2017年12月10日

日本勢、表彰台逃す:見せつけられた「世界のレベルアップ」 〜フィギュアGPファイナル・女子シングル〜

今季のGPシリーズの女子シングルは、終盤までは「日本選手の出場危うし」という状況だった。しかし最終戦を終えて樋口新葉が6番手で出場を決め、次いでポイントトップのエフゲニア・メドベージェワがケガのため棄権したため、宮原知子が繰り上げ出場することになった。これで平昌五輪の出場権争いでこの2人が一歩リードした形になったが、そのリードをより大きくするには、このファイナルで上位に入る=表彰台ゲットという成果が必要だ。


SPは驚異のハイレベルだった。カロリーナ・コストナー72.82、樋口新葉73.26、マリア・ソツコワ74.00、宮原知子74.61、アリーナ・ザギトワ76.27、ケイトリン・オズモンド77.04。全員が70点台はGPファイナル史上初であり、ソツコワとザギトワ、オズモンドはPBを更新した。ジャンプでは誰も転倒しないばかりか着氷の乱れもほとんどなく、コストナーがコンビネーションのセカンドジャンプが2回転になったのが唯一のミスだった。トップと最下位との差はわずか4.22。ジャンプの出来1つで逆転してしまう、極めて熾烈な戦いになった。


ファイナル初出場の樋口は、緊張のためジャンプの調子を落としていた。試合当日の練習でも調子が上がらず、不安を抱えたままで本番を迎える。序盤、3ルッツ−3トウループを決めたところまではよかったが、中盤で3サルコウが2回転に抜けたあたりから下降し始め、前半にきれいに決めたコンビネーションも2回転単独になってしまう。このあと2アクセル−3トウループ、3フリップ−2トウループ−2ループのコンビネーションを決めてミスを挽回したが、気落ちのためかスタミナ切れか、中盤から持ち前のスピードがやや落ちた。得点はPBを10点以上下回る悔しい結果。しかし初めての大舞台での経験は、2週間後の「勝負の全日本」できっと糧になるはずだ。


コストナーは優勝した2011年以来6年ぶりのファイナル出場。五輪・世界選手権・GPファイナルの通算で11個のメダルを獲得している、歴戦のベテランである。ジャンプの構成は決してハイレベルではないが、3年前のソチ五輪で見せた包み込むような柔らかな表現力は健在で、まさに円熟の境地。惜しくも表彰台は逃したが、この人の演技はSP・FSとも1つ1つが「芸術品」になる。出場すれば4大会連続となる平昌五輪でも、そのあでやかな演技で世界を魅了してほしいものだ。


SP首位発進の、昨季の世界選手権銀メダリスト・オズモンド。演技冒頭、3フリップ−3トウループを豪快に決める。この後のコンビネーションもきれいに決め、前半は完璧。しかし後半に入ると、3ループが2回転に抜け、3サルコウで転倒。ステップシークエンスはダイナミックに魅せてくれたが、ジャンプの失敗が響いて総合3位に順位を落とした。しかし昨季の世界選手権以来、GPシリーズでの好成績、そしてファイナルでの表彰台と、着実に世界へのステップを踏んでいる。女子フィギュア界では希少価値といえる肉感的スケーター、その躍動感あふれる演技を五輪でも存分に見せてほしい。


シニアデビュー2年目にして2年連続のファイナル出場となったソツコワ。ドビュッシー「月の光」の美しい旋律に乗り、その可憐な雰囲気を存分に生かした演技を見せた。ジャンプはいつもながらの抜群の安定感、173pの長身と長い手足を生かした大きく美しいステップとスピン。この1年での成長を強くアピールするほぼ完璧な演技で、FSでもPBを更新。見事初の表彰台(銀メダル)を射止めた。恐らく世界一熾烈なロシアの五輪出場枠(3枠)をめぐる争いでも、大きくリードしたと言えるだろう。


ファイナル出場選手の中で唯一、シリーズ2連勝のザギトワ。シニアデビューの年としては驚異の成績だ。FS最大の注目は、7つのジャンプをすべて後半に跳ぶというタフな演技構成。前半、シリーズ2戦と同様、ステップ、スピン、コレオシークエンスを切れ味よくこなす。そして後半、まず3ルッツ−3ループの高難度コンビネーションを無難に降りる。続く2アクセル−3トウループで着氷がやや乱れ、3ルッツでオーバーステップ。しかしミスはこれだけで、3連続コンビネーションをきれいに決め、最後までスピードとキレのよさを失わなかった。フランス大会で出したPB(世界歴代2位)には届かなかったが、合計ではPBを更新し、堂々のトップに立った。この驚異の新星、五輪では女王・メドベージェワをも脅かす存在になるか。


SPでPBに迫る高得点を叩き出した宮原。FSでは抽選で最終滑走となった。しかしこういう修羅場は何度も経験している彼女、落ち着いた表情で演技に入る。冒頭の3ループ、3ルッツ−3トウループ、3フリップをきれいに決める。得意の逆回転スピンで魅せ、後半の2つのコンビネーションも流れよく決める。「蝶々夫人」のメロディーに乗ってステップも流麗にこなし、盛り上がりの中でフィニッシュ。この時点では「ミス・パーフェクト再び」と思った。

しかし、得点は140点に届かない。前半の3ルッツ−3トウループ、3フリップがともに回転不足判定となっていたのだ。これが響いて総合5位、僅差で3年連続の表彰台を逃した。銅のオズモンドとは1.67、銀のソツコワとも2.79の差。まさに微差である。しかし急きょ繰り上げで出場した今大会、故障による長いブランクを思えば、よくここまで仕上げてきたと考えるべきだろう。2週間後の全日本でさらにどこまで磨いてくるか、楽しみに待とう。



過去2大会連続銀だった宮原。一昨年の得点は208.85、昨年は218.33だった。優勝のザギトワのスコアは223.30なので、昨年の得点を挙げても銀だったわけだが、今大会はSPで6人全員が70点を超え、FSとの総合でも全員が200点を超えた。世界のレベルが着実に上がり、全体的に底上げしていることを示している。

ファイナルと同時開催されたジュニアGPファイナルでは、優勝したトゥルソワが4サルコウに挑み、紀平梨花が女子初の3アクセル−3トウループに成功した。しかしシニアの世界ではこのような「高目追求」競争はほとんど起こっておらず、ジャンプ構成を難しくしたり、手を挙げて跳ぶなどGOE加点を狙ったり、メドベージェワやザギトワのようにジャンプを後半に持ってくることで基礎点の上積みを狙うなど、いわゆる質の向上に努めるのが主流だ。この流れは平昌五輪まで続くと思うが、こうなると技術点の基礎点に大きな差はつかず、いかにミスを少なくするかの勝負になる。


来る平昌五輪、男子は「高目追求派」が表彰台を占めそうな様相だが、「円熟派」も力がある女子は混戦模様だ。いずれにせよ、今季は全日本のみならず五輪でも、女子は「目移りクラクラ」大会になるのは間違いない。
posted by デュークNave at 06:09| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。