2017年12月10日

日本勢、表彰台逃す:見せつけられた「世界のレベルアップ」 〜フィギュアGPファイナル・女子シングル〜

今季のGPシリーズの女子シングルは、終盤までは「日本選手の出場危うし」という状況だった。しかし最終戦を終えて樋口新葉が6番手で出場を決め、次いでポイントトップのエフゲニア・メドベージェワがケガのため棄権したため、宮原知子が繰り上げ出場することになった。これで平昌五輪の出場権争いでこの2人が一歩リードした形になったが、そのリードをより大きくするには、このファイナルで上位に入る=表彰台ゲットという成果が必要だ。


SPは驚異のハイレベルだった。カロリーナ・コストナー72.82、樋口新葉73.26、マリア・ソツコワ74.00、宮原知子74.61、アリーナ・ザギトワ76.27、ケイトリン・オズモンド77.04。全員が70点台はGPファイナル史上初であり、ソツコワとザギトワ、オズモンドはPBを更新した。ジャンプでは誰も転倒しないばかりか着氷の乱れもほとんどなく、コストナーがコンビネーションのセカンドジャンプが2回転になったのが唯一のミスだった。トップと最下位との差はわずか4.22。ジャンプの出来1つで逆転してしまう、極めて熾烈な戦いになった。


ファイナル初出場の樋口は、緊張のためジャンプの調子を落としていた。試合当日の練習でも調子が上がらず、不安を抱えたままで本番を迎える。序盤、3ルッツ−3トウループを決めたところまではよかったが、中盤で3サルコウが2回転に抜けたあたりから下降し始め、前半にきれいに決めたコンビネーションも2回転単独になってしまう。このあと2アクセル−3トウループ、3フリップ−2トウループ−2ループのコンビネーションを決めてミスを挽回したが、気落ちのためかスタミナ切れか、中盤から持ち前のスピードがやや落ちた。得点はPBを10点以上下回る悔しい結果。しかし初めての大舞台での経験は、2週間後の「勝負の全日本」できっと糧になるはずだ。


コストナーは優勝した2011年以来6年ぶりのファイナル出場。五輪・世界選手権・GPファイナルの通算で11個のメダルを獲得している、歴戦のベテランである。ジャンプの構成は決してハイレベルではないが、3年前のソチ五輪で見せた包み込むような柔らかな表現力は健在で、まさに円熟の境地。惜しくも表彰台は逃したが、この人の演技はSP・FSとも1つ1つが「芸術品」になる。出場すれば4大会連続となる平昌五輪でも、そのあでやかな演技で世界を魅了してほしいものだ。


SP首位発進の、昨季の世界選手権銀メダリスト・オズモンド。演技冒頭、3フリップ−3トウループを豪快に決める。この後のコンビネーションもきれいに決め、前半は完璧。しかし後半に入ると、3ループが2回転に抜け、3サルコウで転倒。ステップシークエンスはダイナミックに魅せてくれたが、ジャンプの失敗が響いて総合3位に順位を落とした。しかし昨季の世界選手権以来、GPシリーズでの好成績、そしてファイナルでの表彰台と、着実に世界へのステップを踏んでいる。女子フィギュア界では希少価値といえる肉感的スケーター、その躍動感あふれる演技を五輪でも存分に見せてほしい。


シニアデビュー2年目にして2年連続のファイナル出場となったソツコワ。ドビュッシー「月の光」の美しい旋律に乗り、その可憐な雰囲気を存分に生かした演技を見せた。ジャンプはいつもながらの抜群の安定感、173pの長身と長い手足を生かした大きく美しいステップとスピン。この1年での成長を強くアピールするほぼ完璧な演技で、FSでもPBを更新。見事初の表彰台(銀メダル)を射止めた。恐らく世界一熾烈なロシアの五輪出場枠(3枠)をめぐる争いでも、大きくリードしたと言えるだろう。


ファイナル出場選手の中で唯一、シリーズ2連勝のザギトワ。シニアデビューの年としては驚異の成績だ。FS最大の注目は、7つのジャンプをすべて後半に跳ぶというタフな演技構成。前半、シリーズ2戦と同様、ステップ、スピン、コレオシークエンスを切れ味よくこなす。そして後半、まず3ルッツ−3ループの高難度コンビネーションを無難に降りる。続く2アクセル−3トウループで着氷がやや乱れ、3ルッツでオーバーステップ。しかしミスはこれだけで、3連続コンビネーションをきれいに決め、最後までスピードとキレのよさを失わなかった。フランス大会で出したPB(世界歴代2位)には届かなかったが、合計ではPBを更新し、堂々のトップに立った。この驚異の新星、五輪では女王・メドベージェワをも脅かす存在になるか。


SPでPBに迫る高得点を叩き出した宮原。FSでは抽選で最終滑走となった。しかしこういう修羅場は何度も経験している彼女、落ち着いた表情で演技に入る。冒頭の3ループ、3ルッツ−3トウループ、3フリップをきれいに決める。得意の逆回転スピンで魅せ、後半の2つのコンビネーションも流れよく決める。「蝶々夫人」のメロディーに乗ってステップも流麗にこなし、盛り上がりの中でフィニッシュ。この時点では「ミス・パーフェクト再び」と思った。

しかし、得点は140点に届かない。前半の3ルッツ−3トウループ、3フリップがともに回転不足判定となっていたのだ。これが響いて総合5位、僅差で3年連続の表彰台を逃した。銅のオズモンドとは1.67、銀のソツコワとも2.79の差。まさに微差である。しかし急きょ繰り上げで出場した今大会、故障による長いブランクを思えば、よくここまで仕上げてきたと考えるべきだろう。2週間後の全日本でさらにどこまで磨いてくるか、楽しみに待とう。



過去2大会連続銀だった宮原。一昨年の得点は208.85、昨年は218.33だった。優勝のザギトワのスコアは223.30なので、昨年の得点を挙げても銀だったわけだが、今大会はSPで6人全員が70点を超え、FSとの総合でも全員が200点を超えた。世界のレベルが着実に上がり、全体的に底上げしていることを示している。

ファイナルと同時開催されたジュニアGPファイナルでは、優勝したトゥルソワが4サルコウに挑み、紀平梨花が女子初の3アクセル−3トウループに成功した。しかしシニアの世界ではこのような「高目追求」競争はほとんど起こっておらず、ジャンプ構成を難しくしたり、手を挙げて跳ぶなどGOE加点を狙ったり、メドベージェワやザギトワのようにジャンプを後半に持ってくることで基礎点の上積みを狙うなど、いわゆる質の向上に努めるのが主流だ。この流れは平昌五輪まで続くと思うが、こうなると技術点の基礎点に大きな差はつかず、いかにミスを少なくするかの勝負になる。


来る平昌五輪、男子は「高目追求派」が表彰台を占めそうな様相だが、「円熟派」も力がある女子は混戦模様だ。いずれにせよ、今季は全日本のみならず五輪でも、女子は「目移りクラクラ」大会になるのは間違いない。
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2017年12月09日

宇野昌磨、僅差で世界王座逃す:しかし五輪への貴重な「宿題」 〜フィギュアGPファイナル・男子シングル〜

2017年GPシリーズの総決算・ファイナル。今年は伊藤みどり・浅田真央・安藤美姫小塚崇彦村上佳菜子を生んだ名古屋が決戦の舞台だ。そしてその名古屋が生んだもう一人のトップスケーター・宇野昌磨が、地元で初のファイナル優勝を狙う。対するは、ネイサン・チェン、アダム・リッポン、ジェイソン・ブラウン(ボーヤン・ジンがケガで棄権したため繰り上がり出場)のアメリカ勢と、ミハイル・コリヤダ、セルゲイ・ボロノフのロシア勢。4連覇中の羽生結弦、かつての王者ハビエル・フェルナンデス、パトリック・チャンが欠場のため、誰が勝っても初の世界王者である。


ジェイソン・ブラウン、アダム・リッポンの「アメリカン・エンターテイナー」は、その持ち味を存分に発揮した。ジャンプにミスは出たが、音楽に乗った独特の振付、ポジションがきれいで独創的なスピン、そして躍動感と情感あふれるステップ。リッポンはFS冒頭の4ルッツで転倒、ブラウンは4ジャンプを回避した構成だったが、「魅せる」演技を披露してくれた。技術点の基礎点が高くないので勝負にはなりにくいが、こういう勝ち負けを超越したアーティストもフィギュアの世界には必要だ。何より、観ていて楽しい。


最年長のGPシリーズ優勝者・ボロノフも魅せた。FS冒頭の4トウループ・3トウループをきれいに決め、そのあとのジャンプもほとんどノーミスでこなす。圧巻は後半のステップシークエンスで、時折笑顔を見せながらのダイナミックな動き。観る者をぐいぐい惹きつける迫力があった。30歳、いまだ健在である。


トップ3の争いは、ハイレベルな演技構成の中、いかにミスを抑えるかの戦いになった。

SP3位のコリヤダは、冒頭の4ルッツと続く4サルコウで転倒。3アクセルも着氷が乱れるなど、ミスが続いた。どうなることかと思われたが、ここから踏みこたえた。後半、4トウループ−3トウループを鮮やかに決める。この後もコンビネーションジャンプをきれいに決め、盛り上がりの中でフィニッシュ。前半のミスを後半で盛り返し、ファイナル初のメダルを手にした。伸び盛りの22歳、この後半の踏ん張りでの表彰台ゲットは、五輪を控えて貴重な経験になっただろう。


SP首位のチェンは、冒頭の4ルッツ−3トウループを完璧に決める。これで波に乗るかと思われたが、続く4フリップで着氷が乱れ、4サルコウは2回転に抜けた。後半も構成を変えて挑んだ4トウループで転倒したが、苦手の3アクセルのコンビネーションを気迫で決め、大崩れせずに演技をまとめた。最後まで攻めの演技を見せたが、得点は183.19、合計286.51。自己ベストには遠く及ばない。総合トップには立ったが、最終滑走の宇野に十分逆転の目が残った。


そして、宇野昌磨。橋大輔・羽生結弦と続いてきたGPファイナル日本勢5連覇の系譜を引き継げるか。勝負の4分半が始まった。冒頭、4ループは転倒。しかし続く4ジャンプ、シリーズ2戦では回避していたサルコウに果敢に挑み、見事に成功。このチャレンジはすばらしかった。得意の3アクセルとステップを流れるようにこなし、「宇野昌磨史上最高難度」の後半に入る。「ギネス」4フリップは鮮やかに決めたが、続く2本の4トウループが回転不足とダウングレードになる。それでも宇野の代名詞、3アクセル−1ループ−3フリップはしっかり決め、最後を締めてフィニッシュ。しかしチェンを逆転できたかは微妙な出来だった。

得点は184.50、合計286.01。チェンにわずか0.50及ばなかった。しかし、自身初のファイナルでの銀メダルだ。試合後のインタビューで「4トウループが、練習で体が動いていない時のジャンプになってしまった」と語った宇野。インフルエンザで体調を崩し、練習不足になっていた影響がまだ残っていたのか。だがこれはむしろ、五輪本番に向けていい宿題ができたと言っていいのではないか。

(私も個人的には、「ここで最高の演技で勝ってしまうより、五輪に向けて『追う立場・チャレンジャー』でいた方がいいんじゃないか」と思っていたので、この結果は悪くないと思う)


このGPファイナル2位により、2週間後の全日本選手権を控え、宇野の平昌五輪出場はかなり濃厚になってきた。あとは羽生結弦がどこまで回復しているか、そして「第三の男」は誰になるのか。暮れの全日本を静かに待つのみである。



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2017年11月28日

男子は上位が順当にファイナル進出/女子は期待と想像をはるかに超える好結果に 〜フィギュアGPシリーズ最終戦・スケートアメリカ〜

ついに迎えたGPシリーズ最終戦。男子は4つ、女子はわずか1つの残されたファイナルへの椅子をめぐって、厳しい戦いが繰り広げられた。


【 男子 】

ロシア大会優勝のネイサン・チェン、NHK杯優勝のセルゲイ・ボロノフは4位以上、NHK杯2位のアダム・リッポンと中国杯2位のボーヤン・ジンは表彰台でファイナル決定、というのが大会前の状況だった。

結果的には、このポイント上位4人が順当にファイナルの椅子を占めた。ボーヤン・ジンは、故障明けなのかコンディションの影響なのか、SP・FSともトレードマークの4ルッツを跳ばず、その得意のジャンプにも乱れが見えた。総合4位にとどまったが、シリーズ2戦の総得点できわどくファイナル進出を決めた。「元祖・驚異の4ジャンパー」の切れ味鋭いジャンプが影をひそめてしまったこの試合だが、ファイナルの大舞台までの2週間、どう立て直してくるか。

SP3位のセルゲイ・ボロノフはFS、NHK杯ほど完璧ではなかったものの、堅実な演技で表彰台を確保した。冒頭、4トウループ・3トウループのコンビネーションをきれいに決める。その後のジャンプに若干の乱れは出たが、最後までスピードの落ちない気迫のこもった演技だった。3位表彰台を確保し、3年ぶり2度目のファイナル進出を手にした。30歳、2006-7シーズンからGPシリーズに参戦しているベテラン。ファイナルでまたその円熟の技を見せてほしい。

アダム・リッポンは地元アメリカの大声援を受け、またも「魅せた」。FS、NHK杯で鮮やかに決めた冒頭の4ルッツで着氷が乱れ、右肩を痛めたようなしぐさを見せた。しかしかまわず演技を続け、続く3フリップ−3ループの高難度コンビネーションを流麗に決める。この後も、4ジャンプはないもののその完成度の高さ、流れるような華麗な演技で観る者を惹きつける。解説の佐野稔さんが絶賛したポジションのきれいなレイバックスピンで演技を締め、場内は再び大歓声。SPの順位を守って2位をゲット、見事に2年連続のファイナル進出を決めた。

ネイサン・チェンは、SPで世界歴代4位の高得点(PB)を叩き出し、2位以下に15点以上の大差をつけた。それで油断したわけではないだろうが、得意の4ジャンプに乱れが出た。冒頭の4ルッツ−3トウループの超高難度コンビネーションは目にも鮮やかに決めたが、4フリップで手をつき、4サルコウは2回転に抜ける。しかし演技後半、4ルッツをまたもやきれいに決めて大きな得点を得る。しかしこの後の4ジャンプでまた着氷の乱れや転倒があり、演技終了後は顔をしかめた。だが実況のアナウンサーが語っていたように「きわめて挑戦的なプログラム」で、技術点の基礎点が他を圧して高く、加えて演技構成点でも高い評価を得るため、多少のミスが出ても他の選手を下回ることはない。貫禄の優勝で堂々のファイナル進出。昨季からさらに大きく成長した感があるネイサン・チェン、これはファイナルや来る平昌五輪では、羽生結弦や宇野昌磨の強力なライバルになりそうだ。


【 女子 】

最終戦を控えて、残る1枠を争うのは3人。樋口新葉が3位・2位で24ポイント。スケートカナダ3位のアシュリー・ワグナー、NHK杯3位のポリーナ・ツルスカヤは、ともに優勝すればファイナル確定。2位なら樋口との総得点の争いになる。…しかし結果は、思いもよらぬものになった。


SPでジャンプにミスが連発し、8位と出遅れたツルスカヤ。FSでは全体的にまとまった演技だったが、ジャンプの回転不足などで思ったほど得点が伸びなかった。この時点ではトップに立ったが、優勝するにはどうだ?というレベルだった。すると次走、ブラディー・テネル(アメリカ)が、GPシリーズデビュー戦で会心の演技を見せてツルスカヤを上回った。これによりツルスカヤは最高でも2位となり、2戦の総合得点で樋口を下回るため、ファイナル争いから脱落した。

残るアシュリー・ワグナーは、思わぬアクシデントに見舞われた。前半の3つのジャンプを無難にこなした時は順調に見えたのだが、突然演技を中断してしまう。実は1週間前から右足首の感染症にかかっており、それが完治しないままの出場になっていたのだ。歴戦の強豪がこんな形でリタイアするのはとても残念だ。彼女のダイナミックな演技、ぜひ五輪の舞台で見たい。回復と復活を祈るばかりだ。

しかし、これで樋口新葉のファイナル初出場が決まった。あとはこの大会の優勝、表彰台の行方を見つめるだけになったのだが…、ここからが我が期待と想像をはるかに超える展開になった。


もともとSPを宮原知子坂本花織がワンツーで終えたこと自体、うれしい驚きだった。宮原は長いブランク明け2戦目、坂本はシニアデビュー2戦目。まだ上位を占めるのは難しいかなと思っていたのだ。そしてFSでは、この我が驚きをさらに大きく膨らませるサプライズが待っていた。

坂本は、間違いなくキャリア最高の演技。冒頭からジャンプをことごとく決め、着氷も非常に滑らか。映画「アメリ」を独特の振付で表現し、自分の世界を創り上げていた。後半最大の得点源、2アクセル−3トウループ−2トウループのコンビネーションも完璧に決め、ノーミスでフィニッシュ。両手を挙げて大きく飛び跳ね、喜びを爆発させた。得点は141.19、PBを10点以上更新した。トータルでは公式戦で初めて200点を突破、さらに大きく超える210.59。この時点で文句なしのトップになった。続くデールマンが不本意な演技に終わったため、最終滑走の宮原を残し、日本勢2年ぶりのGPシリーズ優勝が決まった。


そして宮原。2週間前のNHK杯ではFSでジャンプにミスがいくつか出て、「ミス・パーフェクト」復活への道はまだまだ遠いな、と思わせた。それからわずか2週間、どこまで持ち直してきたか注目していたのだが、…驚いた。

演技冒頭から、安定したジャンプを次々に決める。実況のアナウンサーが「2週間前はうまくいかなかったジャンプを、ことごとく成功させています!」と驚いていたが、観る側も驚きの連続だった。「NHK杯であれだけ乱れていたジャンプを、どうしてわずか2週間後にこんなにきれいに決められるんだ?」1つジャンプを決めるたびに驚きが増幅されていく。そしてほぼノーミスでフィニッシュ!「ミス・パーフェクト」復活の瞬間だった。日本勢、そして自身2年ぶりのGPシリーズ優勝。これは平昌五輪出場への強烈なアピール、そして足掛かりになった。

このサプライズな好結果もさることながら、ケガによる大きなブランクが、彼女をより強く大きくした感がある。リハビリ中に他の競技の選手たちと交流し、視野が広まったとのこと(卓球の石川佳純と食事に行くほどの仲になった)。確かに彼女の演技からも、その雰囲気からも、今まで以上の落ち着きや精神的なゆとりが感じられる(キスアンドクライで手でハートマークを作るなど、「まじめ一徹」だった彼女にはなかった柔らかさだ)「大きくなったな、宮原知子!」日本女子の第一人者が還ってきた、これは素直にうれしい。


大会前、ファイナルへの残り1枠をめぐる状況を目にした時、私はこう思っていた。

「ツルスカヤかワグナーが優勝したら樋口のファイナルはなしか。となると宮原と坂本に頑張ってもらうしかないな。この二人がワンツーフィニッシュして樋口がファイナル出場、なんてことになれば最高なんだけどな。でもちょっと無理だろうな。坂本はまだシリーズ2戦目だし、宮原はまだ完全には復活できないだろうし。どっちかが表彰台に上がるかどうか、ってところだろうな」

ところが結果は、「最高なんだけどちょっと無理だろう」と思っていたことが実現してしまったのだ! 驚きとともに、深い感銘を味わった私でありました。

来るGPファイナル、そして暮れの全日本選手権が本当に楽しみになってきた。それにしても、この宮原・坂本の躍進を目にすると、日本女子の五輪出場枠が2つしかないのが、今さらながら恨めしい。何とかならんのか! …ならんよなあ。

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2017年11月20日

宇野昌磨、執念のファイナル進出/ロシアティーネージャーがまたもや席捲 〜フィギュアGPシリーズ第5戦・フランス杯〜

GPシリーズもいよいよ大詰め。4戦を終えて男子はミハイル・コリヤダ、女子はエフゲニア・メドベージェワ、カロリーナ・コストナーがファイナル進出を決めている。今大会も、順位によってファイナル進出が決まる選手が男女ともいる。さて、結末はいかに?


【 女子 】

ポイントランキング上位の3選手が順当に表彰台を占め、順当にファイナル進出を決めた。しかしその演技内容は、SP・FSともミスが散見し、やや低調だった。

ケイトリン・オズモンドはSPは完璧だったが、FSでは演技後半ジャンプにミスが目立ち、4位にとどまった。しかしSPの貯金が効いて表彰台は確保し、2年連続のファイナル進出を決めた。得意の豪快なジャンプがファイナルでも炸裂するか。

アリーナ・ザギトワは中国杯と同様、SPでジャンプにミスが出てまさかの5位発進。しかしその遅れをFSで取り戻すのも中国杯と同じ展開で、7つのジャンプをすべて後半に持ってくるタフなプログラムを、またもや完璧にこなした。中国杯を上回るPBをマークし、またもや逆転優勝。堂々の初のファイナルの椅子を手にした。FSでのこの爆発力、とてもシニアデビューとは思えない。ファイナルの大舞台では、2戦ともミスが出たSPをどう仕上げるかが課題になるだろう。

ミスが出た上位2選手を尻目に、SP・FSとも抜群の安定感を見せたのがマリア・ソツコワだった。持ち前の優雅で柔らかな演技を今回もふんだんに見せ、華麗な舞いを披露した。この人はザギトワのような爆発力はないが、確実に上位を占める堅実さがあり、観ていて安心できる。ここでも総合2位を確保し、昨季に続いてのファイナルの座をつかんだ。


三原舞依はまたも惜しいところで表彰台を逃した。SPのコンビネーションジャンプで、壁に近づきすぎてセカンドジャンプが乱れ、4位と出遅れる。FSではすべてのジャンプをきれいに決め、ほぼ完璧な演技を披露したが、上位3選手の牙城を崩すには至らなかった。あのSPでのジャンプのまさかのミスがなければ…と悔やまれる。この悔しさを、暮れの全日本に思い切りぶつけてほしい。

白岩優奈はSPをノーミスでこなし、PBをマークして3位発進。FSでもきらびやかな笑顔を見せながら、のびのびとした演技を披露した。最後の3ループで転倒したのが惜しかったが、ここでもPBを更新し、総合は6位。完璧ではなかったものの、本人としては今大会はかなり満足度が高かったのではないだろうか。暮れの全日本で、また華のある演技を見せてほしいものだ。


この結果、ファイナルへの椅子は5つが埋まり、残るは1つ。24ポイントで待つ樋口新葉の初のファイナル進出なるかは、最終戦・スケートアメリカの結果次第だ。


【 男子 】

今大会の男子シングルは、1人の選手以外語る気がしない。宇野昌磨! 第2戦・スケートカナダで優勝後にインフルエンザを発症し、練習を再開したのは1週間前。表彰台を確保できれば3年連続のファイナル進出が決まる今大会、コンディションが万全なら十分射程内なのだが、体力不足・練習不足で、果たしてどこまでできるのか。


SP、冒頭の4フリップで転倒。飛び上がった瞬間、軸が傾いていた。「やはりこれは無理なのか」と観ていたが、後半の4トウループ・3トウループを見事に決める。これはもう「根性! 気合い!」としか言いようがない。続く3アクセルもやや揺らぎながらこらえる。PBには遠く及ばないものの90点台は確保し、フェルナンデスに続く2位につけた。

そしてFS。フェルナンデスが優勝すれば4位でもファイナル決定という状況だったが、今のコンディションでは4分半の長丁場、ジャンプがガタガタになってもおかしくはない。実際直前の6分間練習でも、4ループは跳ばず、4フリップはことごとく抜けていた。観る側も、恐らくは本人も不安なまま、演技に入った。

冒頭、練習では避けていた4ループに挑み、見事に降りる。続くイーグルからの3アクセルは、好調時と変わらない、流れるような着氷。3ルッツは着氷が乱れたが、大きなミスはないまま演技は後半へ。大きな山場・4フリップを、両足着氷ながら降りる。これも「気合い!」である。しかしこの後4トウループで転倒、続く4トウはこらえるが、宇野のトレードマークといえる3アクセル−1ループ−3フリップ(サードジャンプをサルコウではなくフリップにするのが宇野オリジナル)で転倒。しかし最後のジャンプ・3サルコウ−2トウを決め、コレオシークエンス〜コンビネーションスピンと、最後までスピードが落ちなかった。これまた「根性!」である。「今は自分が一番の敵」と語っていた宇野、守りに入らずに攻め続けた。FSでは1位、総合ではしっかり2位を守り、ファイナル進出を手にした。

試合後のインタビューで「これ以上につらい試合は、今後一切ないかなと思います。『この辛さがあったから今がある』と、今シーズンの後半に言える試合にできたらいいなと思います」と語った宇野。まさに万感の思いがこもった言葉だろう。最悪の状態でも踏みとどまることができる精神力と、それを支える技術力。大事な五輪シーズンにこういう経験ができたことは、彼をさらに大きく成長させるのではないか。この意味で今回のこの苦境は、まさに「禍転じて福」。それを世界に知らしめる大舞台が、間近に迫っている。


男子は第5戦を終えて、まだファイナルへの椅子が4つも残っている。大本命・羽生結弦がリタイアし、常連のフェルナンデスやパトリック・チャンがほぼ無理という状況だからだ。最終戦・スケートアメリカではネイサン・チェン、ボーヤン・ジンの「驚異の4ジャンパー」や、セルゲイ・ボロノフ、アダム・リッポンらが最後の椅子を争う。結果次第ではジェイソン・ブラウンが残る可能性もある。さて、6人の顔ぶれはどうなるのか!


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2017年11月12日

ボロノフ、30歳の初戴冠・女王メドベージェワとロシア勢のダブル優勝/宮原知子は「まずまず」の復活 〜フィギュアGPシリーズ第4戦・NHK杯〜

大会直前、優勝候補筆頭の羽生結弦が、練習中にジャンプで転倒して右足を負傷、欠場するという衝撃のニュースが飛び込んできた。これでGPファイナルへの出場も不可能になり、ファイナル5連覇も潰えた。大事な五輪シーズンに世界No.1選手にこんなアクシデントが起こるとは、「スケートの世界には神も仏もないのか」と毒づきたくなる。暮れの全日本選手権には出場できる見込みとのことでホッとしたが、とにかく早くケガを回復してほしい。

【 女子 】

昨年の全日本以来、11か月ぶりの試合への復帰となった宮原知子。「体は100%回復したが、演技はまだ70%の出来」という不安を抱えたまま、ぶっつけ本番でGPシリーズの初戦を迎えた。確かにSP・FSともジャンプにらしからぬミスが出たが(特にFS後半の3サルコウは、彼女にはありえないような体勢の乱れ方だった)、70%にしてはかなりまとまった演技だったと思う。練習の虫で鳴る彼女が、長いブランクの後ようやく試合に復帰できた喜びが伝わってくるような、観る者に訴える演技だった。総合5位、今の時点ではこんなものだろう。次戦はスケートアメリカ、そして目指すは暮れの全日本選手権。あと1か月余り、あの抜群の安定感を取り戻すことができるか、刮目しよう。

本郷理華は初戦のスケートカナダで取られた回転不足をかなり改善し、持ち前のダイナミックな演技を見せてくれた。ジャンプにまだいくつか乱れがあり、総合は7位に後退したが、演技の内容は上向いていると思う。暮れの大一番までにどこまで仕上げてくるか。

シニアデビューとなった白岩優奈。そのキレのいいジャンプに私はジュニア時代から注目していたが、さすがにNHK杯という大舞台で緊張したのか、SP・FSともジャンプが本来の出来ではなかった。しかしジャンプのキレのよさとスピード感のある演技はやはり魅力的だ(タイプとしては樋口新葉に似ていると思う)。総合8位、まだまだ伸びしろたっぷりの彼女、次戦のフランス大会では本来のジャンプが見たいものだ。


またもや驚異の新星が現れた。これがシニアデビュー戦となるポリーナ・ツルスカヤ(ロシア)。SP・FSともほとんどミスがなく、高いレベルでの安定した演技を披露した。171cmの長身と長い手足を生かした優雅な動き。「ロシアにはまだこんな選手もいたのか」と驚かされた。聞けば、彼女もメドベージェワと同じコーチとのこと。中国杯でのザギトワと同様、この選手もシニアデビュー戦から驚かせてくれた(ただツルスカヤは、ジャンプの構成は「後半に固め跳び」ではなく、オーソドックスに前後半バランスよく跳ぶ)。総合3位で表彰台をキープ。次戦はスケートアメリカ、優勝できればファイナルも射程内だ。

カロリーナ・コストナーは、持ち味の優雅で柔らかな演技を今回も存分に見せてくれた。ジャンプのレベルがさほど高くはないため技術点は高くないが、演技構成点で稼げるのが彼女の強みだ。総合2位を確保し、ファイナルへの進出も決定。こういう「味のある演技」を見せてくれる選手が世界の舞台に復活してくれるのは、ファンの一人としてとてもうれしい。

優勝は、当然のようにエフゲニア・メドベージェワしかしFSでは冒頭のコンビネーションでまさかの転倒、続く3ルッツも着氷が乱れた。しかしここから持ち直し、大崩れしないのが女王たるゆえんだ。両足にテーピングして臨んでいる今大会、コンディションは万全ではないのだろう。それでも優勝してしまう地力の強さがこの人にはある。シリーズ連勝で貫禄のファイナル進出。絶対女王の3連覇なるか。…しかし現時点で、彼女の女王の座を大きく揺るがすような選手は見当たらないが…。


【 男子 】

羽生結弦の欠場で一気に混戦模様となった今年のNHK杯男子シングル。表彰台を占めたのはベテラン勢だった。優勝したセルゲイ・ボロノフは30歳、これがシリーズ初優勝となった。特にすばらしかったのはFSで、ジャンプはすべて着氷に乱れのないほぼ完璧な出来。スピンやステップもダイナミックに演じ、大きな盛り上がりの中でフィニッシュ。場内は満場のスタンディングオベーションに包まれた。恐らくはスケート人生最高の演技だっただろう。終了後のインタビューで、日本語で「ツカレター」とつぶやいて場内を沸かせ、観客にわかりやすいように、ロシア語ではなくやや苦手な英語で話すなど、ファンへの配慮も見せてくれた。ロシアは男子もまだまだ健在である。

2位はこの日28歳の誕生日を迎えたアダム・リッポン。FSでは冒頭で4ルッツを見事に決めた。もともと4ジャンプにはさほど執着せず、演技構成でアピールする選手だが、この4ルッツの成功で技術点を押し上げ、見事に表彰台をつかんだ。その独特の表現力にファンも多いリッポン、次戦のスケートアメリカで、また地元の熱狂的な声援を受けるか。3位には29歳のアレクセイ・ビチェンコ(イスラエル)が入り、表彰台は歴戦の強豪が若手を退ける結果となった。


私の大好きなジェイソン・ブラウンは残念な結果となった。SPで僅差の3位に入り、優勝ならファイナル決定という好位置につけた。キスアンドクライで「ゆずるさんへ、 はやく よくなってください!! ジェーソン」という日本語の手書きのメッセージを掲げ、もともと多い日本のファンにさらに強くアピールした。しかしFSでは2本の3アクセルでともに転倒したため技術点が伸びず、惜しくも表彰台を逃した。しかしその芸術的でエンターテイメント性に富む演技は魅力たっぷりだ。来年の五輪や世界選手権で、また彼の「芸術品」に会えることを願いたい。


日本勢は、体調不良で欠場した村上大介に代わり急きょ出場した友野一希が7位入賞と健闘した。GPシリーズデビュー戦が急に回ってきて準備不足だったと思うが、SPでPBを大幅に更新する会心の演技を見せた。FSでも4ジャンプは決められなかったものの、最後までスピードの落ちない躍動感のある演技を披露した。19歳、今後の伸びしろを考えれば、大変貴重な経験になっただろう。


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