2018年03月25日

男女とも来季3枠確保! 波乱と歓喜の五輪シーズン・エンディング 〜フィギュア世界選手権・男女シングル〜

五輪シーズンの掉尾を飾る世界選手権。例年オリンピック直後の世界選手権は、「燃え尽き」もあるのか波乱の展開になることが多いが、今回も例外ではなかった。

五輪メダリストのうち、羽生結弦、ハビエル・フェルナンデス、エフゲニア・メドべージェワが欠場。日本からは、男子は五輪銀メダリストの宇野昌磨、田中刑事に加え、羽生の欠場と無良崇人の引退により急遽出場が決まった友野一希。女子は五輪4位の宮原知子樋口新葉という顔ぶれになった。来季の世界選手権の出場枠がかかった今大会、最大の3枠確保のためには、上位2名の順位合計13位以内が求められる。エース羽生を欠く男子、3枠復活のために2人ともミスが許されない女子。厳しい状況の中で迎えた五輪シーズンのファイナルだった。


【 女子シングル 】

SPのコンビネーションジャンプで転倒して8位発進となった樋口。「3枠復活」のためには、これ以上順位を落とすことはできない。今シーズンのラスト演技、魂を込めた。冒頭、やや苦手としている3サルコウをきれいに決め、続く最大の得点源・3ルッツ−3トウループも余裕で降りた。これで勢いに乗り、後半の3ルッツ−3トウループも流れよく決める。この後のジャンプもすべて加点を得、スピンもすべてレベル4。ステップもダイナミックに踏み、大きな盛り上がりの中でフィニッシュ。「やったー!」と叫びながら、渾身のガッツポーズ。リンク上で、キスアンドクライで感涙にむせぶ。間違いなく、今季のベストパフォーマンスだった。得点は当然のSB、145.51。トータル210.90で、最終グループの6人を残してトップに立つ。この時点で、宮原が6位以内なら3枠復活という状況になった。


最終グループ、まず1番滑走のケイトリン・オズモンドがほぼ完ぺきな演技で樋口を抜き、トップに立つ。しかし続くマリア・ソツコワは後半のコンビネーションジャンプで転倒、回転不足も4つ取られ、表彰台争いから脱落する。ガブリエル・デールマンも得意のジャンプに着氷の乱れが目立ち、技術点が伸びない。この時点で樋口は2位を保ち、5位以内が確定した。


そして宮原。SPではコンビネーションジャンプで回転不足を取られたものの3位発進。五輪のような「ミス・パーフェクト」演技を再現できれば、逆転優勝も十分射程圏内だった。しかし2つのコンビネーションジャンプでアンダーローテーションとされ、後半の3サルコウが2回転になり、まさかの転倒。宮原の転倒などめったに見られるものではなく、やはり五輪後の疲れ、燃え尽きがあったのか。しかしスピンやステップはすべてレベル4を得、大きく崩れることなくプログラムをまとめた。得点は135.72、トータル210.08。樋口に次いで3位に入った。本人としては不本意な出来だっただろうが、これで樋口の4位以内、宮原の5位以内が確定し、日本の来季の「3枠」復活が決まった。あとは2人の最終順位がどうなるかだったのだが…、思いもよらない結末が待っていた。


宮原の後に登場した15歳の五輪女王、アリーナ・ザギトワ。シニアデビューの今季、出場した7大会すべてで優勝。この世界選手権を制すれば、GPファイナル・五輪と併せ3冠達成という快挙になる。それは濃厚と思われたのだが、…思わぬ落とし穴が待っていた。演技後半の最初のジャンプ・3ルッツでいきなり転倒、コンビネーションにできない。続く2アクセル−3トウループも転倒。3連続は決めたものの、3ルッツに3ループをつけたコンビネーションで3度目の転倒(3度転倒すると−4の減点になる)。五輪女王を後押ししようと観衆が大きな拍手を送り、ザギトワもこのあと懸命に演じたが、ジャンプのミスが大きすぎた。FSでは7位に沈み、表彰台も逃す。キスアンドクライで涙にくれるザギトワ。五輪後の疲れ、女王として迎えた大舞台でのプレッシャーもあっただろう。今季初めて喫した黒星は、来季への苦くも貴重な教訓になるはずだ。


最終滑走はSP1位、地元のカロリーナ・コストナー。実に14度目の世界選手権出場、31歳の彼女にとってこれが最後の舞台となるかもしれない。「母国での優勝で有終の美を飾る」。美しきシナリオは出来上がっていたのだが…。冒頭の3ルッツが2回転に抜ける。この後のジャンプは堅実に決めるが、単独のジャンプが多くて技術点が伸びない。後半もアクセルが1回転になり、3サルコウで転倒。もともとこの人のジャンプ構成の難度はさほど高くなく、表現力を磨いて演技構成点で勝負する選手なので、ジャンプにミスが相次ぐと苦しい。FSでは5位にとどまり、総合4位に終わった。「有終の美」を飾ることはできなかったが、この人の柔らかく情感あふれる演技はいつ見ても見惚れてしまう。フィギュア史上屈指のアーティスティック・スケーターだろう。


結果、樋口が銀、宮原が銅と、日本選手がダブル表彰台。これは2007年東京大会で安藤美姫浅田真央がワンツーフィニッシュして以来、11年ぶりの快挙だ。特筆すべきは樋口の銀。有力選手がミスで沈んだとはいえ、SP8位からFSでは2位に入り、大逆転での初のメダル。これは本人も驚く好結果だったのではないか。

思えば今季は、当初から五輪出場を強く意識したシーズンだったはずだ。GPシリーズではロシア大会3位・中国大会2位と着実に実績を積み、初めてGPファイナル進出を決める。この時点では、ケガで出遅れていた宮原をもしのぐ実績を挙げていた。しかし暮れの大一番・全日本で、宮原が復活優勝を果たし、シーズン後半に上り調子になっていた坂本花織が僅差の2位に入り、4位に終わった樋口は五輪出場権を坂本にさらわれた。GPファイナルで最下位に終わったあたりから調子が下降線をたどっている感があったが、その懸念がこの「決定戦」でも出てしまった。シーズン前半は圧倒的にリードしていた五輪出場レースで、最後の最後で「差されてしまった」。この悔しさは察するに余りある。

この無念さがあっただけに、今季最後の大舞台ですばらしい結果を出すことができたのは、本人にとってとてつもなく大きなことだろう。13歳で全日本の3位に入ったころからすでに大物感を漂わせていたが、その大器がついに世界の舞台で大きく花開いた。この彼女の開花は、本人にとっても日本フィギュア界にとっても大きな収穫だろう。


【 男子シングル 】

SP終了時点で、宇野が5位、友野が11位、田中が14位と、来季の3枠獲得が危うい状況だった。宇野は五輪後に痛めた右足が完治しておらず、FSで順位を上げていけるか微妙。初出場の19歳・友野と「第三の男」田中の奮起が求められた。


この中で、会心の演技を見せたのが友野だった。昨年暮れの全日本で4位に入ったのが自信になったのか、「ウエストサイド物語」のリズミカルな音楽に乗り、みずみずしい演技を見せた。冒頭、4サルコウ−2トウループをやや乱れたが降り、続く4サルコウはきれいに決める。さらに3アクセル−3トウループでも加点を得る。後半も3連続を含む5つの3ジャンプを着実に決め、スピンもレベルの取りこぼしなし。ステップもダイナミックに踏み、場内の大きな手拍子の中フィニッシュ。得点はSBを18点近く更新する173.50、FSでは3位に飛び込む高得点だった。トータル256.11で、この時点でトップに立つ。この友野の大ブレイクが、3枠確保に大きく貢献した。


そして宇野。この時点で友野の7位以内が確定し、宇野が6位以内なら3枠獲得という状況だった。普段の彼の実力なら全く問題のない順位なのだが、今回は右足負傷というネックがある。これをどこまで克服できるかだった。冒頭、五輪でも転倒した4ループでまたも転倒。さらに、五輪では決めていた4フリップも転倒。さらに後半では、得意の3アクセルの着氷が乱れ、続く4トウループでまたも転倒(これで減点4)。この時は「このあとの3つのコンビネーション、跳べるのか」と思ったが、ここからがすごかった。4トウループ−2トウループ、3アクセル−1ループ−3フリップ、3サルコウ−3トウループと、コンビネーションをすべて成功、すべて加点を得る(佐野稔さんが観ていたら「男!」とか「根性!」とか叫びそうだ)。思えば五輪でも、最後の2つのコンビネーションを気合いで決めて銀メダルを取った。そしてこの世界選手権でも、五輪以上のミスがありながら、最後の3つを鮮やかに決めてみせた。「すごい!」としか言いようがない。4人を残して宇野がトップに立ち、この時点で来季の3枠が確定した。


最終滑走はネイサン・チェン。五輪ではSPで魔物に取りつかれたが、FSでは4ジャンプを五輪史上初めて5本決め、5位まで挽回した。今大会では、SPで完璧とは言えないが首位発進し、初制覇に最短距離の位置につけた。そしてFSでは、五輪をさらに上回る圧巻の演技を見せた。またも4ジャンプに6度挑み、5度成功。技術点は驚異の127.62。加えて演技構成点もほとんど9点台を獲得し、併せて219.46。トータル321.40は、羽生結弦に次ぐ史上2位の高得点である。五輪のうっ憤を晴らすような圧勝で、チェンが初の世界選手権王者の座に就いた。宇野は2位、友野は大健闘の5位。日本に新たな、将来性豊かな「第三の男」が出現した。


波乱万丈だった五輪シーズンが終わった。男子は絶対王者・羽生結弦がケガを克服して五輪連覇を果たし、宇野昌磨とともに日本勢ワンツーを飾った。女子はザギトワ・メドベージェワのロシア勢が、下馬評通りにワンツー。しかし最後の世界選手権では、男女ともに新しいチャンピオンが誕生した。

来季も激しく厳しい戦いになるであろうフィギュア界。現チャンピオンは王座を守れるか、伸び盛りの若手の追い上げは、そしてまた驚異の新星のデビューがあるのか。興亡の激しいこの世界、片時も見逃すことができない。


posted by デュークNave at 12:59| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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