2021年01月07日

「根無し草人生」を支え、生き永らえさせてくれた「我が大好物たち」(2)スポーツ:プロ野球

(2)スポーツ:目の前で繰り広げられるリアルな人間ドラマ・積み上げられていく記録と忘れえぬ記憶

 スポーツは、歴史と並ぶ、むしろそれ以上の我が大好物だ。好きになったのは歴史よりも早いので、スポーツとの付き合いは50年以上になる。

 私が思うスポーツの最大の魅力は、「目の前で繰り広げられるリアルな人間ドラマ」だということだ。小説でもドラマでもない、「作り話」ではない、リアルタイムに綴られていく、ハラハラドキドキのエキサイティング・ドキュメンタリー。これが私がスポーツに魅了され続けてきた一番の理由だ。そしてその過程で、名選手が生まれ、名シーンが描かれ、それらが積み重ねられて、さまざまな記録と忘れえぬ記憶を残してきた。

 これまでさまざまなスポーツをテレビや現場で観たし、スポーツドキュメンタリー番組もたくさん観た(NHKの「江夏の21球」「延長17回〜横浜VS PL学園・闘いの果てに〜」「ロストフの14秒 日本VSベルギー 知られざる物語」「死闘の果てに〜日本VSスコットランド〜」は、我が「スポーツドキュメント四天王」として、ディスクに大切に保管されている)。スポーツに関する雑誌や本も数え切れないほど読んだし、名選手や名勝負をまとめたビデオやDVDも数多く観た。それを克明に描こうとすると膨大な量になってしまうので、ここでは私が特に思い入れ強く触れてきたスポーツを中心に、ダイジェストにまとめて語らせていただく。


【 プロ野球 】

 野球を初めて観たのは、たぶん幼稚園の頃。父が野球好きで、家の近くの市民球場で「モーニング野球」をやる時に一緒に行って、父たちがプレーするのを見ていた。これをきっかけに私も野球好きになり、自分の名前をローマ字で胸に縫いつけた野球のユニフォームを作ってもらった。これは近所で「めんごい、めんごい」(私の郷里の方言で「かわいい」の意味)とかなりの評判だったらしい。

 テレビのプロ野球中継も夢中で観ていた。私の子供時代は川上巨人V9の頃で、王・長嶋の「ON砲」が猛打をふるい、柴田・高田の1・2番俊足コンビが塁上を駆けめぐり、「エースのジョー」城之内、「8時半の男」宮田、「悪太郎」堀内、「左のエース」高橋一らの投手陣が好投して相手打線を抑えていた。「子供たちの大好きなもの=巨人・大鵬・卵焼き」という言葉が広まり、「王・金田・広岡」(おう、金だ。拾おか)というジョークも流行り、男の子たちが被る野球帽は「YG」マークの巨人軍のものばかりだった(私も典型的な「巨人大好き・大鵬大好き少年」だったが、卵焼きよりはウインナーの方が好きだった 笑)。

 私の郷里は東北の地方都市で、民放のテレビ局は1つか2つしかなく、ナイター中継はほとんど巨人戦ばかり(たまにNHKでパ・リーグの試合を中継することがあったが)。それで強いから、子供たちはみな自然と巨人ファンになる。野球マンガやTVアニメも、巨人を中心にしたものが圧倒的に多かった(「巨人の星」を筆頭に、「ちかいの魔球」「黒い秘密兵器」「ミラクルA」「侍ジャイアンツ」など。これに対抗したのが、水島新司さんの「男ドアホウ甲子園」や前出の「あぶさん」だったな)。

 その後も高校〜大学〜社会人と巨人ファンを続けていたが、長嶋巨人が2期目にやった、カネに物を言わせて他球団の4番打者を買い漁る「大艦巨砲主義」に嫌気がさし(この頃に世間を騒がせたナベツネの「たかが選手が」発言も、この嫌悪感に拍車をかけた)、巨人ファンをやめ、その後アンチ巨人に転じた。「あぶさん」の影響でパ・リーグにも興味が沸いていたし、故・野村克也ヤクルト監督の「ID野球」にも関心が深くなっていた。巨人ファンをやめることで他の球団にも目が向くようになり、プロ野球界を見る視野が広がった。これは我ながらよかったと思っている。

 そして今。ナイター中継を地上波でやらなくなって久しいが、視聴率は稼げなくても、観客動員数は順調に伸びている。かつては巨人一辺倒だった世間の関心もセ・リーグの他球団、さらにパ・リーグへも広まり、ファン層も12球団にかなりバランスよく広がっているようだ。チームの本拠地も、かつては東京・大阪の大都市圏に集中していたが、今は札幌(日本ハム)・仙台(楽天)・福岡(ソフトバンク)と広がりを見せており、それぞれに地元のファンが定着している。考えてみれば、パ・リーグは他球団の本拠地も、埼玉(西武)・千葉(ロッテ)・神戸(オリックス)と、東京・大阪には1つもない。サッカー・Jリーグの「地域密着型」に倣って、プロ野球もかなり地域に根差した球団経営になってきているようで、これは野球ファンを全国に広めるためにはとてもいいことだ。

 私は、こうしてプロ野球の「民主化」が進んでいることを、とても好ましく思っている。かつて人気が「巨人一強」だったころは、セ・リーグの他球団はTV視聴率も観客動員も巨人戦におんぶに抱っこだったので、球団経営も巨人戦に依存している面が少なからずあった。しかし今は5球団とも多くのファンを抱え、巨人戦以外でもかなりの客の入りになっている。さらにパ・リーグではこの傾向が顕著で、かつて閑古鳥が鳴いていたスタンドでは、今や大勢のファンが歓声を上げている。「巨人独裁体制」から「12球団平等の民主化」へ。いい流れではないか。

 さらに「トルネード投法」野茂英雄の大活躍に端を発し、海の向こうに広がった「メジャーリーグへの道」。イチロー、「大魔神」佐々木主浩、「ゴジラ」松井秀喜、松坂大輔、ダルビッシュ有、田中将大、前田健太、大谷翔平、菊池雄星ら日本のトップクラスの選手たちの活躍と、日本とはかなり野球文化の違うMLBの世界を楽しむことができている。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での日本代表の活躍も大きく注目された。こうして野球のグローバル化が進んでいるのもとてもいい傾向だ。

(私もいつか、MLBの試合を現地で観てみたい。野茂英雄がこよなく愛した「アメリカの野球文化」を、肌で味わいたいのだ)

 スポーツが多様化し、ファンや子供たちの関心も他のさまざまなスポーツに分散している今、プロ野球はこれからどうなっていくのか。かつては「国民的娯楽」とまで呼ばれたその人気とレベルを維持するには、今の流れをさらに加速させ、よりファンに愛される球団になり、よりすばらしいプレーと試合を見せられるチームになることが必要だ。この「ファンに愛される」と「いいプレーと試合を見せる」を両輪にして、これからも発展していってほしいものだ。

(おまけ:先に触れた谷村新司さんの「天才・秀才・ばかシリーズ」で、いしいひさいちさんの「がんばれ!! タブチくん!!」が大ヒットしていた頃の、我が忘れ難き爆笑ネタ:

田淵選手のお腹を見て一言:「君、スポーツでも始めたらどうかね」

現役のプロ野球選手に「スポーツでも始めたら」って…笑うしかない)

posted by デュークNave at 04:32| Comment(0) | スポーツ-野球 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月30日

「野球神の見えざる手」を振り払い、日本ハム逆転優勝 〜日本シリーズ2016〜

先週このブログのアクセス数が、ある記事に集中した日があった。

「意外な外弁慶シリーズ」になった今年の最高決戦」
http://keep-alive.seesaa.net/article/235782520.html?1477772008

だ。2011年の日本シリーズ、ソフトバンクVS中日の対決。敵地でそれぞれ中日とソフトバンクが連勝と3連勝し、第6戦はまたアウェーで中日が勝ち、「最後まで外弁慶シリーズなのか」と思ったが、最終戦でソフトバンクが地力で中日を突き放し、8年ぶりの日本一に輝いた。


この時は外弁慶だったが、今年の日本シリーズは「内弁慶シリーズ」になった。マツダスタジアムで行われた初戦と第2戦は広島が快勝。札幌ドームでの3連戦は、いずれも接戦だったが日本ハムが3連勝。特に第3戦と第5戦はサヨナラゲームで、大逆転でペナントレースを制した日本ハムの勢いが、再び本拠地で発揮された感があった。


ここまでは「野球神の見えざる手」のお導きの通りのスリリングな展開。さてマツダスタジアムに戻った第6戦、内弁慶が続くのか日本ハムが一気に決めるのかが注目された。先発は広島がエース野村、日本ハムが増井。大谷で決めに来るかと思ったが、最終戦に温存した。野球神のお導き通りなら、第6戦は広島が勝ち、最終戦で引退を表明した黒田と大谷が投げ合うというのがもっともドラマチックな展開だ。

日本ハムの栗山監督は大相撲の千代の富士と貴乃花の例を挙げていたが(平成3年夏場所、大横綱千代の富士と新進気鋭の貴花田(当時)が初日で対戦し、貴花田が勝った。これが両者の最初で最後の対戦であり、千代の富士はこの場所途中で引退を表明。世代交代を強く印象付けた一番だった)、「あれ、ということは、栗山監督は第6戦は負けてもいいと考えてるのかな」といぶかった。まさかそんなことはないだろうが、大谷を投手・1番で起用するなど、ファンを喜ばせる演出が得意な栗山監督だから、「そんな展開になるのも面白いな」とは思っていただろう。


さてその第6戦、期待通りの大接戦になった。日本ハムが初回に先制すると、広島が2回に逆転。日本ハムが4回に再逆転すると、広島が5・6回に得点して追いつく。ここまではどちらに転ぶかわからない、手に汗握る展開。さて迎える終盤、野球神はどうやって広島を勝たせるように導くのかと思っていたのだが・・・。

8回表、思わぬシーンが待っていた。この回から登板のジャクソンが2死ランナーなしから思わぬ3連打を浴び、満塁のピンチ。打席には4番・中田。そしてその時、ネクストバッターズサークルに大谷が現れ、バットを振り始めた。これがジャクソンにプレッシャーを与えたのか、中田にストレートの四球を献上してしまう。痛恨の押し出しで再び日本ハムが勝ち越し。すると大谷は素知らぬ顔でダッグアウトに下がり、打席には投手のバースがそのまま入る。これは何とも痛快な栗山監督の演出だった。動揺が収まらないジャクソンはバースにもタイムリーを許して2点差。そしてとどめはレアード。シリーズ3本目のアーチは、グランドスラムとなって左中間スタンドに飛び込んだ。


最後の最後で、「野球神の見えざる手」を振り払うような怒涛の攻撃で、日本ハムが一気に決着をつけた。この勢いにはさすがの野球神も「参りました」と脱帽したか。日本ハムの10年ぶり3回目の日本一は素直に称賛したい。・・・ただ正直、最終戦で黒田−大谷の、まさに「千代の富士−貴花田」を思わせる「最後の新旧対決」、最高にドラマチックなシーンを見れなかったのが、「中立の野球ファン」としては何とも残念だ。観たかったな〜。


posted by デュークNave at 06:44| Comment(0) | スポーツ-野球 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月17日

リーグ優勝同士の「横綱対決」 〜ここにも感じる「野球神のお導き」〜

プロ野球・クライマックスシリーズ(CS)の第2ステージが終わり、リーグ優勝した広島と日本ハムが、「順当に」日本シリーズへの進出を決めた。広島は優勝した1991年以来25年ぶり、日本ハムは4年ぶりの頂上決戦である。


この第2ステージの経緯にも、「野球神のお導き」を感じる。セ・リーグは4勝1敗で広島が制したが、広島とDeNAの実力差、ペナントレースのゲーム差を考えると、内容的にも流れから見ても順当だったと思う。広島が連続完封で王手をかける。抑え込まれていたDeNAが、第3戦でお返しの零封勝ちで一矢を報いる。そして第4戦、初回に広島が大量6得点で大きくリードしたが、DeNAがしぶとく食い下がり、1点差まで詰め寄った。一気に持っていかれずに1勝を返し、大量失点にもめげずに粘り腰を見せる。DeNAにとっては来季につながる、まさに「いい負け方」だったと思う。

一方パ・リーグは、ペナントレースで最後までつば競り合いを演じた両リームが、ここでもせめぎ合いを見せた。互いに連勝を許さず、終わってみれば日本ハム3勝・ソフトバンク2勝。実力伯仲の両チームだけに、リーグ優勝で勝ち取った1勝のアドバンテージが大きくモノを言った。


両リーグとも、ペナントレースでの戦いぶりとその結果がそのままCSにも出た感がある。大差がついたセ・リーグは広島が先行してDeNAが最後に粘り、接戦だったパ・リーグはここでも最後までわからないきわどい戦いになった。ここに私は「野球神のお導き」を感じるのだ。「双方がその力を発揮し、実力者が勝ち上がり、頂上決戦を最高に盛り上げよ」との「見えざる手」が動いている気がするのだ。そしてそのお導きの通りに実力者が勝ち上がり、リーグ優勝同士の「横綱対決」となった。


さあ、今年のプロ野球・クライマックスはどんな決着になるのか。あとはじっと見つめるだけだ。

posted by デュークNave at 04:35| Comment(0) | スポーツ-野球 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月13日

野球神のお導きのなせる業? いい流れになっているCS

プロ野球はクライマックスシリーズ(CS)の第1ステージが終わり、昨日から第2ステージが始まった。初戦はともにリーグ優勝した広島と日本ハムが快勝し、1勝のアドバンテージを含めかなり有利な状況になった。きわめて個人的に言わせてもらうと、とてもいい流れになっていると思う。

第1ステージは、セ・パともにいい結果になった。パリーグは、最終盤まで日本ハムと優勝を争ったソフトバンクが連勝で勝ち上がった。敗れたロッテはペナントレースではほとんど優勝争いに絡んでおらず、いくら「下剋上」が得意といっても、こういうチームが短期決戦で勝ち上がって「パの代表」として日本シリーズに出るのは、私のような「中立の野球ファン」には納得がいかない。ロッテファンには申し訳ないが、今回はソフトバンクが勝ち上がるのが正しい流れだったと思う(ロッテが第1ステージで敗退するのは初めてだった。本当に短期決戦での下剋上が得意なチームなんだな)。

セリーグはDeNAが接戦を制して2勝1敗で巨人を破った。ペナントレース終盤のDeNAの勢いと巨人の失速(特に広島にマジックが点灯してからの巨人の連敗、マジック減らしにどんどん「協力」する姿は無残だった)からして、DeNAが勝ち上がった方が面白いと思っていたが、その通りになってくれたのはうれしかった。DeNAはこれまでセパ12球団で唯一CSに進出したことがなく、広島の25年ぶりの優勝に負けず劣らずの念願のCS進出だった。その選手たちの気持ちの高ぶりとファンの熱狂的な後押しで、見事に第1ステージを勝ち上がった(東京ドームの左半分が青一色に染まったあの光景はすばらしかった)。


さて、このいい流れを受けての第2ステージ。ここはやはり優勝チームがそのまま勝ち上がってくれた方がいい。セの広島は、2位以下に圧倒的な差をつけての優勝。「セの代表」にふさわしいのはやはり広島だろう。DeNAは、今シーズンはここまで来れてまずはよし、じゃないか。これで一気に日本シリーズというのはちょっと事がうまくいきすぎだろう。真の優勝争いは来季以降の楽しみとなった方が、流れとしては正しい。

パは、「大谷翔平を日本シリーズでも見たい」この1点で日ハムに勝ってほしい。昨日の第1戦でも好投したが、あの西武との優勝決定試合での快投といい昨日といい、大舞台に強い選手のようだ。二刀流にますます磨きをかける、何十年に一人のスーパースター。こういう選手は当然日本シリーズに出てくるべきだし、さらなる大舞台でさらなる大活躍を見せてほしい。これも「中立の野球ファン」の純なる願いだ。


ここまでの流れを見ると、「野球の神様の見えざる手」に導かれているような気がしてならない。我々野球ファンを最大限に楽しませてくれるために、野球神が粋な計らいをしてくれている、そんな気がするのだ。これが本当なら、日本シリーズは広島VS日本ハムの優勝チーム同士の対決になるが、たぶんそうなるだろう。何せ野球神のお導きがあるんだから。


では、優勝チーム同士の頂上決戦が実現するまでを、じっくりと見つめるとしよう。


posted by デュークNave at 04:56| Comment(0) | スポーツ-野球 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月21日

最後にモノを言ったのは総合力 : ソフトバンク、8年ぶりの日本一 〜日本シリーズ2011 Vol. 3〜

「外弁慶シリーズ」の流れのままに中日が逆転優勝するのか、ホームゲームを初めて制してソフトバンクが8年ぶりの日本一(ソフトバンクとしては初めて)に輝くのか。ソフトバンク圧倒的有利の下馬評だった今年の日本シリーズは、中日が持ち前の投手力と粘り強さを発揮し、最終戦までもつれ込みました。

まずはソフトバンクが王手をかけて迎えた第6戦。後がない中日は、ソフトバンクの先発・和田の立ち上がりを攻めます。先頭の荒木がヒットで出塁、井端の送りバントで1死2塁。森野は倒れますが、ブランコが四球を選んで2死1・2塁。ここで第1戦で和田から同点ホームランを放ち、相性のいい5番・和田が、右中間にタイムリー3塁打! 2者が生還し、シリーズを通じて貧打に苦しんでいた中日が、いきなり2点を先制します。

この場面、まずブランコに与えた四球が痛かったですね。ブランコは和田の速球にタイミングが合っておらず、速球勝負で行けば討ち取っていた可能性が高かったと思います。しかし和田−細川のバッテリーは、追い込んでから変化球勝負に出ました。これが外れてフルカウントになり、最後に速球を投じましたが、わずかに外れてしまいました。「追い込んだ時に速球で勝負しなかった」これが第一の失敗です。

第二の失敗は、次の和田にも追い込んでから変化球勝負で行ったことです。
和田も速球にバットが合っておらず、相性が悪いとはいえ速球なら抑えていたのではないかと思います。
変化球で行くにしても、ストライクからボールになる球で振らせるべきでしたが、フォークが甘く入って痛打を浴びてしまいました。このわずかなアヤが明暗を分け、中日にノドから手が出るほどほしかった先制点をもたらしました。

2点の援護をもらった中日の先発・吉見は、最多勝(18勝)・防御率1位・勝率1位投手にふさわしい快投を演じます。スピードはさほどありませんが、速球・変化球をコントロールよくコーナーに配し、ソフトバンクの強力打線に的を絞らせません。4回に本多の3塁打と内川のタイムリーで1点を失いますが、その後もペースを乱さずに投げ続け、8回2死まで4安打1失点に抑えます。このあとを岩瀬・浅尾の磐石のリリーフ陣で締めてリードを守り抜き、中日が3勝3敗のタイに追いついて逆王手をかけました。

この第6戦は、ソフトバンクが1回に2点を先制し、中日の反撃を1点に抑えて逃げ切った第4戦を、チームを逆にしたような試合展開でした。力のある先発投手がしっかりと試合を作り、安定感抜群のリリーフ陣につなぐ。これは両チームに共通の勝ちパターンですね。

こうして迎えた最終決戦。ソフトバンクはもう一人のエース左腕・杉内、中日は第4戦で2イニングを好投した山井が先発です。第3戦以降、初回に先制したチームがそのまま逃げ切る展開が続いており、両投手の立ち上がりが注目されました。杉内はストライクが先行し、3者凡退のまったく無難なスタート。一方の山井も、1死から本多にヒットを許しますが、盗塁を谷繁が刺し、結局こちらも3人で抑えます。

こうして静かに始まった最終戦でしたが、3回裏、ソフトバンクに大きなチャンスが訪れます。この回先頭の多村が、1塁手の後方にポトリと落ちる内野安打で出塁。続く長谷川は送りバントかと思いきや、初球をフルスイング。打球は右中間に大きく伸び、センター・大島のグラブを弾きます。前日の第6戦、1点ビハインドで迎えた8回裏、無死1塁で長谷川が送りバントを失敗して併殺を喫したのが秋山監督も気になっていたのでしょうか。強攻策が功を奏し、ソフトバンクが無死2・3塁の絶好の先制機を迎えます。

続く山崎はバントの構えで山井をけん制してストレートの四球を選び、無死満塁とチャンスが広がります。ここで落合監督は山井から左腕・小林正にスイッチします。短期決戦ゆえの早めの交代でしたが、小林正は川崎に痛恨の押し出し四球を献上してしまいます。1点が非常に重いこのシリーズ、大事な最終戦の先制点は、思わぬ形でソフトバンクにもたらされました。

なおも無死満塁。ここで追加点が入ると、試合の流れは一気にソフトバンクに傾きます。しかし小林は続く本多を討ち取り、さらにネルソンにスイッチ。先発して敗戦投手になった第3戦同様、ややコントロールが不安定でしたが、内川・小久保がボール球に手を出して凡退。中日が最小失点でこの大ピンチを切り抜けます。

これ以上ないチャンスに主軸が凡退し、流れをものにできなかったソフトバンクにとってはいやなムードでした。しかし杉内はまったく意に介さず、その後も好投を続けます。常にストライクを先行させ、6回まで2安打、毎回の7奪三振。中日に2塁も踏ませません。そして打線も続く4回、2死2塁から長谷川敬遠で迎えた1・2塁の追加点のチャンスに、9番・山崎がライト前に快打。2走・松中が激走、谷繁のタッチをかわす巧妙なスライディングで貴重な2点目を挙げます。

対する中日はようやく7回、2死1・2塁のチャンスをつかみます。長打が出れば同点の場面でしたが、杉内が渾身の投球で藤井を三振に討ち取ります。その裏ソフトバンクは、2死2塁から内川が、この回から登板した若きリリーフエース・浅尾からセンター前にタイムリーを放ち、ダメ押しの3点目を挙げます。ソフトバンクの強力リリーフ陣と「打てない」中日打線を考えると、残り2イニングで3点差は決定的でした。

8回からはファルケンボーグが登板。第4戦までと同様、角度のある剛速球とフォークボールで3者三振に斬って取ります。そして最終回のマウンドにも、これも第4戦と同様にファルケンボーグが立ちます。中日打線にはまったく打てそうな気配がなく、「これで完全に決まりだな」と誰もが思いました。

ところがこの土壇場で、思わぬアクシデントがファルケンボーグを襲います。この回先頭の井端が速球をジャストミート、打球はファルケンボーグの右ひじを直撃します。内野安打で井端が出塁、しかもファルケンボーグは治療のため降板を余儀なくされます。

しかしこの緊急事態でも、ソフトバンクのリリーフ陣は磐石でした。急遽登板した森福が森野・ブランコを討ち取り、最後の一人・和田で今度は攝津にスイッチ。攝津は和田を三振に仕留め、クライマックスシリーズ導入以来、7年のうち6度進出しながらすべて敗退していたソフトバンクが、8年ぶりに出場した日本シリーズを激戦の末に制し、ついに念願の日本一に輝きました。

両者の勝敗を分けたもの:これは結局総合力の差だと思います。ソフトバンクは和田・杉内の両左腕にホールトン、攝津の「4本柱」が安定した投球を見せ、加えて第5戦ではシリーズ初登板の山田が6回を無失点で抑えるなど、層の厚さを見せつけました。片や中日は、吉見・チェンは安定していたものの、ネルソン、川井、山井らは長いイニングを投げるにはやや不安定でした。

攻撃陣は、ソフトバンクは川崎、小久保が好調を維持し、内川、多村、細川、山崎らが大事なところで殊勲打を放ち、日替わりのヒーローが誕生しました。一方中日は、荒木や和田は比較的よく打ったものの、井端、森野、ブランコ、谷繁らはシリーズを通して不調で、打線につながりがありませんでした(結局谷繁は、シリーズ通算23打数ノーヒットというワースト新記録を作ってしまいました)。

シリーズを振り返ってみると、第1・2戦はともに先発投手が実力通りに好投しましたが、クローザーの馬原が打たれるという誤算が中日に連勝をもたらしました。しかし第3戦以降は、ソフトバンクの先発陣がしっかりと長いイニングを投げ抜き、後を引き継いだリリーフ陣も自分の役割をきっちりと果たしました(第4戦での「森福の11球」とファルケンボーグの「配置転換」は印象的でした)。一方の中日は、貧打線が追いつけないうちに先発やリリーフが追加点を与え、持ち前の粘りを発揮できませんでした。第6戦こそ勝ちパターンをものにできましたが、最終戦はやはり不安定な先発が早い回につかまり、リリーフも打たれて突き放されてしまいました。

投手陣の層の厚さと打線の破壊力。双方とも上回るソフトバンクが、最後に地力を見せて中日を押し切りました。しかし圧倒的不利といわれた中日の、敵地での連続の延長戦を制し、王手をかけられてもはね返し、最終戦までもつれ込ませた粘り強い戦いぶりは、セ・リーグの王者にふさわしいものでした。

いや〜、メジャーも面白いけど、日本のプロ野球もやっぱり面白い!


posted by デュークNave at 10:54| Comment(0) | スポーツ-野球 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする