2017年05月08日

浅田真央引退 〜繋げた伊藤みどりからの「トリプルアクセルの系譜」〜

浅田真央が自身のブログで現役引退を表明した4月10日、私は前の週から「あること」に取り組み始めたばかりだった。フィギュア大ファンで、このブログにも多くのフィギュア関連の記事を載せている私が、浅田の引退についてのブログ記事をまとめようと思ったら優に数日はかかる。「根性なし・根気なし」のノーコン人間を自認するこの私が、始めたばかりのことを横に置いてこんなことをしたらまた挫折するのは目に見えている。なので、書きたい気持ちをずっと抑えていた。また、浅田真央の引退についての記事は安易に書けるものではないので、じっくり頭の中でまとめてから書きたいという思いもあった。

その後2週間にわたり、この「あること」もしんどくなるような仕事が続いたのだが、何とか乗り切ってGWを迎えた。GWも「あること」でスケジュールはみっちりだったのだが、この最終盤にきてようやく少し余裕が出てきたので(というより、そればっかりで連休を過ごすのが嫌だったので)、1か月近く経ってようやく、「我が思いのたけ」をギュッと凝縮して、ここに記すことにする(まともに書いたら、どんどん長くなって収拾がつかなくなるだろうから)。


【 出場すれば書かずにはいられない、それが浅田真央 】

彼女の引退表明のあと、私は購読している毎日新聞の彼女に関する記事をすべてスクラップした。朝刊・夕刊・日曜版あわせ、実に19。スポーツ面はもちろん、1面・社会面・社説、「記者の目」、さらには日曜版の、普段は芸能関係の記事が多いコラムでも扱っていた。浅田真央という選手が、単なるアスリートを超えた「国民的アイドル」だったことを示す、この記事の多さと幅の広さである。

世間的にはこうだが、自分自身の彼女への関心度はどうだったのか。それを確かめるべく、このブログ内で「浅田真央」で検索してみた。その数、実に46。カテゴリー「フィギュアスケート」の記事が総数61、2度のオリンピック(2010バンクーバー・2014ソチ)の記事はカテゴリー「五輪・世界大会」に入っているので、これを加えて65。フィギュア関連の記事の70%超で彼女を取り上げていることになるのだ。というか、浅田真央が出場した試合で彼女についてコメントしないことなどありえないので、残り30%は彼女が不出場だったGPシリーズなどなのだろう。つまり出場すれば、記事にした確率100%。いつどんな大会に出場しても、常にセンターに置かれ、注目を一身に浴び、書き手は書かずにはいられない。浅田真央とはそういう選手だったのだ。


【 つないだ伊藤みどりからの「バトン」:応援せずにはいられない 】

GPファイナル4回優勝、世界選手権3回優勝、バンクーバー五輪銀メダル。しかしこれは、彼女の戦績の「上澄み」を記したにすぎない。浅田真央という選手の大きな功績の1つは、フィギュアスケートという魅力あふれる世界を、日本全土に広げ、浸透させたことにある。老若男女を問わず愛され、誰もが「真央ちゃん」と呼んで応援したくなる、その愛くるしいルックスと、スケートへの純粋で真摯な姿勢。彼女の出現によって、フィギュアスケートの日本における認知度は飛躍的に高まった。

しかし私個人としては、「自分をフィギュアスケートの世界にいざなってくれた大恩人」伊藤みどりから始まる「トリプルアクセルの系譜」を、浅田真央が引き継いでくれたことに最大の功績と意義を見る。伊藤みどり本人が、毎日新聞紙上で「トリプルアクセルに挑戦し続けてくれてありがとう」とコメントし、Number誌上でも「真央ちゃん、引退おめでとう」の特別メッセージを贈っているように、浅田真央は伊藤みどりからの「トリプルアクセルのバトン」を受け取り、最後までそのバトンを持って走り続けた。1988年のカルガリー五輪での伊藤みどりの演技に魅了されて以来のフィギュアファンである私にとって、その伊藤みどりの系譜を継ぐ浅田真央は、応援せずにはいられない選手だったのだ。


デビューが早かったので、この世界で21年過ごしてもまだ26歳。これからの人生の方がはるかに長い。「人間・浅田真央」がどんな生き様を見せてくれるのか、これからどんなことに挑戦してくれるのか。長年のファンとして、じっくり温かく見守ろう。

(とりあえずはフィギュアの試合で「解説者・浅田真央」のコメントが聞きたい。橋大輔、織田信成、鈴木明子といった同時代を戦った選手たちは、みなすばらしい解説をしてくれている。世界のヒロイン・浅田真央の解説は、さぞ聞く者の心に染みるものになるに違いない。楽しみだ


P.S. 浅田真央の引退と被ってしまって目立たなかったが、村上佳菜子も引退を表明した。羽生結弦と同世代で、同じ2010-11シーズンにシニアデビュー。いきなりGPシリーズ優勝・GPファイナル表彰台を遂げたシンデレラガールだった。その後も着実に成長し、その弾ける笑顔でファンにアピールしてきた。しかしここ数年はジャンプに苦しんで伸び悩み、若手の追い上げを受けていた。昨年末の全日本選手権のFSで渾身の演技を見せ、演技終了後、感極まってリンクに伏してしまった。今思えばあの時、「これが現役最後の演技」と覚悟していたのだろう。

同期の羽生結弦が世界王者になったのと比べると、その才能を十分には発揮できずに終わった感があり、ファンの一人としては残念だ。しかしその情感あふれるしっとりとした演技は、観る者に訴えた。非常にファンの多い選手であり(リンクに現れた時の歓声の大きさがそれを物語る)、記録よりも記憶に残る選手だ。浅田真央と同様、彼女の人生もこれからまだまだ長い。何より、その「弾ける笑顔」をいつまでも失わずにいてほしいものだ。

(個人的には、2014-15シーズンのSP「『オペラ座の怪人』から“Think of me”」が、彼女の明るくまぶしい雰囲気にマッチしていてすばらしかった。あれが我が「村上佳菜子・ベスト演技」だな)

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2017年04月02日

新しい地平に立ったチャンピオンたち:男子シングルは究極の日本勢1−2フィニッシュ 〜フィギュアスケート世界選手権2017〜

「すごい」としか言いようがない。今季のフィギュアスケートのクライマックス・世界選手権は、史上空前のハイレベルな戦い。女子シングルでは若きディフェンディングチャンピオンが、またも完璧な滑りで世界最高得点をマークして連覇達成。そして男子シングルは、五輪チャンピオンがFSで空前の高得点を叩き出して3年ぶりに王座奪還、さらに日本の誇る「2トップ」がダントツの1−2フィニッシュを決めた。


【 女子シングル 】

大会直前、日本のエース・宮原知子がケガによる欠場を表明。急きょ本郷理華が出場することになった。来年の平昌五輪の出場枠(上位2選手の合計順位が13位以内なら3枠、14〜28位なら2枠)がかかる世界選手権で、GPファイナル2位・全日本選手権3連覇中のエース宮原の欠場は非常に痛かった。急な出場になった本郷、初出場の樋口新葉三原舞依にかかったプレッシャーは大きかっただろう。

本郷と樋口は、シーズン後半のジャンプの不安定さをこの大舞台でも克服できなかった。本郷はFSで転倒1度に加え、3つのジャンプでアンダーローテーション判定を受け、技術点が伸びなかった。樋口も転倒1度にダウングレードや着氷の乱れがあり、得意のジャンプで得点が伸びなかった。ただ演技構成点では4項目で8点台を得ており、表現力の成長は示すことができた。

この中で会心の演技を見せたのが三原だ。SPでは最終盤の3フリップでまさかの転倒があり15位に沈んだが、FSではジャンプを次々にきれいに決め、すべての要素でGOE加点を得る完璧な演技。5コンポーネンツでも4項目で8点台の高評価。FSでは4位に入り、総合でも5位にジャンプアップ。初出場の大舞台で見事入賞を果たした。

しかしこの結果、上位2選手(三原・樋口)の順位合計は16(5+11)となり、日本女子シングルの平昌五輪への出場枠は2にとどまった。宮原の欠場がやはり響いた。年々レベルが上がり、層が厚くなっている日本女子シングル。この2枠の巡っての来季の戦いは熾烈になりそうだ。


我が目を疑ったのが、SP4位のアンナ・ポゴリラヤ。冒頭の3ルッツがシングルに抜けたのがつまずきの始まりで、ジャンプで3度の転倒(計4点の減点)。気落ちした最後のスピンもレベル2にとどまり、FSではまさかの15位。総合でも13位に沈んだ。演技終了後、あまりの出来にリンクに泣き伏してしまった。

昨季の世界選手権で3位に入り、今季のGPシリーズ(連続優勝)やファイナル(3位)でも持ち味を生かしたすばらしい演技を見せていた。「これは一皮むけたな。新しい境地に入ったかな」と、ファンの1人として心から喜んでいた。それだけに、このクライマックスでの大ブレーキは信じられない。でもそのしっとりとした雰囲気が醸し出す、艶のある演技は魅力たっぷりだ。まだ18歳、来季は熾烈なロシア国内の争いを勝ち抜いて、五輪の舞台でまたあでやかな演技を見せてほしい。


表彰台の両サイドを占めたのが、今大会大躍進のカナダ勢。3位のガブリエル・デールマン、2位のケイトリン・オズモンドは、ともにスピードと躍動感あふれる演技を得意とする。その勢いそのままに、SP・FSともにほとんどノーミス。演技構成点でも8点台後半から9点台の高得点で、技術性・芸術性を併せ持つ総合力の高さを見せた。ともにパーソナルベストを更新し、見事に初の世界選手権の表彰台に昇った。この結果、カナダは五輪出場枠「3」を確保。これはロシアのみならずカナダ勢も、日本の強力なライバルになりそうだ。


このハイレベルな戦いの中、まったく揺るがない演技を見せたのが、シニアデビューの昨季GPファイナル・世界選手権2冠、今季もファイナル連覇の「盤石の女王」、エフゲニア・メドベージェワだった。本当にこの人の演技は、とても人間業、しかもまだティーネージャーの成せる業とは思えない。非常にハイレベルな演技構成にもかかわらず、ほとんどミスがなく、しかもGOE加点を得られる要素をそちこちに散りばめている。まさに「女王の勝利の方程式」であり、これを完璧にこなした。FS154.40、トータル233.41はともに世界最高得点を更新。圧巻の連覇を果たした。


来年の五輪、このメドベージェワの「盤石の牙城」を崩せる選手はいるのか。正直、昨季・今季のこのあまりの盤石ぶりを見ると、「大きなミスをしない限り、彼女の五輪女王の座はほぼ決定じゃないのか?」と思ってしまう。彼女を倒すには、限界に挑むようなハイレベルの演技構成を完璧にこなして初めて勝負になるのだ。しかしこれはハイリスクハイリターン、至難の業だ。


【 男子シングル 】

中継のテレビ局が「真・4回転時代」と銘打った今大会。だがこの4回転、選手の取り組み方は大きく2つに分かれるようだ。

1つは、羽生結弦、宇野昌磨、ネイサン・チェン、ボーヤン・ジンに代表される、4回転の種類と回数を増やし、よりハイレベルなジャンプ構成を追求する選手たち(高目追求派)。もう1つは、ハビエル・フェルナンデス、パトリック・チャン、ジェイソン・ブラウンに代表される、4回転は2種類程度に抑え、ジャンプの精度を上げ、演技構成を熟成させて勝負する選手たち(熟成派)だ。

これは過去にもあった構図だ。2010年のバンクーバー五輪で、4回転を跳ばなかった「熟成派」イバン・ライサチェクが優勝し、4回転を跳んだ「高目追求派」エフゲニー・プルシェンコは銀に甘んじた。しかしその後、4回転を複数回跳ぶチャンが世界選手権を3連覇し、他の選手たちは「打倒・チャン」のために「高目追求」を余儀なくされた。その流れの中で羽生が2014年のソチ五輪を制し、その後も宇野ら気鋭の若手の台頭で「高目追求派」が有利に推移していた。しかし、世界選手権では「熟成派」のフェルナンデスが2015・2016年を連覇。「高目追求」はリスクが高いので、彼らにミスが出て「熟成派」が完璧な演技をすると、その円熟の技が勝ってしまうのだ。

昨年のGPファイナルでは、フェルナンデスとチャンがジャンプで失敗し、「高目追求派」の羽生・チェン・宇野が表彰台を占めた。今季のクライマックスではどちらに軍配が上がるのかが注目された。


SPでは、フェルナンデスの熟練の技が冴え、SBを更新してトップに立つ。同じくSBを更新して2度目の100点台を獲得した宇野が2位につける。3位にはこれも100点台に載せたチャンが続く。注目の羽生は4サルコウで転倒し、5位発進。4位にボーヤン・ジン、6位にネイサン・チェンが入り、FSの最終組はこの6人となった。「高目追求派」4人・「熟成派」2人。現在の男子シングルの勢力図そのままのメンバーになった。


さて、その結果は! 今年は「高目追求派」の完勝に終わった。「熟成派」の2人はともにジャンプにミスが出て技術点が伸びなかった。「熟成派」はもともとのジャンプ構成の得点が低いので、ミスをしては「高目追求派」に太刀打ちできない。「完璧に演じなければならない」というプレッシャーを常に背負うのが「熟成派」の宿命なのだ。GPファイナル同様、2人の世界王者がこのプレッシャーに負けた。

そして表彰台を占めたのが、「高目追求派」の3人。銅のボーヤン・ジンは、わずかなポイント差でGPファイナル進出を逃した悔しさを、この大舞台にぶつけた。SP・FSを通じてノーミス、すべての要素でGOE加点を得る会心の演技。5コンポーネンツでもほぼ8点台を獲得し、総合力の高さを見せつけた。2年連続の銅・表彰台。彼のキレのいいジャンプ(特に4ルッツの高さは圧巻!)のファンである私にとっても、彼の復活は非常にうれしい。


昨季の世界選手権ではFSの演技後半で尻すぼみし、7位に終わった宇野昌磨。その悔しさを抱き続けて挑んだ今季、GPシリーズ優勝・2位、ファイナル3位、全日本初優勝と着実に結果を積み上げてきた。その集大成と臨んだ今大会で、最高の結果を出した。

冒頭、今季後半から取り組んだ4ループを見事に決める。シニアデビュー以来、この吸収の速さが彼のすばらしさだ。続く「ギネスホルダー」4フリップもきれいに決める。次の3ルッツで着氷が乱れ、エラーエッジになったのが唯一のミスで、あとはほぼプラス評価。特に後半の3アクセル−3トウで+3.00、3アクセル−1ループ−3フリップで+2.57と、疲れが出る演技後半のジャンプで大きな加点を得ているのがすごい。演技構成点でもすべて9点台を得て、「高目追求」のみならず「熟成」も併せ持ったすばらしい作品に仕上がった。FSで初の200点越え(214.45)、トータルでも初めて300点を越え(319.31)、2度目の世界選手権で堂々の2位表彰台をゲット。見事に去年のリベンジを果たした。


しかし日本のエース、いや世界のエースはもっとすごかった。SP5位、トップのフェルナンデスとは10点以上の差。完璧に演じなければ王者奪還は成らない状況の中で、それをやってのけるすごさ。「絶対王者」を自認する羽生結弦の底力を見た。

まさに「完璧」を絵に描いたような演技だった。先日の大相撲春場所での横綱稀勢の里の逆転優勝の時も思ったが、「どうしてこんなことができるのか」。すべての演技要素が流れるように美しく進み、観る者はただただ酔いしれるのみ。すべての要素で加点を得ているのはもちろんだが、圧巻なのは、3つの4ジャンプ(単独)と3つのコンビネーションジャンプですべて2点以上の大きな加点を得ていること。加えて、5コンポーネンツはすべて9点台、4項目が9点台の後半である。昨季のGPファイナル、「SEIMEI」で世界最高得点をマークした演技を彷彿とさせるが、今回は10点アヘッドを逆転しなければならないという逆境の中にあったので、「気迫」という要素がかなり色濃く加わっていたのではないか。まさに底力である。

FSは223.20。自らが持つ世界最高得点を更新し、トータル321.59。3年ぶりに世界王者の座を奪還した。そしてこの瞬間、日本勢圧巻の1−2フィニッシュが成り、平昌五輪出場枠「3」が確定した。これ以上ない最高のフィニッシュだった。


この男子シングルの結果を見て思うこと:「高目追求派」がミスせずにこなしたら、「成熟派」は勝ち目がないということだ。「高目追求派」はもともとの演技構成レベルが高いので、多少失敗しても勝負になる。しかし「成熟派」はノーミスでこなして初めて勝負になるのであって、今回のようにミスが出ては「高目追求派」に大差をつけられてしまう。

来季はいよいよ五輪シーズン、この2つの「流派」の趨勢はどうなるか。「高目追求派」はこのままを維持するか、さらに4ジャンプのレパートリーを増やすかになるだろう。一方「成熟派」は、勝つために「高目追求派」に宗旨替えするのか、そのままさらなる熟成に努めるのか。その動きを見守りたい。


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2016年12月27日

宮原知子も「世界の地力」で3連覇/世界選手権の男女3選手が決定 〜フィギュア全日本選手権:女子シングルFS〜

今年も目移りしっぱなしだった女子シングル。特に最終グループは、実に「濃かった」。


SPでスピンの際に手袋がブレードに引っかかって外れるというアクシデントに見舞われ、17位に沈んだ白岩優奈。しかしこのFSでは本来の実力をいかんなく発揮した。冒頭、高難度の3ルッツ−3トウをきれいに決める。ステップも流れよくこなし、スピンも軸がぶれず美しい。中盤から後半にかけてのコンビネーションジャンプも着氷に乱れがなく、演技の流れがとてもいい。最後まで表情豊かにスピードに乗ったまま演技が続き、圧巻のフィニッシュ。得点はSBを大幅に更新し、FSでは3位、総合6位にジャンプアップ。昨年の全日本でキレのいいジャンプを次々と決めて5位に入り、鮮烈な印象を残した白岩。今年もFSで本領を発揮、観る者に強いインパクトを残した。


ここ数年、なかなか本来の演技ができずに苦しんでいる村上佳菜子。しかしこの今季の集大成の舞台で、気迫のこもった演技を見せた。ミスの多かったジャンプを着実に決め、苦手の2アクセルもきれいに着氷。そしてステップシークエンスでは、魂の叫びのような動きで観る者に訴える。演技終了後、万雷の拍手の中でなかなか起き上がれない村上。今の自分のすべてを注ぎ込んだ渾身の演技だった。キスアンドクライで山田コーチと樋口コーチに囲まれ、満面の笑みを見せる村上。「演技後の彼女の弾ける笑顔が見たい」というファンは大勢いると思うが(私もその一人)、ようやくそれを見ることができた。


「今の自分のすべてを注ぎ込んだ」これは浅田真央も同じだった。冒頭、SP同様「挑戦の3アクセル」。しかし両足着氷になり惜しくも転倒。しかしその後のコンビネーションなど、ジャンプは着実に決める。後半、3サルコウでまたも転倒、3フリップもシングルに抜ける。それでも心を折らず、最後のステップをダイナミックに演じる。フィニッシュ後、「まあ、しょうがないか」という表情を浮かべた。

解説の荒川静香さんは「まだ本調子には戻り切っていない中で、3アクセルを失敗した直後に3フリップ−3ループのコンビネーションに果敢に挑んだように、意欲を持って滑れることがすごく大事なことで、他の選手たちにも伝わったのではないかとコメントした。どんな状況でもその時々のベストを尽くす、これが浅田真央であり、若い選手たちが「真央ちゃん」と慕ってやまないのも、こういう彼女の姿勢がすばらしいお手本になっているからなのだ。


今季からGPシリーズに本格参戦した松田悠良冒頭、2アクセル−3トウ−3ループの驚異の高難度コンビネーションを鮮やかに決める(サードジャンプに3回転を持ってくるのがすごい。ループの得意な彼女の真骨頂だ)この後のジャンプもすべてGOE加点を得る安定感を見せ、伸びのあるスケーティングで最後までスピードが落ちない。トータルでSBを更新したが、総合では10位にとどまった。しかし彼女のキレのいい、目に鮮やかなジャンプは魅力たっぷりだ。


最終グループの前まででコメントがこんなに長くなってしまう。「百花繚乱・目移りクラクラ」の全日本の女子シングルは、毎年こんな感じだ。最終グループの6人:(演技順に)本田真凜、三原舞依、坂本花織、宮原知子、樋口新葉、本郷理華なんと「濃い」メンバーか。ここまではコメントする選手を厳選してきたが、この6人ではとてもコメントをカットすることなどできない。時間はかかるしスペースは取るが、ここはじっくり取り組むとしよう。


SP4位の本田真凜。冒頭の3ルッツはきれいに決めたが、続くコンビネーションの3フリップがシングルに抜ける。しかしそのあとのステップシークエンスはしなやかに、軽やかに滑る。2アクセル−3トウ−2ループの3連続で大きな加点を得、続く3サルコウ−3トウも柔らかな着氷。前半のミスのリカバリーのために、後半に3−3を持ってくるというタフな構成をしっかり決めた。コレオシークエンスでも1点以上の加点を得、その後のジャンプもすべて加点を得るきれいな着氷。フィニッシュのあと、微笑みながら軽く首をひねった。前半のフリップのミスを悔やんでのことだろうが、それを後半の連続ジャンプで見事にリカバリーした。2週間前に体調を崩し、コンディションも練習も不十分なままで臨んだであろう今大会だったが、それを感じさせない気持ちのこもった演技だった。総合でSBを更新して4位を保ち、初の全日本選手権入賞を果たした。来季はいよいよシニアデビューになるのだろうか。解説の荒川静香さんが「雰囲気のある選手」と評した彼女、その「きらめき」が今後どう成長していくのか、じっくりと見守りたい。


SP5位の三原舞依。シニアデビューの今季、GPシリーズ初戦のスケートアメリカで見事に3位に入ったが、次戦で惜しくも表彰台を逃してファイナル進出はならなかった。次なる世界の舞台・世界選手権を目指しての挑戦のFSだ。冒頭、3ルッツ−3トウを鮮やかに決める。ランディングが非常に柔らかで、流れがいい。ステップも軽やかに踏み、後半の2アクセル−3トウ、3ルッツからの3連続もきれいに着氷。最終盤の3ループ、3サルコウもしっかりと降りる。すべての要素でGOE加点を得る完璧な演技で、スケートアメリカでの「シンデレラの輝き」を見事に再現して見せた。昨年の全日本は、難病と闘いながら病院のベッドで観ていた三原。その時自分を励ましたのは、最終グループの選手たちの演技だった。今年、その最終グループに自らが入り、最高の演技で締めくくった。まさに夢のような時間だったに違いない。荒川静香さんが「一度大変な経験をした選手は、滑れることが当たり前ではないということを知っていますから、滑れる喜びを力に変えることができるんです」と語ったが、その喜びを全身でスパークさせた、今季のベストパフォーマンスだった。トータルでSBを更新し、見事初の全日本の表彰台に立つとともに、世界選手権への出場も決めた。すばらしいジャンプアップである。


SP6位、今季のジュニア女王・坂本花織このFSは、ジャンプのミスに泣いた。冒頭の3フリップ−3トウで、セカンドジャンプの着氷が乱れる。続く3ルッツ、3サルコウはきれいに決め、後半の2アクセル−3トウも軽やかに降りる。さらに3フリップからの3連続も着実に決め、「これはリカバリーしてきたな」と思った矢先、3ループで転倒。ステップシークエンスでは持ち前の伸びやかなスケーティングを見せたが、転倒の減点が響いて総合では7位に後退した。しかし橋大輔さんが言う「男子も顔負けのすばらしいジャンプ」をはじめ、伸びのあるスケーティングなど、彼女も魅力たっぷりだ。来年の世界ジュニアでは、その魅力を世界に見せつけてもらいたいものだ。


3連覇がかかる女王・宮原知子。SPでは貫禄の首位発進。しかしこのFSは、やや苦笑いの結果になった。冒頭の3ループは流れるように決めたが、続く3ルッツ−3トウでセカンドジャンプが、本人曰く「勢い余って」回転不足&ステップアウト。続く3フリップは着実に決め、ステップシークエンスでは、戦いをイメージしたホルスト・惑星の「火星」の荒々しい響きをバックにダイナミックに演じる。後半、3ルッツからの3連続、2アクセル−3トウを鮮やかに決め、スピードに乗ったコレオシークエンスで大きなGOE加点を得る。最後はトレードマークの左右両回転のコンビネーションスピン。完璧ではなかったが、しっかりまとめて試合を作った。この安定感、乱れの少なさが宮原の強さだ。トータルでは唯一200点台に乗せる214.87。圧勝で全日本3連覇を決めた。

それでも、宮原は大きな喜びは見せなかった。完璧ではなかったことと、「これでは世界選手権では勝てない」という思いがあるからだろう。あの盤石の女王・メドベージェワを破るためには、SP・FSともノーミスの「至高の演技」をしてようやく勝負の舞台に立てる。それを一番かみしめているのは宮原本人だろう。3か月後、今季のクライマックスの舞台で、その「至高の演技」を世界に披露することができるか。


SP3位の樋口新葉。満を持してシニアデビューを果たした今季、GPシリーズでの表彰台はつかんだものの、ファイナルへの進出は逃した。残る世界の舞台はヘルシンキでの世界選手権のみ。その出場権をつかむための、勝負のFSだ。「シェヘラザード」の妖艶な調べに乗り、冒頭の3ルッツ−3トウを高々と決める。続く3ループも大きな加点。中盤の3サルコウでまさかの転倒があったが、ステップシークエンスで気持ちを持ち直し、後半の3ルッツ−3トウを鮮やかに降りる。この後半の得点源をしっかりと決めたのが大きかった。この後のジャンプも着実に決めてフィニッシュ。トータルでSBを更新し、199.49。本人が得点を見て「あー、もう1点もない!」と叫んだように、200点にわずかに届かなかったが、今季のベストパフォーマンス。昨季に続く2位に入り、目標としていた世界選手権の切符も手にした。

ついに日本の誇る大器・樋口新葉がシニア世界の大舞台に乗り出す。メドベージェワとは頻繁にメールのやり取りをするほどの親友とのこと、この結果もすぐにメールしたに違いない。親友同士が相まみえる世界の大舞台で、その大物ぶりを発揮できるか。


SP2位、最終滑走となった本郷理華。今季はGPシリーズで表彰台に上がれず、ファイナルを逃した。世界選手権出場のためには表彰台、しかも2位以上が必須。だがそれがプレッシャーになったのか、ジャンプにミスが出た。冒頭、コンビネーションの予定だったが、3フリップの着氷がスムーズでなく単独に。続く3ループも2回転に抜ける。しかしリズミカルな音楽に乗って少しずつリズムを取り戻し、後半の2アクセル−3トウ−2トウをきれいに決める。そして見せ場のステップを軽快に踏み、最終盤で3サルコウ−3トウを見事に決めた。最後は大きな盛り上がりの中でフィニッシュしたが、前半のジャンプのミスが響いて総合5位に後退。世界選手権は惜しくも逃した。

シニアデビューの2014年、いきなりGPシリーズ優勝とファイナル出場。暮れの全日本では宮原と僅差の2位に入り、一躍シンデレラガールとなった本郷。このシーズンの安定感、精神的な強さはすばらしかった。しかし昨季から、ジャンプに回転不足などわずかな乱れが見られるようになり、成績が不安定になった。今季もこれを克服できず、ジュニア勢の追い上げもあって世界の舞台を逃してしまった。この不安定さの原因はわからないが、これを克服してかつての安定感を取り戻さねば、今後の彼女のスケート人生は厳しいものになるだろう。日本人選手にはまれな長身と長い手足を持つ彼女、そのスケールの大きいダイナミックな演技はやはり魅力的だ。この他の選手にはない強みを生かし、リカバリーしてほしい。多くのファンがそう願っているはずだ。


この結果を受け、来年3〜4月の世界選手権の出場選手は、男子は宇野昌磨、羽生結弦、田中刑事。女子は宮原、樋口、三原と決まった。現時点でのベストメンバーと言っていいだろう。


全日本を終えた現時点での状況を総括すると、女子は才能あふれるティーネージャーたちが互いに競い合い、刺激し合いながら着実に世界と戦える力を身に着けており、非常に層が厚い。対して男子は、羽生結弦・宇野昌磨の「2トップ」は十分世界と伍する力を持っているが、後に続く選手たちがケガなどで伸び悩み(その筆頭が昨年のユース五輪覇者の山本草太)、水をあけられている状況で、やや層が薄い。2018年の平昌五輪の3枠を世界で戦える選手で占めるためにも、「第三の男」の出現が切に待たれる。


さて、今季も残る大一番は来年3〜4月の世界選手権。この結果で平昌五輪の出場枠も決まる。男女とも「例年通り」3枠を確保できるか。そして羽生結弦の3年ぶりの王者奪還はなるか、日本の強力ティーネージャートリオは女王メドベージェワの牙城を崩せるか。見どころは尽きない。


P.S. ネットでロシア選手権の結果を見たら、エフゲニア・メドベージェワがSP・FSともトップの完全優勝を決めた。これは順当で驚きはしなかったが、驚いたのはその演技内容。何とFSの後半に、3サルコウ−3トウ−3トウの3連続3回転を決めたのだ(サードジャンプが3回目の3トウになってカウントされなかったが)。女子の連続ジャンプのレベルはどんどん上がっており、「いつか3連続3回転を跳ぶ選手が出てくるんじゃないか」と思っていたのだが、こんなに早く現れるとは思わなかった。しかしそれに挑んだのが女王・メドベージェワというのはうれしいことだ。今のままでも十分女王の座は守れると思うが、そこに安住せずにさらなる高みを目指す。これは男子の羽生結弦とも通じる向上心の高さ、チャレンジングスピリットだ。男女とも進化と発展を止めないフィギュア界。これだからフィギュアスケート観戦はやめられない。

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2016年12月25日

宇野昌磨、「世界の地力」で全日本初制覇/宮原知子、「戻ってきた盤石」でダントツ首位発進 〜フィギュア全日本選手権:女子シングルSP・男子シングルFS〜

【 女子シングル・SP 】

「毎年暮れの百花繚乱」全日本の女子シングルが始まった。今年も例年同様、成長したシニア、伸び盛りのジュニアと、「目移り&クラクラ」の大会になってきた。


全日本ジュニア優勝の坂本花織。世界ジュニアへの出場を確定させて臨む、4度目の全日本である。冒頭の3ループでステップアウトしたが、3フリップ−3トウのコンビネーションはGOEで大きな加点を得るすばらしい出来。ステップシークエンスも躍動感のある動きで観衆を魅了した。得点は63.36、表彰台圏内の6位につけた。


今大会で初めて見た選手で目を引いたのは滝野莉子。今回が全日本デビューの14歳である。曲はストラヴィンスキー「火の鳥」(この曲を聴くと町田樹のソチ五輪での熱演を思い出す)。まず「おっ」と思わせたのが、冒頭の3フリップ−3トウのコンビネーション。回転の速いキレのあるジャンプで、まさに「目にも鮮やかに」決めた。後半の3ルッツ、2アクセルも安定した着氷で、ステップも体を大きく使ったダイナミックな動き。演技構成点が低いため上位には入れなかったが、技術レベルはすでにかなり高い。これからの成長が楽しみだ。


GPシリーズではジャンプの回転不足判定に苦しんだ本郷理華。しかし今回はそこをしっかり修正し、ジャンプはすべてGOE加点を得、本来の安定感を取り戻してきた。長い手足を生かした持ち前の大きな演技も健在。定評のあるスピンとステップも流れよくこなし、今季のベスト演技でフィニッシュ。得点は69.20、SBを大きく更新して2位につけた。


しかし、続く全日本2連覇中の女王・宮原知子はもっとすごかった。GPシリーズ2戦ではジャンプにやや乱れがあって苦しんだが、それをファイナルで取り戻した。そして今回で、「どうしてあんなに完璧な演技ができるんだろう」と観る者を感嘆させる、盤石な安定感を完全に復活させた。「ただ見とれるだけ」という感じの完璧な演技で、SBをさらに更新する76.49。ダントツの首位に立った。


全日本で2年連続表彰台、今季満を持してシニアデビューした樋口新葉。解説の荒川静香さんも指摘していたが、今季の彼女の演技を観て思うのは、緩急をうまく使っているということだ。昨季までは持ち前のスピードを生かしてビュンビュン飛ばすイメージだったが、今季はゆったりとした柔らかな動きが加わり、演技に深みが増した。後半の2つのジャンプも切れ味よく決め、ステップでも大きなGOE加点を得る。フィニッシュの瞬間、感極まった笑顔を見せた。ジャンプでエッジエラーがあったため70点には届かなかったが、68.74で3位。3年連続のメダルに向けて好発進だ。


村上佳菜子はGPシリーズ同様ジャンプのミスに泣いた。冒頭のコンビネーションジャンプはよかったが、3フリップがシングルに抜けてしまった。表現力と表情の豊かさでは本来の持ち味を見せてくれただけに、このミスが惜しかった。


最終グループ第1滑走の三原舞依。スケートアメリカで3位表彰台に上がり、鮮烈なシニアデビューを飾った今季のクライマックス・全日本で、またすばらしい演技を披露してくれた。冒頭の3ルッツ−3トウは完璧、ステップも流麗にこなす。最終盤に入れた3フリップもきれいに決め、満面の笑みでフィニッシュ。得点は65.91、上位と僅差の5位につけた。


2週間前のジュニアGPファイナルを、インフルエンザで無念の欠場となった本田真凜。まだ体調は十分には回復していなかっただろうが、今できる最高の演技はできたのではないか。フィニッシュのあとは感極まり、涙を流した。

彼女を見ていて思うのは、「本当に華のある選手だな」ということ。こういう雰囲気は作れるものではなく、生来彼女に備わっているものだ。その「生来の輝き」を十二分に生かし、表情豊かに演じ切った。ゲストの橋大輔さんのコメント「ただただ、素敵でしたね」がすべてを物語る、彼女の魅力が氷上でスパークした演技だった。67.52で4位、メダルは十分射程内だ。


そして、最終滑走は浅田真央こういう「大トリ」が回ってくるのは、やはり彼女の持つ運命か。しかしあまりよくなかった今季の流れを、ここでも回復することはできなかった。冒頭、3アクセルを狙っていたがシングルに抜ける。残る2つのジャンプはしっかりと決め、最後のステップはさすがに圧巻。フィニッシュ後、「まあ、こんなもんかな」という表情を見せた(終了後のインタビューでも「3アクセルに挑戦できる状態まで来た喜びがあった」と語った)。着実に上向いている調子を、FSでどこまで発揮できるか。今の彼女にできる最高の演技を見せてほしい。


SPの結果:宮原知子が唯一の70点台で貫禄の首位、7点差で本郷理華、以下樋口新葉、本田真凜、三原舞依、坂本花織と続く。実力と実績ある選手が順当に上位を占めた。2位本郷と6位坂本の差はわずか6点足らずの大混戦。世界選手権の3つの椅子をめぐるFSは、わずかなミスが勝敗を分ける厳しい戦いになりそうだ。


【 男子シングル・FS 】

絶対王者不在の男子。初の全日本の王座をめぐって熾烈な戦いが繰り広げられた。

全日本ジュニア2位の島田高志郎・15歳。まだあどけなさが残る中学3年生だが、演技は実にしっかりしていた。まだ4回転や3アクセルはないが、すべてのジャンプを大きなミスなく決め、勢いのあるステップで最後まで流れが途切れなかった。トータルで自身初の200点越え。大舞台で会心の演技、これは大きな自信、経験になっただろう。


SP4位の日野龍樹。このFSでは、4回転こそないものの、冒頭の3連続や3アクセルなど、GOE加点を得るジャンプを次々に決めた。ステップにも躍動感があり、この大舞台で自分のスケートを存分に見せてくれた。解説の本田武史さんがおっしゃっていたように、NHK杯と比べるとよく体が動いており、あの経験が彼には大きな財産になったようだ。「一皮むけた」とはこのことか。トータル230.31はもちろんPB、自己最高の4位に入賞した。すばらしいジャンプアップである。


全日本ジュニア優勝の友野一希。SPで6位につけ、初の最終グループでの演技。しかしそのプレッシャーをものともせず、冒頭の4サルコウを見事に決める。この後もほとんどのジャンプでGOE加点を得、軽快な音楽に乗って軽やかにステップを踏む。大きな盛り上がりの中でフィニッシュ、観衆はスタンディングオベーションで称えた。FS、そしてトータルでもSBを更新。世界ジュニアに向けて勢いのつく好演だった。


SP3位、世界選手権への切符も視界に入る田中刑事。冒頭の4サルコウはきれいに決めたが、続く4サルコウが3回転になり、3アクセルも両足着氷。しかし後半のジャンプはよどみなく決め、ダイナミックなステップでプログラムを盛り上げる。前半のミスを後半でリカバリーし、トータルでSBを更新。この時点でトップに立った。


この全日本のFSを初めて首位で迎えた無良崇人。冒頭の4トウループは何とかこらえ、続く4トウ−2トウ、得意の3アクセルもきれいに決める。いい滑り出しだった。しかし後半に入ってジャンプに乱れが出る。4サルコウが3回転に、3アクセルがダブルになり、それを取り戻すべく再び3アクセルを跳んだが、リピートで基礎点が70%に。最終盤のコンビネーションも単発になった。これらが響いてトータルで田中を下回った。後半にもうひと踏ん張りできれば、と惜しまれる。


最終滑走の宇野昌磨正直、すばらしい演技とは言い難かった。しかし、よくこらえ、しっかりと試合を作った。これが率直な感想だ。非常にハイレベルなジャンプの演技構成を、着氷は乱れてもしっかり回転し、基礎点を落とさない。ポイントのコンビネーションジャンプもしっかり決め、スピンやステップでも確実にレベルを取り、GOE加点を得る。この「世界の地力」で技術点は100点を超えた。これが「世界を狙う」宇野昌磨の強みだ。フィニッシュ後、しばらく顔を上げられなかった宇野。かかったプレッシャーは、これまで経験のないものだったに違いない。トータル280.41、2位田中に30点以上の差をつける圧勝で、全日本選手権初優勝を決めた。SP・FSとも少なからぬミスがありながらのこの大差勝ち。現時点では、羽生結弦と宇野昌磨が、日本男子ではダントツの2トップと言っていいだろう。いや、強くなったものだ。

(試合後のインタビューで、「SPのジャンプのミスが、どうしてミスをしたのかがわからないままにFSを迎えてしまった」と語った。大きな不安を抱えたままで臨んだFSだったわけだが、それでも致命的なミスはせずに試合を作る、ここにも彼の強くなった姿を見て取れる。これは世界選手権がいよいよ楽しみになってきた)


もうこれでお腹いっぱいという感じだが(今日のこの記事を書くのもかなり疲れた 苦笑)、まだ今夜、女子シングルのFSが残っている。またえらくエナジーを消費しそうだなあ。でも、すごく楽しみだ。宮原知子、樋口新葉、そして本田真凜。どんな「作品」を見せてくれるのか。

posted by デュークNave at 11:06| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月24日

無良崇人、ほぼ完璧の首位発進/宇野昌磨、不本意ながら僅差の2位 〜フィギュア全日本選手権・男子シングルSP〜

フィギュアスケート暮れの風物詩・全日本選手権が開幕した。しかし今年は、開幕前に激震が発生! GPファイナルで前人未到の4連覇を果たし、この全日本も4連覇中の大本命・羽生結弦が、インフルエンザを発症して欠場。男子シングルはにわかに混戦模様となった。優勝候補は、GPファイナル3位の宇野昌磨、歴戦の猛者・無良崇人、NHK杯でGPシリーズ初の表彰台に昇った田中刑事誰が勝っても初優勝である。


第4グループ第3滑走となった宇野昌磨。冒頭、コンビネーションを予定していた4フリップでステップアウト。代わりにコンビネーションにしようとした4トウループで転倒。GPファイナルに続いて、SP最大の得点源であるコンビネーションジャンプにミスが出てしまった。しかし後半の3アクセルはきれいに決め、スピンとステップも音楽とマッチした流れるような動きでプログラムを盛り上げる。得点は88.05、コンビネーションジャンプが抜けるという大きなミスがあったにしては高い得点である。これはつまり地力の向上、大きなミスがなければ世界のトップを争える基盤能力が身に着いたことを示している。「世界の地力」を身に着けた宇野昌磨、FSでその力を見せつけることができるか。


宇野の直後に滑った無良崇人。今季はGPシリーズでは今一つで、この全日本に世界選手権への切符がかかっている。冒頭の4トウループをこらえ、続く無良の代名詞・3アクセルを豪快に決める。後半の3ルッツ−3トウも流れよく決め(セカンドジャンプの3トウがすばらしい高さだった)、タンゴのタップ音だけをバックに滑るステップシークエンスもダイナミックにこなす。得点は90.34、シーズンベスト(SB)でトップに立った。GPシリーズの不振を振り払う、今季のベスト演技だった。


最終グループでは、先のNHK杯での経験を生かした2人が強く印象に残った。山本草太の欠場で急遽GPシリーズ(NHK杯)に初出場した日野龍樹。この大舞台での経験が大きな糧になったのか、全日本の最終グループでの第1滑走というプレッシャーがかかる場面で、実にのびのびした演技を見せてくれた。まず冒頭の3ルッツ−3トウを鮮やかに決め、続く3アクセルもきれいに降りる。後半の3ループも着実に決める。場内の手拍子に乗りながら流麗にステップを踏み、大きな盛り上がりの中でフィニッシュ。最後のポーズを決めると破顔一笑、渾身のガッツポーズを見せた。得点はSB更新の78.65、優勝候補3人に続く4位につけた。NHK杯の時は緊張感がありありだったが、この全日本ではしなやかで流麗な演技。これがこの人本来の演技なのだろう。

(振付師の名を見て驚いた。ナタリア・ベステミアノワ1988年カルガリー五輪アイスダンスの金メダリストである。彼女とアンドレイ・ブーキンの、大人の香り漂う妖艶な演技は絶品だった


NHK杯でGPシリーズ初メダルと、大きく飛躍した田中刑事。演技冒頭の4サルコウはステップアウトしたが、続く3アクセルはきれいに着氷。後半のコンビネーション・3フリップ−3トウも流れの中で決め、ステップシークエンスも体全体が実にダイナミックな動きで、観衆から自然に手拍子が沸く。盛り上がり最高潮の中フィニッシュ、得点は85.68のSB。トップ無良に5点差未満の射程圏内につけた。


羽生の欠場で盛り上がりに欠けるかと思われた男子シングルだったが、上位4選手がハイレベルな演技を見せてくれたおかげで予想以上にエキサイティングになってきた。世界選手権への出場権のかかる今夜のFSでも、SP同様のすばらしい演技の競演を観たいものだ。

posted by デュークNave at 10:22| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする