2017年04月02日

新しい地平に立ったチャンピオンたち:男子シングルは究極の日本勢1−2フィニッシュ 〜フィギュアスケート世界選手権2017〜

「すごい」としか言いようがない。今季のフィギュアスケートのクライマックス・世界選手権は、史上空前のハイレベルな戦い。女子シングルでは若きディフェンディングチャンピオンが、またも完璧な滑りで世界最高得点をマークして連覇達成。そして男子シングルは、五輪チャンピオンがFSで空前の高得点を叩き出して3年ぶりに王座奪還、さらに日本の誇る「2トップ」がダントツの1−2フィニッシュを決めた。


【 女子シングル 】

大会直前、日本のエース・宮原知子がケガによる欠場を表明。急きょ本郷理華が出場することになった。来年の平昌五輪の出場枠(上位2選手の合計順位が13位以内なら3枠、14〜28位なら2枠)がかかる世界選手権で、GPファイナル2位・全日本選手権3連覇中のエース宮原の欠場は非常に痛かった。急な出場になった本郷、初出場の樋口新葉三原舞依にかかったプレッシャーは大きかっただろう。

本郷と樋口は、シーズン後半のジャンプの不安定さをこの大舞台でも克服できなかった。本郷はFSで転倒1度に加え、3つのジャンプでアンダーローテーション判定を受け、技術点が伸びなかった。樋口も転倒1度にダウングレードや着氷の乱れがあり、得意のジャンプで得点が伸びなかった。ただ演技構成点では4項目で8点台を得ており、表現力の成長は示すことができた。

この中で会心の演技を見せたのが三原だ。SPでは最終盤の3フリップでまさかの転倒があり15位に沈んだが、FSではジャンプを次々にきれいに決め、すべての要素でGOE加点を得る完璧な演技。5コンポーネンツでも4項目で8点台の高評価。FSでは4位に入り、総合でも5位にジャンプアップ。初出場の大舞台で見事入賞を果たした。

しかしこの結果、上位2選手(三原・樋口)の順位合計は16(5+11)となり、日本女子シングルの平昌五輪への出場枠は2にとどまった。宮原の欠場がやはり響いた。年々レベルが上がり、層が厚くなっている日本女子シングル。この2枠の巡っての来季の戦いは熾烈になりそうだ。


我が目を疑ったのが、SP4位のアンナ・ポゴリラヤ。冒頭の3ルッツがシングルに抜けたのがつまずきの始まりで、ジャンプで3度の転倒(計4点の減点)。気落ちした最後のスピンもレベル2にとどまり、FSではまさかの15位。総合でも13位に沈んだ。演技終了後、あまりの出来にリンクに泣き伏してしまった。

昨季の世界選手権で3位に入り、今季のGPシリーズ(連続優勝)やファイナル(3位)でも持ち味を生かしたすばらしい演技を見せていた。「これは一皮むけたな。新しい境地に入ったかな」と、ファンの1人として心から喜んでいた。それだけに、このクライマックスでの大ブレーキは信じられない。でもそのしっとりとした雰囲気が醸し出す、艶のある演技は魅力たっぷりだ。まだ18歳、来季は熾烈なロシア国内の争いを勝ち抜いて、五輪の舞台でまたあでやかな演技を見せてほしい。


表彰台の両サイドを占めたのが、今大会大躍進のカナダ勢。3位のガブリエル・デールマン、2位のケイトリン・オズモンドは、ともにスピードと躍動感あふれる演技を得意とする。その勢いそのままに、SP・FSともにほとんどノーミス。演技構成点でも8点台後半から9点台の高得点で、技術性・芸術性を併せ持つ総合力の高さを見せた。ともにパーソナルベストを更新し、見事に初の世界選手権の表彰台に昇った。この結果、カナダは五輪出場枠「3」を確保。これはロシアのみならずカナダ勢も、日本の強力なライバルになりそうだ。


このハイレベルな戦いの中、まったく揺るがない演技を見せたのが、シニアデビューの昨季GPファイナル・世界選手権2冠、今季もファイナル連覇の「盤石の女王」、エフゲニア・メドベージェワだった。本当にこの人の演技は、とても人間業、しかもまだティーネージャーの成せる業とは思えない。非常にハイレベルな演技構成にもかかわらず、ほとんどミスがなく、しかもGOE加点を得られる要素をそちこちに散りばめている。まさに「女王の勝利の方程式」であり、これを完璧にこなした。FS154.40、トータル233.41はともに世界最高得点を更新。圧巻の連覇を果たした。


来年の五輪、このメドベージェワの「盤石の牙城」を崩せる選手はいるのか。正直、昨季・今季のこのあまりの盤石ぶりを見ると、「大きなミスをしない限り、彼女の五輪女王の座はほぼ決定じゃないのか?」と思ってしまう。彼女を倒すには、限界に挑むようなハイレベルの演技構成を完璧にこなして初めて勝負になるのだ。しかしこれはハイリスクハイリターン、至難の業だ。


【 男子シングル 】

中継のテレビ局が「真・4回転時代」と銘打った今大会。だがこの4回転、選手の取り組み方は大きく2つに分かれるようだ。

1つは、羽生結弦、宇野昌磨、ネイサン・チェン、ボーヤン・ジンに代表される、4回転の種類と回数を増やし、よりハイレベルなジャンプ構成を追求する選手たち(高目追求派)。もう1つは、ハビエル・フェルナンデス、パトリック・チャン、ジェイソン・ブラウンに代表される、4回転は2種類程度に抑え、ジャンプの精度を上げ、演技構成を熟成させて勝負する選手たち(熟成派)だ。

これは過去にもあった構図だ。2010年のバンクーバー五輪で、4回転を跳ばなかった「熟成派」イバン・ライサチェクが優勝し、4回転を跳んだ「高目追求派」エフゲニー・プルシェンコは銀に甘んじた。しかしその後、4回転を複数回跳ぶチャンが世界選手権を3連覇し、他の選手たちは「打倒・チャン」のために「高目追求」を余儀なくされた。その流れの中で羽生が2014年のソチ五輪を制し、その後も宇野ら気鋭の若手の台頭で「高目追求派」が有利に推移していた。しかし、世界選手権では「熟成派」のフェルナンデスが2015・2016年を連覇。「高目追求」はリスクが高いので、彼らにミスが出て「熟成派」が完璧な演技をすると、その円熟の技が勝ってしまうのだ。

昨年のGPファイナルでは、フェルナンデスとチャンがジャンプで失敗し、「高目追求派」の羽生・チェン・宇野が表彰台を占めた。今季のクライマックスではどちらに軍配が上がるのかが注目された。


SPでは、フェルナンデスの熟練の技が冴え、SBを更新してトップに立つ。同じくSBを更新して2度目の100点台を獲得した宇野が2位につける。3位にはこれも100点台に載せたチャンが続く。注目の羽生は4サルコウで転倒し、5位発進。4位にボーヤン・ジン、6位にネイサン・チェンが入り、FSの最終組はこの6人となった。「高目追求派」4人・「熟成派」2人。現在の男子シングルの勢力図そのままのメンバーになった。


さて、その結果は! 今年は「高目追求派」の完勝に終わった。「熟成派」の2人はともにジャンプにミスが出て技術点が伸びなかった。「熟成派」はもともとのジャンプ構成の得点が低いので、ミスをしては「高目追求派」に太刀打ちできない。「完璧に演じなければならない」というプレッシャーを常に背負うのが「熟成派」の宿命なのだ。GPファイナル同様、2人の世界王者がこのプレッシャーに負けた。

そして表彰台を占めたのが、「高目追求派」の3人。銅のボーヤン・ジンは、わずかなポイント差でGPファイナル進出を逃した悔しさを、この大舞台にぶつけた。SP・FSを通じてノーミス、すべての要素でGOE加点を得る会心の演技。5コンポーネンツでもほぼ8点台を獲得し、総合力の高さを見せつけた。2年連続の銅・表彰台。彼のキレのいいジャンプ(特に4ルッツの高さは圧巻!)のファンである私にとっても、彼の復活は非常にうれしい。


昨季の世界選手権ではFSの演技後半で尻すぼみし、7位に終わった宇野昌磨。その悔しさを抱き続けて挑んだ今季、GPシリーズ優勝・2位、ファイナル3位、全日本初優勝と着実に結果を積み上げてきた。その集大成と臨んだ今大会で、最高の結果を出した。

冒頭、今季後半から取り組んだ4ループを見事に決める。シニアデビュー以来、この吸収の速さが彼のすばらしさだ。続く「ギネスホルダー」4フリップもきれいに決める。次の3ルッツで着氷が乱れ、エラーエッジになったのが唯一のミスで、あとはほぼプラス評価。特に後半の3アクセル−3トウで+3.00、3アクセル−1ループ−3フリップで+2.57と、疲れが出る演技後半のジャンプで大きな加点を得ているのがすごい。演技構成点でもすべて9点台を得て、「高目追求」のみならず「熟成」も併せ持ったすばらしい作品に仕上がった。FSで初の200点越え(214.45)、トータルでも初めて300点を越え(319.31)、2度目の世界選手権で堂々の2位表彰台をゲット。見事に去年のリベンジを果たした。


しかし日本のエース、いや世界のエースはもっとすごかった。SP5位、トップのフェルナンデスとは10点以上の差。完璧に演じなければ王者奪還は成らない状況の中で、それをやってのけるすごさ。「絶対王者」を自認する羽生結弦の底力を見た。

まさに「完璧」を絵に描いたような演技だった。先日の大相撲春場所での横綱稀勢の里の逆転優勝の時も思ったが、「どうしてこんなことができるのか」。すべての演技要素が流れるように美しく進み、観る者はただただ酔いしれるのみ。すべての要素で加点を得ているのはもちろんだが、圧巻なのは、3つの4ジャンプ(単独)と3つのコンビネーションジャンプですべて2点以上の大きな加点を得ていること。加えて、5コンポーネンツはすべて9点台、4項目が9点台の後半である。昨季のGPファイナル、「SEIMEI」で世界最高得点をマークした演技を彷彿とさせるが、今回は10点アヘッドを逆転しなければならないという逆境の中にあったので、「気迫」という要素がかなり色濃く加わっていたのではないか。まさに底力である。

FSは223.20。自らが持つ世界最高得点を更新し、トータル321.59。3年ぶりに世界王者の座を奪還した。そしてこの瞬間、日本勢圧巻の1−2フィニッシュが成り、平昌五輪出場枠「3」が確定した。これ以上ない最高のフィニッシュだった。


この男子シングルの結果を見て思うこと:「高目追求派」がミスせずにこなしたら、「成熟派」は勝ち目がないということだ。「高目追求派」はもともとの演技構成レベルが高いので、多少失敗しても勝負になる。しかし「成熟派」はノーミスでこなして初めて勝負になるのであって、今回のようにミスが出ては「高目追求派」に大差をつけられてしまう。

来季はいよいよ五輪シーズン、この2つの「流派」の趨勢はどうなるか。「高目追求派」はこのままを維持するか、さらに4ジャンプのレパートリーを増やすかになるだろう。一方「成熟派」は、勝つために「高目追求派」に宗旨替えするのか、そのままさらなる熟成に努めるのか。その動きを見守りたい。


posted by デュークNave at 13:21| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする