振り返ると、そういうケースはいくつかあった。スコットランドに圧勝したあと日本に敗れたアイルランド。そのアイルランドに決勝トーナメントで完勝した次に、イングランドに封じ込まれたニュージーランド。そして今度はイングランドが、南アフリカに圧迫されている。
南アがPGで先行しイングランドがPGで追いつくという展開だったが、終了間際の連続PGで南アがリードした。点差だけではなく「イングランド押され気味」の印象が残った前半だった。「セットプレーでやや劣勢のイングランドが、どう立て直してくるか。」これが後半の注目点だった。
【 流れがイングランドに来るかと思ったが・・・痛恨のPG失敗 】
45分、南アがまたもスクラムでペナルティを誘い、ポラードがPGを決める。後半もこの流れは変わらないのかと思われたが、51分、南ア陣10mライン上のスクラムで、これまでずっと劣勢だったイングランドが逆に押し込み、コラプシングを誘う。主将ファレルがきっちりとPGを決め、15−9、再び6点差。これは点差だけではなく、押されっ放しだったスクラムで初めて押し勝ったことで、流れを変えるチャンスと思われた。
53分、相手キックをキャッチし、カウンターを仕掛けたポラードが足を滑らせ、タックルを受けてボールを離さずペナルティ。変わり始めた流れをグッと持ってくるチャンスだったが、このPGをファレルがわずかに外す。これで一息ついた南アは57分、キックで敵陣深く攻め込み、密集での圧力でまたもペナルティを呼び、ポラードが正面のPGを難なく決める。しかしイングランドも直後のキックオフからの密集で反則を誘い、ファレルがPGを決めてまた6点差(18−12)。南アはなかなか突き放せず、イングランドも流れを持って来れない。ぎりぎりのせめぎ合いの中、勝敗を決するラスト20分に突入した。
【 ついに破られたDFライン:南アFWのボディーブローが結実 】
しかし、ついにこのせめぎ合いに決着の時が来る。65分、南アはハーフウェイライン付近の密集から左に展開、WTBマピンビがタッチライン際を快走し、ショートパントを放つ。CTBアムがこれをキャッチし、ゴールライン寸前で相手DFをかわしてマピンビにパスを返す。マピンビは余裕でインゴールに入り、回り込んでトライ。PGの応酬でのねじり合いが60分以上続いていたこの試合に、ついにトライが生まれた。コンバージョンをポラードが決め、25−12。
劣勢のイングランドがものにしたかったトライを逆に南アが挙げたことで、試合は一気に傾いた。残り10分余り、もうPGでコツコツ返すわけにはいかないイングランドは、ボールを保持して攻め込む。しかしこれは南アにとっては、ターンオーバーからの逆襲のチャンスにもなる。73分、自陣で懸命にボールを回すイングランドがボールをこぼし、これを拾った南アが逆襲、WTBコルビが華麗なサイドステップで相手タックルをかわして40mを独走、勝利を決定づけるトライを決めた。
32−12。結局南アはイングランドをノートライに抑え、予想外の快勝を収めた。勝因の第一は、FWを中心とした、出足がよく強固なディフェンスだ。象徴的なのが、6−3で迎えた前半30分のイングランドの攻撃。敵陣ゴール正面での攻撃中に主審のペナルティ判定をもらったイングランドは、アドバンテージで猛然と攻める。FWの突進で何度もゴールライン寸前まで攻め込んだが、南アの「緑の壁」が立ち塞がり、どうしてもインゴールに飛び込めない。結局トライを奪うことはできず、ペナルティ⇒PGでの3点にとどまった。ここでイングランドに逆転を許さなかったことが、流れを渡さないことにつながったのだ。
【 ディフェンスの圧力が勝利を呼ぶ:今大会全体に感じた潮流 】
この頂上決戦でも強く表れていたが、今大会で随所に見られたのが、この「圧力」で相手を抑え込む戦い方だ。日本が金星を挙げたアイルランド戦がそうだったし、決勝トーナメントでは逆に日本が南アの圧力、分厚い壁に屈した。準決勝ではイングランドが鉄壁のディフェンスで、3連覇を狙った王者・ニュージーランドをほぼ完璧に抑え込んだ。
この圧力の強い戦法がもたらすもの:それは「攻め味の強さ」ではないか。主に相手陣でプレーし、前掛かりの守備で相手の攻撃の出足を止め、前進をなかなか許さない。スクラムやラインアウトのセットプレーでも主導権を握り、相手ボールの時は圧力をかけ、反則を誘う。これが自陣ならタッチキックでエリアを挽回し、マイボールラインアウトから攻勢に転じる。敵陣ならPGで着実に得点していく。常に姿勢が前向きで、敵陣をにらんでいる。しかも地に足をつけた着実な戦い方なので、ミスや失点のリスクが少ないのだ。
これは相手にとっては非常に圧迫感があり、息苦しい戦いを強いられる(日本にとっての南ア戦がまさにこんな感じだった)。しかしFWの働きがクローズアップされるこの戦法は、ラグビーの発展のためにはいいことだと思う。ラグビーはトライを決めるバックスや、PGやコンバージョンを蹴るキッカーに注目が集まることが多く、FWは「縁の下の力持ち」だった。この「圧力戦法」でもそれは変わらないが、バックスのトライはFWが密集を支配していいボールを供給するから生まれるものであり、PGはスクラムや密集でFWが相手を圧迫するから得られるものなのだ。それがはっきりと認識される、縁の下に光が当たるこの戦法は、15人がバランスよく注目されるという意味で非常にいいことで、選手たち(特にFW)のモチベーションアップにつながるのではないかと思うのだ。
15人がバランスよく注目される、つまり「トータルラグビー」だ。今大会での日本も得意とした、FW・BK一体となった守備と攻撃。これを高いレベルでこなすチームが、これからもW杯では上位を占めるだろう。さて4年後のフランス大会まで、各国はどんなチームに仕上げてくるのか? とても楽しみだ。
【 イングランド:前回大会の屈辱からのV字回復は成し遂げた 】
惜しくも2度目の優勝は逃したイングランドだが、前回の屈辱はほぼ晴らすことができたのではないか。地元開催だったにもかかわらず、そのアドバンテージを生かせず(むしろプレッシャーになったのか)、同国史上初の予選敗退、しかもこれも史上初の、開催国の予選敗退になってしまった4年前。その大会で日本を率い、それまで7大会通算で1勝しかしていなかったチームに、南アを破って3勝を挙げるという快挙をもたらしたエディー・ジョーンズの手腕を買い、初めて外国人をHCに招いた。予選プールを無敗で1位通過し、準々決勝で前回準優勝のオーストラリア、準決勝で2連覇中の王者ニュージーランドと、南半球の強豪を連破して決勝進出。これは見事なV字回復と言っていいだろう。
【 南アフリカ:3度目の優勝、オールブラックスに並ぶ 】
予選プール初戦が、いきなり3連覇を狙うニュージーランド。接戦の末敗れたが、結局敗戦はこれが最初で最後。ここから6連勝を飾り、見事に3度目の優勝を果たした。実は、予選プールで敗れたチームが優勝したのは史上初。これは相撲に例えれば、初日黒星のあと14連勝で逆転優勝したようなものか。もっとも南アの場合、初戦の黒星は相手が優勝候補No.1なので、横綱が平幕に敗れるようなショックではなかっただろう。そこから地力を発揮して着実に予選プールを勝ち上がり、決勝Tでも日本・ウェールズに堅実な戦い方で勝ち切り、決勝でもそれは崩さず、まさに負けない相撲・「横綱相撲」でイングランドを寄り切った。
この南アフリカの天下はこのあとも続くのか。敗れたイングランドのリベンジは。そして失冠したニュージーランドの巻き返しは。次回ホームのフランスの「シャンパンラグビー」は弾けるのか。過去2度優勝のワラビーズは。今回ベスト4のウェールズは。そして我らが"Glorious Blossoms"は、さらに新しい景色を観ることはできるのか。
4年後が待ち遠しい。
2019年11月02日
コンビネーションと個人技でウェールズに快勝:最後に「らしさ」を見せたオールブラックス 〜 Rugby World Cup 2019 Japan Vol. 13 〜
準決勝でイングランドに7−19で敗れた時のオールブラックスフィフティーンのショックは、とても我々ファンの想像の及ばないものだっただろう。3連覇を絶たれただけでなく、試合内容も、相手のミスによるラッキーな1トライ・ゴールがあるだけで、あとはイングランドの圧力の前にほとんど為す術がなかったからだ。
それから6日後。先発メンバーを準決勝から大幅に入れ替え、若手中心のラインナップになった。試合前の「ハカ」も、大事な試合の時に行う「カパ・オ・パンゴ」ではなく「カ・マテ」だった。
(ただ個人的には、「カパ・オ・パンゴ」は今大会すでに何度か見ていたので、最後に「カ・マテ」を見れて嬉しかったが)
手を抜いたわけではもちろんないだろうが、もはや優勝はなくなったこの一戦、決勝戦ほどのモチベーションではなかったことは否めないだろう。
しかしそれでも、最後の最後でオールブラックスは「らしさ」を見せてくれた。7トライ6ゴールの猛攻。オフロードパスを駆使した変幻自在のコンビネーションと、テクニック・パワー・スピードを高いレベルでミックスさせた個人技。「さすがオールブラックス!」と観る者を唸らせるプレーの数々で、2019年日本大会での王者の戦いを締めくくった。
4分、流れるようなパスワークからPRムーディーが抜け出し、20m独走してトライ。プロップが独走トライを挙げるなどめったに見られないプレーで、開始早々のこのプレーが黒軍団を勢いづけた。12分にはFBバレットが華麗なサイドステップでトライ。ウェールズもここから1トライ1ゴール1PGで4点差まで追い上げるが、32分にWTBスミスがトライ、さらに前半終了間際には、再びスミスがタッチライン際を快走、巧みなハンドオフでタックルをかわし、右隅にトライ。前半を28−10で終える。
後半もオールブラックスのペースで続く。縦への突進は鋭く、パスワークは右に左にウェールズの守備網を翻弄する。イングランド戦の屈辱を一気に吐き出したような、ダイナミックで縦横無尽の攻撃で2トライ。ウェールズもWTBアダムズが大会トライランキングトップの7トライ目を挙げて食い下がるが、前半の劣勢を跳ね返すには至らなかった。40−17。王者ニュージーランド、有終の美を飾る7トライの快勝。最後に見事なトライシーンをたくさん見せてくれて、オールブラックスファンとしてはかなり満足だ。
さてこれで、すばらしく盛り上がったラグビーワールドカップ2019・日本大会も、いよいよ残すは決勝戦のみ。地元開催だった前回大会での予選敗退の雪辱に燃える、エディー・ジョーンズ率いるイングランドか、3大会ぶり3度目の優勝を目指す南アフリカか。
個人的には、イングランドの優勝を見たい。過去8大会で北半球が優勝したのは、2003年大会のイングランドのみ。あとの7回はすべて南半球だ(ニュージーランド3回・オーストラリア2回・南アフリカ2回)。今大会イングランドは、準々決勝でオーストラリア、準決勝でニュージーランドを破った。そして決勝で南アフリカを破れば、過去合わせて7回の優勝を誇る南半球勢を軒並みなぎ倒し、北半球に2度目の優勝をもたらすことになる。これはドラマであり、こういうエンディングを見たいのだ。
今日の決勝戦、私は昨日と同様、有楽町のファンゾーンで観戦する。さて、どんなフィナーレになるのだろうか。
それから6日後。先発メンバーを準決勝から大幅に入れ替え、若手中心のラインナップになった。試合前の「ハカ」も、大事な試合の時に行う「カパ・オ・パンゴ」ではなく「カ・マテ」だった。
(ただ個人的には、「カパ・オ・パンゴ」は今大会すでに何度か見ていたので、最後に「カ・マテ」を見れて嬉しかったが)
手を抜いたわけではもちろんないだろうが、もはや優勝はなくなったこの一戦、決勝戦ほどのモチベーションではなかったことは否めないだろう。
しかしそれでも、最後の最後でオールブラックスは「らしさ」を見せてくれた。7トライ6ゴールの猛攻。オフロードパスを駆使した変幻自在のコンビネーションと、テクニック・パワー・スピードを高いレベルでミックスさせた個人技。「さすがオールブラックス!」と観る者を唸らせるプレーの数々で、2019年日本大会での王者の戦いを締めくくった。
4分、流れるようなパスワークからPRムーディーが抜け出し、20m独走してトライ。プロップが独走トライを挙げるなどめったに見られないプレーで、開始早々のこのプレーが黒軍団を勢いづけた。12分にはFBバレットが華麗なサイドステップでトライ。ウェールズもここから1トライ1ゴール1PGで4点差まで追い上げるが、32分にWTBスミスがトライ、さらに前半終了間際には、再びスミスがタッチライン際を快走、巧みなハンドオフでタックルをかわし、右隅にトライ。前半を28−10で終える。
後半もオールブラックスのペースで続く。縦への突進は鋭く、パスワークは右に左にウェールズの守備網を翻弄する。イングランド戦の屈辱を一気に吐き出したような、ダイナミックで縦横無尽の攻撃で2トライ。ウェールズもWTBアダムズが大会トライランキングトップの7トライ目を挙げて食い下がるが、前半の劣勢を跳ね返すには至らなかった。40−17。王者ニュージーランド、有終の美を飾る7トライの快勝。最後に見事なトライシーンをたくさん見せてくれて、オールブラックスファンとしてはかなり満足だ。
さてこれで、すばらしく盛り上がったラグビーワールドカップ2019・日本大会も、いよいよ残すは決勝戦のみ。地元開催だった前回大会での予選敗退の雪辱に燃える、エディー・ジョーンズ率いるイングランドか、3大会ぶり3度目の優勝を目指す南アフリカか。
個人的には、イングランドの優勝を見たい。過去8大会で北半球が優勝したのは、2003年大会のイングランドのみ。あとの7回はすべて南半球だ(ニュージーランド3回・オーストラリア2回・南アフリカ2回)。今大会イングランドは、準々決勝でオーストラリア、準決勝でニュージーランドを破った。そして決勝で南アフリカを破れば、過去合わせて7回の優勝を誇る南半球勢を軒並みなぎ倒し、北半球に2度目の優勝をもたらすことになる。これはドラマであり、こういうエンディングを見たいのだ。
今日の決勝戦、私は昨日と同様、有楽町のファンゾーンで観戦する。さて、どんなフィナーレになるのだろうか。