2018年03月25日

男女とも来季3枠確保! 波乱と歓喜の五輪シーズン・エンディング 〜フィギュア世界選手権・男女シングル〜

五輪シーズンの掉尾を飾る世界選手権。例年オリンピック直後の世界選手権は、「燃え尽き」もあるのか波乱の展開になることが多いが、今回も例外ではなかった。

五輪メダリストのうち、羽生結弦、ハビエル・フェルナンデス、エフゲニア・メドべージェワが欠場。日本からは、男子は五輪銀メダリストの宇野昌磨、田中刑事に加え、羽生の欠場と無良崇人の引退により急遽出場が決まった友野一希。女子は五輪4位の宮原知子樋口新葉という顔ぶれになった。来季の世界選手権の出場枠がかかった今大会、最大の3枠確保のためには、上位2名の順位合計13位以内が求められる。エース羽生を欠く男子、3枠復活のために2人ともミスが許されない女子。厳しい状況の中で迎えた五輪シーズンのファイナルだった。


【 女子シングル 】

SPのコンビネーションジャンプで転倒して8位発進となった樋口。「3枠復活」のためには、これ以上順位を落とすことはできない。今シーズンのラスト演技、魂を込めた。冒頭、やや苦手としている3サルコウをきれいに決め、続く最大の得点源・3ルッツ−3トウループも余裕で降りた。これで勢いに乗り、後半の3ルッツ−3トウループも流れよく決める。この後のジャンプもすべて加点を得、スピンもすべてレベル4。ステップもダイナミックに踏み、大きな盛り上がりの中でフィニッシュ。「やったー!」と叫びながら、渾身のガッツポーズ。リンク上で、キスアンドクライで感涙にむせぶ。間違いなく、今季のベストパフォーマンスだった。得点は当然のSB、145.51。トータル210.90で、最終グループの6人を残してトップに立つ。この時点で、宮原が6位以内なら3枠復活という状況になった。


最終グループ、まず1番滑走のケイトリン・オズモンドがほぼ完ぺきな演技で樋口を抜き、トップに立つ。しかし続くマリア・ソツコワは後半のコンビネーションジャンプで転倒、回転不足も4つ取られ、表彰台争いから脱落する。ガブリエル・デールマンも得意のジャンプに着氷の乱れが目立ち、技術点が伸びない。この時点で樋口は2位を保ち、5位以内が確定した。


そして宮原。SPではコンビネーションジャンプで回転不足を取られたものの3位発進。五輪のような「ミス・パーフェクト」演技を再現できれば、逆転優勝も十分射程圏内だった。しかし2つのコンビネーションジャンプでアンダーローテーションとされ、後半の3サルコウが2回転になり、まさかの転倒。宮原の転倒などめったに見られるものではなく、やはり五輪後の疲れ、燃え尽きがあったのか。しかしスピンやステップはすべてレベル4を得、大きく崩れることなくプログラムをまとめた。得点は135.72、トータル210.08。樋口に次いで3位に入った。本人としては不本意な出来だっただろうが、これで樋口の4位以内、宮原の5位以内が確定し、日本の来季の「3枠」復活が決まった。あとは2人の最終順位がどうなるかだったのだが…、思いもよらない結末が待っていた。


宮原の後に登場した15歳の五輪女王、アリーナ・ザギトワ。シニアデビューの今季、出場した7大会すべてで優勝。この世界選手権を制すれば、GPファイナル・五輪と併せ3冠達成という快挙になる。それは濃厚と思われたのだが、…思わぬ落とし穴が待っていた。演技後半の最初のジャンプ・3ルッツでいきなり転倒、コンビネーションにできない。続く2アクセル−3トウループも転倒。3連続は決めたものの、3ルッツに3ループをつけたコンビネーションで3度目の転倒(3度転倒すると−4の減点になる)。五輪女王を後押ししようと観衆が大きな拍手を送り、ザギトワもこのあと懸命に演じたが、ジャンプのミスが大きすぎた。FSでは7位に沈み、表彰台も逃す。キスアンドクライで涙にくれるザギトワ。五輪後の疲れ、女王として迎えた大舞台でのプレッシャーもあっただろう。今季初めて喫した黒星は、来季への苦くも貴重な教訓になるはずだ。


最終滑走はSP1位、地元のカロリーナ・コストナー。実に14度目の世界選手権出場、31歳の彼女にとってこれが最後の舞台となるかもしれない。「母国での優勝で有終の美を飾る」。美しきシナリオは出来上がっていたのだが…。冒頭の3ルッツが2回転に抜ける。この後のジャンプは堅実に決めるが、単独のジャンプが多くて技術点が伸びない。後半もアクセルが1回転になり、3サルコウで転倒。もともとこの人のジャンプ構成の難度はさほど高くなく、表現力を磨いて演技構成点で勝負する選手なので、ジャンプにミスが相次ぐと苦しい。FSでは5位にとどまり、総合4位に終わった。「有終の美」を飾ることはできなかったが、この人の柔らかく情感あふれる演技はいつ見ても見惚れてしまう。フィギュア史上屈指のアーティスティック・スケーターだろう。


結果、樋口が銀、宮原が銅と、日本選手がダブル表彰台。これは2007年東京大会で安藤美姫浅田真央がワンツーフィニッシュして以来、11年ぶりの快挙だ。特筆すべきは樋口の銀。有力選手がミスで沈んだとはいえ、SP8位からFSでは2位に入り、大逆転での初のメダル。これは本人も驚く好結果だったのではないか。

思えば今季は、当初から五輪出場を強く意識したシーズンだったはずだ。GPシリーズではロシア大会3位・中国大会2位と着実に実績を積み、初めてGPファイナル進出を決める。この時点では、ケガで出遅れていた宮原をもしのぐ実績を挙げていた。しかし暮れの大一番・全日本で、宮原が復活優勝を果たし、シーズン後半に上り調子になっていた坂本花織が僅差の2位に入り、4位に終わった樋口は五輪出場権を坂本にさらわれた。GPファイナルで最下位に終わったあたりから調子が下降線をたどっている感があったが、その懸念がこの「決定戦」でも出てしまった。シーズン前半は圧倒的にリードしていた五輪出場レースで、最後の最後で「差されてしまった」。この悔しさは察するに余りある。

この無念さがあっただけに、今季最後の大舞台ですばらしい結果を出すことができたのは、本人にとってとてつもなく大きなことだろう。13歳で全日本の3位に入ったころからすでに大物感を漂わせていたが、その大器がついに世界の舞台で大きく花開いた。この彼女の開花は、本人にとっても日本フィギュア界にとっても大きな収穫だろう。


【 男子シングル 】

SP終了時点で、宇野が5位、友野が11位、田中が14位と、来季の3枠獲得が危うい状況だった。宇野は五輪後に痛めた右足が完治しておらず、FSで順位を上げていけるか微妙。初出場の19歳・友野と「第三の男」田中の奮起が求められた。


この中で、会心の演技を見せたのが友野だった。昨年暮れの全日本で4位に入ったのが自信になったのか、「ウエストサイド物語」のリズミカルな音楽に乗り、みずみずしい演技を見せた。冒頭、4サルコウ−2トウループをやや乱れたが降り、続く4サルコウはきれいに決める。さらに3アクセル−3トウループでも加点を得る。後半も3連続を含む5つの3ジャンプを着実に決め、スピンもレベルの取りこぼしなし。ステップもダイナミックに踏み、場内の大きな手拍子の中フィニッシュ。得点はSBを18点近く更新する173.50、FSでは3位に飛び込む高得点だった。トータル256.11で、この時点でトップに立つ。この友野の大ブレイクが、3枠確保に大きく貢献した。


そして宇野。この時点で友野の7位以内が確定し、宇野が6位以内なら3枠獲得という状況だった。普段の彼の実力なら全く問題のない順位なのだが、今回は右足負傷というネックがある。これをどこまで克服できるかだった。冒頭、五輪でも転倒した4ループでまたも転倒。さらに、五輪では決めていた4フリップも転倒。さらに後半では、得意の3アクセルの着氷が乱れ、続く4トウループでまたも転倒(これで減点4)。この時は「このあとの3つのコンビネーション、跳べるのか」と思ったが、ここからがすごかった。4トウループ−2トウループ、3アクセル−1ループ−3フリップ、3サルコウ−3トウループと、コンビネーションをすべて成功、すべて加点を得る(佐野稔さんが観ていたら「男!」とか「根性!」とか叫びそうだ)。思えば五輪でも、最後の2つのコンビネーションを気合いで決めて銀メダルを取った。そしてこの世界選手権でも、五輪以上のミスがありながら、最後の3つを鮮やかに決めてみせた。「すごい!」としか言いようがない。4人を残して宇野がトップに立ち、この時点で来季の3枠が確定した。


最終滑走はネイサン・チェン。五輪ではSPで魔物に取りつかれたが、FSでは4ジャンプを五輪史上初めて5本決め、5位まで挽回した。今大会では、SPで完璧とは言えないが首位発進し、初制覇に最短距離の位置につけた。そしてFSでは、五輪をさらに上回る圧巻の演技を見せた。またも4ジャンプに6度挑み、5度成功。技術点は驚異の127.62。加えて演技構成点もほとんど9点台を獲得し、併せて219.46。トータル321.40は、羽生結弦に次ぐ史上2位の高得点である。五輪のうっ憤を晴らすような圧勝で、チェンが初の世界選手権王者の座に就いた。宇野は2位、友野は大健闘の5位。日本に新たな、将来性豊かな「第三の男」が出現した。


波乱万丈だった五輪シーズンが終わった。男子は絶対王者・羽生結弦がケガを克服して五輪連覇を果たし、宇野昌磨とともに日本勢ワンツーを飾った。女子はザギトワ・メドベージェワのロシア勢が、下馬評通りにワンツー。しかし最後の世界選手権では、男女ともに新しいチャンピオンが誕生した。

来季も激しく厳しい戦いになるであろうフィギュア界。現チャンピオンは王座を守れるか、伸び盛りの若手の追い上げは、そしてまた驚異の新星のデビューがあるのか。興亡の激しいこの世界、片時も見逃すことができない。


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2017年12月26日

宇野昌磨、不本意ながら貫禄の連覇/「第三の男」は田中刑事 〜フィギュア全日本選手権・男子シングル〜

大混戦だった女子と比べ、男子は「宇野昌磨はこの全日本で4位以下にならない限り確定、今大会欠場の羽生結弦はこれまでの実績で確定的、『第三の男』が誰になるか」という、実質残り1枠を争う戦いだった。


【 SP 】

ケガなどでここ数年不本意な成績に終わっていた村上大介。一発逆転を狙って臨んだ全日本だった。冒頭の4サルコウをきれいに降り、続く3アクセルも流れよく決める。後半のコンビネーション、3ルッツ−3ループの予定を無理せず3−2に抑え、減点を防いだのも冷静な判断。得点は80.99、4位とまずまずの発進となった。

今季の成績から、「第三の男」に最も近い田中刑事。それが逆にプレッシャーになる状況だったが、それを跳ね返す気迫の演技を見せた。冒頭の4サルコウを鮮やかに決め、続く3フリップ−3トウループもきれいに降りる。スピンもレベルを落とさず、3アクセルはGOEを2点近く稼ぐ完璧な出来。まさに鬼気迫る演技だった。得点は91.34のPB、宇野に次ぐ2位につけた。

国内外で実績を残してきながら、今季はまったく力を発揮できていない無良崇人。村上と同様、この全日本に逆転を狙って臨んできた。冒頭の4トウループを何とかこらえ、続く無良の代名詞3アクセルは、GOEで+2.00と完璧に決める。レベル4のスピンを次々にこなし、後半の3ルッツ−3トウループも、やや着氷で詰まったが大きな減点はない。最後のステップシークエンスは、無良らしいダイナミックな動きで観客の大きな拍手を受けた。得点は85.53、田中とは6点弱の差の3位。FSに望みをつないだ。

NHK杯で7位と健闘し、五輪争いに割って入ってきた昨季の全日本ジュニア王者・友野一希。最後の1枠をつかむには、2位以内が必須条件だ。冒頭、4サルコウでステップアウトするが、続く3フリップ−3トウループは流れよく決める。ステップシークエンスを切れ味よくこなし、最後の3アクセルもきれいに決める。しかし4サルコウの減点が響いて得点は78.16、5位発進となった。

大本命・ディフェンディングチャンピオン・宇野昌磨。羽生結弦が欠場し、ライバル不在の中、よほどのアクシデントがない限り、連覇と五輪出場は濃厚という状況で、モチベーションを高めるのは容易ではなかったはず。その微妙な心理が演技に影響したのか。冒頭の4フリップはきれいに決め、スピンは当然のレベル4。しかし後半、4トウループからのセカンドジャンプがシングルになり、規定によりコンビネーションにならない。最後の3アクセルは貫禄で決めたが、最大の得点源で大きな減点となってしまった。それでも得点は96.83、技術点の基礎点が他を圧倒して高く、5コンポーネンツも高得点が取れるため、ミスがあっても得点のレベルは高くなる。まさに別次元である。

@ 宇野 A田中 B無良 C村上 D友野。得点差から言って、FSでは田中と無良が「第三の男」を争う一騎打ちとなる公算が高い。さて、どんな決着になるのか。


【 FS 】

友野一希(総合4位):冒頭の4サルコウ−2トウループはきれいに決めたが、続く4サルコウが2回転に抜ける。しかしこの後のジャンプは3連続も含め減点なくこなし、ステップもダイナミックに魅せる。力は十分に出し切った演技だった。ただ五輪代表となるには線が細く、全体的にまだ力不足の感が否めない。これからシニアで経験を積んで、どこまで大きくなれるか注目したい。

村上大介(総合5位):1つ目の4サルコウは高さがあるすばらしいジャンプ。しかし続く4サルコウがシングルに抜ける。このあとコンビネーションを含む3ジャンプを堅実に決めるが、後半の3アクセルが両足着氷になる。3連続のコンビネーションで盛り返したが、代表権をつかむにはやはり足りなかった。今季は体調を崩してNHK杯を欠場し、この全日本も十分な練習を積めたとは言えない状態で臨んだ。それを鑑みれば、よくここまで持ち直したと言っていいだろう。

無良崇人(総合3位):年齢的にラストチャンスとなる平昌五輪。スケート人生をかけたこのFSに、3シーズン前の「勝負曲」オペラ座の怪人で挑む(2014スケートカナダで優勝した時の無良のFSは、間違いなく彼の最高傑作だ)。冒頭の4トウループはすばらしく高いジャンプだったが、着氷が滑らかさを欠いた。しかし続く3アクセル−3トウループはともに高さ抜群、流れよく決める。後半にも代名詞の3アクセルをコンビネーションを含め2度組み込み、大きなGOE加点を得る。そして持ち前のダイナミックなステップ。まさに執念を感じさせる演技だった。観衆は満場のスタンディングオベーション。フィニッシュ後の無良の表情はすがすがしかった。「今の自分にできる精一杯はやった」という思いが表れていた。残念ながら田中を逆転するには至らなかったが、本人曰く「一番思い出に残る全日本」になった。3アクセルをはじめとするダイナミックで豪快な演技は、ファンの記憶に深く刻まれるだろう。

田中刑事(総合2位):羽生結弦と同年代、念願の五輪出場のかかったFS。SPと同様、すばらしい気迫の演技を見せた。冒頭の4サルコウは、あまりにきれいに決まったので「本当に4回転していたのか」といぶかるほどの出来(GOEは+2.14)。続く4サルコウでステップアウトしてコンビネーションにならず、リピートでの減点となる。アップテンポな音楽に乗って軽快なステップを踏んで場内を沸かせ、勝負の後半へ。決め手となる4トウループを鮮やかに決める(GOE+2.00)。続く3アクセルがまたもステップアウトでリピート減点となるが、その後の3ジャンプは堅実にこなし、コレオシークエンスでは2点近いGOE加点を得る。そして大きな盛り上がりの中フィニッシュ。場内はまたも大歓声に包まれた。2つのリピート減点があったが、4ジャンプを複数決めたことが効いてFSでも無良を上回り、総合2位を死守した。昨季のNHK杯3位が自信になったのか、この大一番でも見事に力を発揮した。堂々五輪切符を手にし、未踏の地を踏む。

宇野昌磨(総合1位):実績・実力的には当然の、順当な優勝・連覇だった。しかし演技後の彼のコメントは、とても勝者・優勝者のそれではなかった。「悔しいし、皆さんの期待に応えられなくて申し訳ない気持ちでいっぱいです」。演技冒頭、4ループをきれいに決め、続くイーグルからの3アクセルは、何とGOEでフルマークの+3.00。この後もスピンとステップで当然のようにレベル4を取る。…ここまではよかったのだが、後半から乱れが出た。まず4フリップで転倒、続く4トウループは降りたが、「世界初」に挑んだ2アクセル−4トウループは、セカンドが2回転&両足着氷になる(本人曰く「跳ぶ前から失敗するのはわかっていたが、逃げたくないと思って挑んだ」)。宇野オリジナルの3アクセル−1ループ−3フリップも、サードがシングルになる。恐らくこの辺りは気力で滑っていたのだろう。激戦のGPファイナルから2週間、疲労が残っていたのかもしれない。まったく不本意な出来ながら、演技構成そのもののレベルの高さと5コンポーネンツの安定した高さで他を圧倒し、余裕の全日本連覇、そして平昌五輪初出場決定となった。

五輪本番では、羽生と並んで金メダルの有力候補に目されるであろう宇野。あと1か月半、羽生同様、本番までどうコンディションを上げてくるか、期待し、かつ祈ろう。


平昌五輪への出場権を得たのは、

男子シングル:宇野昌磨、田中刑事、羽生結弦

女子シングル:宮原知子、坂本花織

となった。現時点でのベストメンバーと言っていいだろう(個人的には、「イチオシ」していた坂本が選ばれてうれしい)


今年はオリンピックシーズンということもあり、いつも以上の緊張感の中で激戦を繰り広げた全日本選手権。五輪代表も決まり、あとは1か月半後の本番を静かに待つのみである。果たしてどんなドラマが待っているのだろうか。

posted by デュークNave at 00:18| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月24日

宮原知子4連覇、そして悲願の五輪出場:「2枠目」は坂本がイチオシだが 〜フィギュア全日本選手権・女子シングル〜

毎年末恒例の「目移りクラクラ大会」、全日本選手権。しかし今回は平昌五輪へのわずか2つの出場権を賭けた大一番、とても全員をくまなく見る暇も精神力もなかった。なので今回は、五輪出場を争った選手たちに絞ってコメントさせていただく。


【 SP 】

年齢制限で平昌五輪への出場権がない15歳の全日本ジュニア女王・紀平梨花。先の世界ジュニアでは、シニアも含めて世界で初めて3アクセル−3トウループのコンビネーションを決め、一躍世界の注目を集める存在になった。この全日本のSPでも、冒頭で3アクセルを鮮やかに決める。3−3のコンビネーションもきれいに決まったが、3つ目の3ルッツが2回転に抜けたため得点がゼロになったのが惜しかった。それでも66.74の高得点をマークし、シニア勢に混ざって堂々の5位発進となった。


<惜しくもミスが出た選手たち>

今季のGPシリーズでは、SPにミスが出て表彰台を逃してきた三原舞依。この全日本こそ完璧なSPをと期して臨んだが、2アクセルでまさかの転倒。冒頭の3ルッツ−3トウループと最後の3フリップをきれいに決めただけに、痛恨のミスだった(個人的にずっと応援していた選手だけに、2アクセルの転倒は我が目を疑った)。SPは7位、得意のFSでの巻き返しなるか。

GPシリーズで連続の表彰台に昇り、念願のファイナル出場を果たした樋口新葉。当初から五輪を意識して臨んだ今季の集大成を見せる舞台だったが、冒頭の2アクセルがシングルに抜けてしまう。しかしここで気持ちを切らさず、後半の3ルッツ−3トウループ、3フリップを流れよく決め、ステップもダイナミックに踏んで見せたのはさすがだった。得点は68.93で4位、FSに望みをつないだ。

今季シニアデビューの白岩優奈。GPシリーズ2戦で着実に経験を積んできた。冒頭、3ルッツ−3トウループを目にも鮮やかに決める。このキレのいいジャンプが彼女の大きな魅力だ。しかしその後の2アクセルで転倒。最後の3フリップはきれいに決めたが、このジャンプのミスに加え、スピンでのレベルの取りこぼしもあり、8位にとどまった。

この3選手は、コンビネーションと3ジャンプは完璧に決めながら、2アクセルにミスが出た。思わぬ落とし穴にはまった感がある。

最終滑走となった本田真凜。シニアデビューの今季、GPシリーズではわずかなミスで表彰台を逃してきた。念願の五輪出場のためには、SP・FSともノーミスが求められる。3フリップ−3トウループはきれいに流れよく決めた。しかし後半、3ループでステップアウト。2アクセルは決めたものの、基礎点が高くはないループを確実に決められなかったことが響き、66.65の6位に甘んじた。


<見事ノーミスで演じ切った選手たち>

スケートアメリカで宮原に次ぐ2位に入り、大きく飛躍した坂本花織。3つのジャンプをすべて後半に組み込むチャレンジングな構成にしてきた。その意欲そのままに、躍動感のある演技を披露した。前半をステップとスピンで流れよくこなし、勝負の後半。3フリップ−3トウループを鮮やかに決め、続く3ループ、2アクセルもきれいに降りる。最後までプログラムを流麗に演じ切った。得点はPBを大きく超える73.59。本人も驚く高得点で首位発進となった。

ケガで昨シーズン後半を棒に振り、本格的なジャンプ練習を始めたのは10月からと、今季も出遅れていた宮原知子。しかしNHK杯5位・スケートアメリカ優勝・GPファイナル5位と予想以上の結果を出し続け、迎えたこの大舞台。「ポスト浅田真央」の一番手、ソチ五輪後の女子シングルを背負ってきた第一人者にとって、何としても手にしたい五輪の切符だ。3つのジャンプを安定した着氷でこなし、スピン・ステップはすべてレベル4。1つアンダーローテーションがあったのが響いて2位となったが、それでも73.23の高得点。さすがの貫禄である。

かつては宮原と女王の座を争っていた本郷理華。しかしここ数シーズンはジャンプの不安定、特に回転不足に苦しんできた。今季のGPシリーズでも、ジャンプが不調で結果を出せなかった。念願の五輪出場のためには、この全日本に賭けるしかない。まさに背水の陣で臨んだ今大会だった。演技冒頭から、その気迫がみなぎっていた。3フリップ−3トウループを余裕で決め、3ルッツも流れよく決める。2アクセルも安定して降り、そのあとのステップがまた圧巻。長い手足を生かした大きくダイナミックな動きで、観る者を惹きつけた。場内は総立ちのスタンディングオベーション、本郷も感涙にむせんだ。得点は70.48、SBで3位につけた。

@坂本 A宮原 B本郷 C樋口 D紀平 E本田 F三原 G白岩。しかしトップ坂本と7位三原の得点差は10点未満、逆転不可能な点差ではない。勝負のFS、どんな結末が待っているのか。


【 FS 】

白岩優奈(総合9位):得意のキレのいいジャンプを次々に決め、観客を沸かせた。前半・後半ともに最高難度の3ルッツ−3トウループを鮮やかに決める。ジャンプの質の高さはシニアでも屈指だろう。しかし終盤、2アクセル−3サルコウで転倒し、気落ちしたのかそのあとのレイバックスピンがレベル1にとどまる。最後は残念だったが、シニアデビューの今季、大きな経験を得ただろう。

三原舞依(総合5位):GPシリーズでもSPでの出遅れをFSで取り返してきた。この全日本でも、得意のFSで存分に魅せてくれた。冒頭の3ルッツ−3トウループ。高さがあり、着氷が安定している。ここから彼女の持ち味である柔らかく流れる演技が観衆を魅了する。後半の5本のジャンプを危なげなく決め、ステップシークエンスでは手拍子に乗ってダイナミックかつ軽快にステップを踏む。フィニッシュすると、場内は大歓声のスタンディングオベーション。三原も涙があふれた。惜しくも表彰台は逃したが、この日のFSは彼女のスケート人生の宝物になるだろう。

樋口新葉(総合4位):007「ワカバボンド」で挑むFS。冒頭、SPで抜けた2アクセルをきれいに決め、続く3ルッツ−3トウループも鮮やかに決める。しかし中盤、3サルコウが2回転に抜ける。後半、再度の3ルッツ−3トウループを完璧に降り、この後のジャンプは乱れなく決める。五輪への思いが伝わってくる気迫の演技だった。フィニッシュ後、感慨深げに氷に手を触れた。「やれることは精一杯やった」との思いの表れか。

紀平梨花(総合3位):ジュニア勢唯一の最終グループ入り。SPで炸裂した武器が、このFSではさらにパワーアップした。冒頭、「ギネス(になるだろう)」3アクセル−3トウループを全日本の舞台で鮮やかに決める。続く再度の3アクセルも、全く危なげなくきれいに降りる。回転がすばらしく速かった。SPと併せて3アクセル3本成功、これは2010年バンクーバー五輪での浅田真央以来の大快挙だった。観る者はこの冒頭の2本で圧倒されてしまうが、その後のジャンプも、中盤の3ループで着氷が乱れた以外はすべて流れよく決め、圧巻のフィニッシュ。総得点は200点を大きく超え、初の全日本表彰台をつかんだ。「年齢制限で五輪出場権なし・3アクセルが武器」というこの状況は、まさに2006年トリノ五輪時の浅田真央を彷彿とさせる。今後どこまで大きくなってくれるのか、彼女のシニアデビューが待ち遠しい。

本田真凜(総合7位):2006年トリノ五輪の荒川静香に憧れてスケートにのめり込んだという本田。その伝説の「トゥーランドット」で五輪イヤーに挑んでいる。冒頭からジャンプは流れよく決め、得意の柔らかな表現力もふんだんに披露する。しかし後半、2つの3ジャンプが2回転に抜けてしまい、技術点の基礎点が伸びない。フィニッシュ後、ぐっと涙をこらえているようだった。恐らくあの瞬間、五輪への夢が破れたことを観念したのだろう。しかし最後まであきらめずに夢にチャレンジした、実りあるシニアデビューの1年だった。

宮原知子(総合1位):彼女の演技が始まる時、私は姿勢を正し、テレビ画面に向けて刮目した。「何としても彼女を五輪に行かせてやりたい」そんな祈りにも近い思いで、彼女の演技を見つめていた。全日本3連覇、ソチ以降はずっと日本女子フィギュアをリードしてきた宮原。練習の虫、スケートへの真摯な姿勢。スケートの神様のご加護を一身に受けていたはずの彼女に、ケガという思わぬアクシデント。そのせいで悲願の五輪出場を逃したりしたら、「神も仏もないのか」と天に向かって叫びたくなる。そんなシーンは絶対に見たくなかったのだ(恐らく、全国のフィギュアファンの多くが同じ思いだっただろう)。

しかし、それは全くの杞憂だった。1つ1つのジャンプ、スピンを確実に流れよく決めていく。観ていて印象的だったのは表情の豊かさだ。ケガでのリハビリ中に他の競技のアスリートたちと交流し、「まじめ一徹だった彼女がずいぶん感情豊かになったな」と思っていたが、それが演技にも反映され、とても軽やかに楽し気に演技していた。減点要素の全くない、「ミス・パーフェクトふたたび」のフィニッシュ。その瞬間、濱田美栄コーチは両手で顔を抑え、感涙にむせんだ。そして宮原も、大きなガッツポーズと涙。苦しい時期を克服してのこの会心の演技、師弟にはさまざまなこみ上げる思いがあったに違いない。総合得点は220.39、PBを大きく更新する空前の高得点である。リハビリで前半戦をほぼ棒に振った今季、後半の追い上げが見事に決まって全日本4連覇、そして五輪出場も決定した。夢の舞台での「ミス・パーフェクト」の完璧な舞、ぜひ見たい。

本郷理華(総合6位):SPではすばらしい気迫の演技で3位に食い込んだ本郷。このFSでも気迫のこもった演技を見せた。冒頭からダイナミックなジャンプを次々に決める。続く3ルッツで転倒、中盤の3ループでも転倒したが、気持ちを落とさずに演技を続け、情熱的な音楽をバックに華麗にステップを踏む。SP同様、最後まで気迫のこもった演技だった。ジャンプのミスが響いて五輪切符は逃したが、不調にあえいだ今季を払拭する演技だったと言っていいのではないか。日本選手にはまれな長身と長い手足を持ち、スケールの大きい演技が魅力の本郷、自分にしかないこの魅力を今後も磨いていってほしい。

坂本花織(総合2位):SPで本人も驚く首位発進、そして抽選のいたずらで最終滑走。とてつもなくプレッシャーがかかる状況であり、正直私は「たぶんノーミスの会心の演技をするのは難しいだろうな」と思っていた。どこまで頑張れるかな、程度の思いで見つめていた彼女の演技だったのだが・・・、驚いた。

映画「アメリ」の世界を描いた独特の振付の中、ジャンプを危なげなく決めていく。冒頭のコンビネーションこそセカンドジャンプが回転不足になったが、それ以外はクリーンに降りる。スピンもステップもレベルの取りこぼしがなく、自分の作品世界をしっかり作っている。観る者をぐいぐい惹きつけながら、あっという間のフィニッシュ。その瞬間、満面の笑みとガッツポーズ。この大舞台で、大きな重圧がかかるこの場面で、どうしてこんな完璧に近い演技ができるのか。さまざまな経験を積んだベテラン選手ならわかるが、今季シニアデビューの選手がやってのけるとは・・・度胸がいいというか、その精神力の強さに驚いた。得点が出た瞬間、「あー」と残念そうな声を上げた。トータル213.51、PBは大きく更新したものの、宮原に及ばず2位。しかしこの大舞台でSP・FSともほぼノーミスで演じ切ったことは、大絶賛に値する。


優勝・宮原知子、2位・坂本花織、3位・紀平梨花(ジュニア)。以下樋口、三原、本郷。平昌五輪への出場権は、優勝の宮原が自動的に獲得。残る1枠は、@全日本の2位、3位 A今季のGPファイナルでの上位2人 B全日本終了時の世界ランキングの上位3人 C今季の世界ランキングの上位3人 DISU公認大会での今季最高得点の上位3人 を考慮して総合的に判断される。これでいくと候補は実質、坂本と樋口の2人に絞られる。

私見だが、私は坂本を推したい。上記5項目のうち、樋口は4項目、坂本は3項目を満たしている。しかしシーズン後半の坂本の充実ぶり、特にこの全日本でSP・FSともほぼノーミスで滑った「強さ」を評価したい。こういう選手こそ、五輪の大舞台でも力を発揮できるのではないかと思うのだ。

(伊東秀仁日本スケート連盟フィギュア委員長は「(条件を満たす項目が)多いから勝ちではなく、五輪でいい成績を取れるか。当然、全日本の成績は重視されるだろう」と話している。この「五輪でいい成績を取れるか」が最も重視されるべきことではないだろうか


坂本か樋口か。平昌五輪代表選手の発表は、男子シングルのFSののちに行われる。


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2017年12月10日

日本勢、表彰台逃す:見せつけられた「世界のレベルアップ」 〜フィギュアGPファイナル・女子シングル〜

今季のGPシリーズの女子シングルは、終盤までは「日本選手の出場危うし」という状況だった。しかし最終戦を終えて樋口新葉が6番手で出場を決め、次いでポイントトップのエフゲニア・メドベージェワがケガのため棄権したため、宮原知子が繰り上げ出場することになった。これで平昌五輪の出場権争いでこの2人が一歩リードした形になったが、そのリードをより大きくするには、このファイナルで上位に入る=表彰台ゲットという成果が必要だ。


SPは驚異のハイレベルだった。カロリーナ・コストナー72.82、樋口新葉73.26、マリア・ソツコワ74.00、宮原知子74.61、アリーナ・ザギトワ76.27、ケイトリン・オズモンド77.04。全員が70点台はGPファイナル史上初であり、ソツコワとザギトワ、オズモンドはPBを更新した。ジャンプでは誰も転倒しないばかりか着氷の乱れもほとんどなく、コストナーがコンビネーションのセカンドジャンプが2回転になったのが唯一のミスだった。トップと最下位との差はわずか4.22。ジャンプの出来1つで逆転してしまう、極めて熾烈な戦いになった。


ファイナル初出場の樋口は、緊張のためジャンプの調子を落としていた。試合当日の練習でも調子が上がらず、不安を抱えたままで本番を迎える。序盤、3ルッツ−3トウループを決めたところまではよかったが、中盤で3サルコウが2回転に抜けたあたりから下降し始め、前半にきれいに決めたコンビネーションも2回転単独になってしまう。このあと2アクセル−3トウループ、3フリップ−2トウループ−2ループのコンビネーションを決めてミスを挽回したが、気落ちのためかスタミナ切れか、中盤から持ち前のスピードがやや落ちた。得点はPBを10点以上下回る悔しい結果。しかし初めての大舞台での経験は、2週間後の「勝負の全日本」できっと糧になるはずだ。


コストナーは優勝した2011年以来6年ぶりのファイナル出場。五輪・世界選手権・GPファイナルの通算で11個のメダルを獲得している、歴戦のベテランである。ジャンプの構成は決してハイレベルではないが、3年前のソチ五輪で見せた包み込むような柔らかな表現力は健在で、まさに円熟の境地。惜しくも表彰台は逃したが、この人の演技はSP・FSとも1つ1つが「芸術品」になる。出場すれば4大会連続となる平昌五輪でも、そのあでやかな演技で世界を魅了してほしいものだ。


SP首位発進の、昨季の世界選手権銀メダリスト・オズモンド。演技冒頭、3フリップ−3トウループを豪快に決める。この後のコンビネーションもきれいに決め、前半は完璧。しかし後半に入ると、3ループが2回転に抜け、3サルコウで転倒。ステップシークエンスはダイナミックに魅せてくれたが、ジャンプの失敗が響いて総合3位に順位を落とした。しかし昨季の世界選手権以来、GPシリーズでの好成績、そしてファイナルでの表彰台と、着実に世界へのステップを踏んでいる。女子フィギュア界では希少価値といえる肉感的スケーター、その躍動感あふれる演技を五輪でも存分に見せてほしい。


シニアデビュー2年目にして2年連続のファイナル出場となったソツコワ。ドビュッシー「月の光」の美しい旋律に乗り、その可憐な雰囲気を存分に生かした演技を見せた。ジャンプはいつもながらの抜群の安定感、173pの長身と長い手足を生かした大きく美しいステップとスピン。この1年での成長を強くアピールするほぼ完璧な演技で、FSでもPBを更新。見事初の表彰台(銀メダル)を射止めた。恐らく世界一熾烈なロシアの五輪出場枠(3枠)をめぐる争いでも、大きくリードしたと言えるだろう。


ファイナル出場選手の中で唯一、シリーズ2連勝のザギトワ。シニアデビューの年としては驚異の成績だ。FS最大の注目は、7つのジャンプをすべて後半に跳ぶというタフな演技構成。前半、シリーズ2戦と同様、ステップ、スピン、コレオシークエンスを切れ味よくこなす。そして後半、まず3ルッツ−3ループの高難度コンビネーションを無難に降りる。続く2アクセル−3トウループで着氷がやや乱れ、3ルッツでオーバーステップ。しかしミスはこれだけで、3連続コンビネーションをきれいに決め、最後までスピードとキレのよさを失わなかった。フランス大会で出したPB(世界歴代2位)には届かなかったが、合計ではPBを更新し、堂々のトップに立った。この驚異の新星、五輪では女王・メドベージェワをも脅かす存在になるか。


SPでPBに迫る高得点を叩き出した宮原。FSでは抽選で最終滑走となった。しかしこういう修羅場は何度も経験している彼女、落ち着いた表情で演技に入る。冒頭の3ループ、3ルッツ−3トウループ、3フリップをきれいに決める。得意の逆回転スピンで魅せ、後半の2つのコンビネーションも流れよく決める。「蝶々夫人」のメロディーに乗ってステップも流麗にこなし、盛り上がりの中でフィニッシュ。この時点では「ミス・パーフェクト再び」と思った。

しかし、得点は140点に届かない。前半の3ルッツ−3トウループ、3フリップがともに回転不足判定となっていたのだ。これが響いて総合5位、僅差で3年連続の表彰台を逃した。銅のオズモンドとは1.67、銀のソツコワとも2.79の差。まさに微差である。しかし急きょ繰り上げで出場した今大会、故障による長いブランクを思えば、よくここまで仕上げてきたと考えるべきだろう。2週間後の全日本でさらにどこまで磨いてくるか、楽しみに待とう。



過去2大会連続銀だった宮原。一昨年の得点は208.85、昨年は218.33だった。優勝のザギトワのスコアは223.30なので、昨年の得点を挙げても銀だったわけだが、今大会はSPで6人全員が70点を超え、FSとの総合でも全員が200点を超えた。世界のレベルが着実に上がり、全体的に底上げしていることを示している。

ファイナルと同時開催されたジュニアGPファイナルでは、優勝したトゥルソワが4サルコウに挑み、紀平梨花が女子初の3アクセル−3トウループに成功した。しかしシニアの世界ではこのような「高目追求」競争はほとんど起こっておらず、ジャンプ構成を難しくしたり、手を挙げて跳ぶなどGOE加点を狙ったり、メドベージェワやザギトワのようにジャンプを後半に持ってくることで基礎点の上積みを狙うなど、いわゆる質の向上に努めるのが主流だ。この流れは平昌五輪まで続くと思うが、こうなると技術点の基礎点に大きな差はつかず、いかにミスを少なくするかの勝負になる。


来る平昌五輪、男子は「高目追求派」が表彰台を占めそうな様相だが、「円熟派」も力がある女子は混戦模様だ。いずれにせよ、今季は全日本のみならず五輪でも、女子は「目移りクラクラ」大会になるのは間違いない。
posted by デュークNave at 06:09| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月09日

宇野昌磨、僅差で世界王座逃す:しかし五輪への貴重な「宿題」 〜フィギュアGPファイナル・男子シングル〜

2017年GPシリーズの総決算・ファイナル。今年は伊藤みどり・浅田真央・安藤美姫小塚崇彦村上佳菜子を生んだ名古屋が決戦の舞台だ。そしてその名古屋が生んだもう一人のトップスケーター・宇野昌磨が、地元で初のファイナル優勝を狙う。対するは、ネイサン・チェン、アダム・リッポン、ジェイソン・ブラウン(ボーヤン・ジンがケガで棄権したため繰り上がり出場)のアメリカ勢と、ミハイル・コリヤダ、セルゲイ・ボロノフのロシア勢。4連覇中の羽生結弦、かつての王者ハビエル・フェルナンデス、パトリック・チャンが欠場のため、誰が勝っても初の世界王者である。


ジェイソン・ブラウン、アダム・リッポンの「アメリカン・エンターテイナー」は、その持ち味を存分に発揮した。ジャンプにミスは出たが、音楽に乗った独特の振付、ポジションがきれいで独創的なスピン、そして躍動感と情感あふれるステップ。リッポンはFS冒頭の4ルッツで転倒、ブラウンは4ジャンプを回避した構成だったが、「魅せる」演技を披露してくれた。技術点の基礎点が高くないので勝負にはなりにくいが、こういう勝ち負けを超越したアーティストもフィギュアの世界には必要だ。何より、観ていて楽しい。


最年長のGPシリーズ優勝者・ボロノフも魅せた。FS冒頭の4トウループ・3トウループをきれいに決め、そのあとのジャンプもほとんどノーミスでこなす。圧巻は後半のステップシークエンスで、時折笑顔を見せながらのダイナミックな動き。観る者をぐいぐい惹きつける迫力があった。30歳、いまだ健在である。


トップ3の争いは、ハイレベルな演技構成の中、いかにミスを抑えるかの戦いになった。

SP3位のコリヤダは、冒頭の4ルッツと続く4サルコウで転倒。3アクセルも着氷が乱れるなど、ミスが続いた。どうなることかと思われたが、ここから踏みこたえた。後半、4トウループ−3トウループを鮮やかに決める。この後もコンビネーションジャンプをきれいに決め、盛り上がりの中でフィニッシュ。前半のミスを後半で盛り返し、ファイナル初のメダルを手にした。伸び盛りの22歳、この後半の踏ん張りでの表彰台ゲットは、五輪を控えて貴重な経験になっただろう。


SP首位のチェンは、冒頭の4ルッツ−3トウループを完璧に決める。これで波に乗るかと思われたが、続く4フリップで着氷が乱れ、4サルコウは2回転に抜けた。後半も構成を変えて挑んだ4トウループで転倒したが、苦手の3アクセルのコンビネーションを気迫で決め、大崩れせずに演技をまとめた。最後まで攻めの演技を見せたが、得点は183.19、合計286.51。自己ベストには遠く及ばない。総合トップには立ったが、最終滑走の宇野に十分逆転の目が残った。


そして、宇野昌磨。橋大輔・羽生結弦と続いてきたGPファイナル日本勢5連覇の系譜を引き継げるか。勝負の4分半が始まった。冒頭、4ループは転倒。しかし続く4ジャンプ、シリーズ2戦では回避していたサルコウに果敢に挑み、見事に成功。このチャレンジはすばらしかった。得意の3アクセルとステップを流れるようにこなし、「宇野昌磨史上最高難度」の後半に入る。「ギネス」4フリップは鮮やかに決めたが、続く2本の4トウループが回転不足とダウングレードになる。それでも宇野の代名詞、3アクセル−1ループ−3フリップはしっかり決め、最後を締めてフィニッシュ。しかしチェンを逆転できたかは微妙な出来だった。

得点は184.50、合計286.01。チェンにわずか0.50及ばなかった。しかし、自身初のファイナルでの銀メダルだ。試合後のインタビューで「4トウループが、練習で体が動いていない時のジャンプになってしまった」と語った宇野。インフルエンザで体調を崩し、練習不足になっていた影響がまだ残っていたのか。だがこれはむしろ、五輪本番に向けていい宿題ができたと言っていいのではないか。

(私も個人的には、「ここで最高の演技で勝ってしまうより、五輪に向けて『追う立場・チャレンジャー』でいた方がいいんじゃないか」と思っていたので、この結果は悪くないと思う)


このGPファイナル2位により、2週間後の全日本選手権を控え、宇野の平昌五輪出場はかなり濃厚になってきた。あとは羽生結弦がどこまで回復しているか、そして「第三の男」は誰になるのか。暮れの全日本を静かに待つのみである。



posted by デュークNave at 05:37| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする