2016年11月28日

羽生結弦、「もうちょっと」の連覇/宮原知子、リベンジのファイナル進出 〜フィギュアGPシリーズ最終戦・NHK杯〜

GPシリーズもいよいよ最終戦・NHK杯。すでに男女とも3人がファイナル出場を決めている。残り3枠がこの日で決まる。

今大会の主な出場選手は、男子ではスケートカナダ2位の羽生結弦、同3位のジェイソン・ブラウン、「驚異の4ジャンパー2世」ネイサン・チェンのアメリカ勢に加え、地元日本からは田中刑事日野龍樹。女子はロシア杯優勝のアンナ・ポゴリラヤ、フランス杯2位のマリア・ソツコワのロシア勢に、スケートカナダ3位の宮原知子、フランス杯3位の樋口新葉、松田悠良の日本勢が挑む。


【 女子 】

松田悠良(総合7位):SP・FSとも大きなミスなくこなしたが、いくつかのジャンプがアンダーローテーションとなったため技術点の基礎点とGOEが伸びなかったのが惜しかった。しかしSPでは3ループ−3ループのコンビネーション、FSでは冒頭で2アクセル−3トゥループ−3ループを今回も鮮やかに決めるなど、ジャンプのレベルの高さは魅力だ。暮れの全日本まで、ジャンプの回転不足をどう修正してくるか。

樋口新葉(総合4位):持ち前のスピードに加え、柔らかい表現力も見せてくれた。ジャンプに着氷の乱れや回転不足があって惜しくも表彰台を逃したが、スピードを生かした勢いのあるジャンプだけでなく、SP・FS通じてすべてのスピンでレベル4を獲得するなど、トータルの技術レベルが上がっている。2年連続で表彰台に上がっている全日本が楽しみだ。

マリア・ソツコワ(総合3位):SPはノーミスで2位につけたが、FSではジャンプで回転不足やダウングレードとなり、総合では3位に後退した。しかし170pの長身、長い手足を生かした優雅な演技は「魅せる」。シニアデビューで見事にGPファイナル進出を決めた。「ロシア3強」にどこまで迫れるか、2週間後が待ち遠しい。

宮原知子(総合2位)SPではジャンプでまさかの転倒(彼女の転倒などめったに見られないので我が目を疑った)。しかしFSでは、いくつかのジャンプで回転不足判定を受けたものの大きなミスなくこなした。注目すべきは他の要素で、スピンとステップはSP・FSともすべてレベル4を獲得し、5コンポーネンツもすべて8点台。ジャンプに若干のミスがあっても、こういう調子の波の少ない要素で高い評価を得ているので、得点が大きく落ち込むことがないのだ。これは男女ともトップクラスの選手に共通している点であり、宮原が着実に世界トップクラスに入ってきていることの証明といえるだろう。逆転で総合2位に入り、日本勢で唯一のGPファイナル進出を決めた。ジャンプを調整できれば、ファイナルでもロシア勢の強力なライバルになりうるだろう。

アンナ・ポゴリラヤ(優勝):ロシア杯に続き、自信に満ちあふれた演技を見せてくれた。もともと実力のある選手だったのだが、SP・FSとも大崩れしない安定感を身に着け、まさに「鬼に金棒」の感がある(あんなエレガントな女性を鬼とは失礼だけど)これは間違いなくファイナルでも有力な優勝候補だろう。

これでGPファイナルはロシア4、カナダ1、日本1。非常に熾烈で見ごたえある戦いになりそうだ。


【 男子 】

ケガで欠場した山本草太の代役出場となった日野龍樹。羽生・田中と同年代の日野は、これがNHK杯初出場だ。5コンポーネンツなど表現力はまだまだだが、ハイレベルなコンビネーションジャンプを決めるなど、要所要所では見せてくれた。大舞台に出場できた喜びと感激が表情や雰囲気に現れており、この経験をぜひ今後に生かしてほしいものだ。

ファイナル進出の可能性があったジェイソン・ブラウン。これが初来日だ。しかし今回はSP・FSともジャンプにミスが相次ぎ、下位に沈んでしまった。芸術的でエンターテインメントな表現力や演技構成の妙は日本のファンに見せてくれたが、ファイナルでもこれを見たかった。来年の世界選手権では、本来の演技で華麗なる「オン・ステージ」を見せてもらいたい。

田中刑事(総合3位)SPではPBを大幅に更新して3位発進。そしてFSでも、冒頭の4サルコウ2本(2本目はコンビネーション)を大きなミスなく決めて波に乗る。後半のジャンプはすべてGOEで加点を得、場内の手拍子に乗って軽快なステップを踏む。FSでもPBを更新して3位に入り、GPシリーズ初の表彰台を決めた。ここで得た大きな自信を、暮れの全日本でさらに確かなものにしてほしい。

ネイサン・チェン(総合2位):フランス杯できれいに決めた冒頭の4ルッツ−3トゥのコンビネーションだったが、今回はSP・FSともルッツで転倒。しかし続く4フリップに3トゥをつけてコンビネーションに。さらに4トゥを前半で2本続ける。後半は4回転を避けてジャンプを着実にこなし、ステップもよく体が動き、最後までスピードが衰えない。FSでも2位に入り、総合でも2位を守った。17歳、シニアデビュー年に初のファイナル進出決定である。「驚異の4ジャンパー1世」ボーヤン・ジンが惜しくもファイナル進出を逃した今、「2世」の彼には、ファイナルの大舞台でその驚異のジャンプを思い切り見せてもらいたいものだ。

羽生結弦(優勝):SPでは冒頭の4ループの着氷が乱れ、演技終了後に指で輪を作って「もうちょっと」のポーズを作った。しかしFSではその4ループを、軸が傾きながらもこらえた。続く4サルコウは余裕の着氷。後半の4サルコウで転倒したのが唯一の大きなミスで、あとはすべての要素でGOE加点を得る。そして他を圧倒する5コンポーネンツの得点の高さ(2位のチェンに8点以上の差をつけた)。このベーシックなレベルの高さが羽生の強さの源泉だ。トータルで今季のGPシリーズ初の300点超え。圧勝でファイナル進出を決めた。

演技終了後、また指で輪を作って「もうちょっとだな」とつぶやいた羽生。SP・FSとも大きなミスがありながら300点を超える。このミスがなかったらいったいどこまで得点が伸びるのか。それはファイナルでのお楽しみとしよう。


今季の経緯からすると、男子のファイナルは羽生、宇野、チャン、フェルナンデスの「4強」の争いになりそうだ。1つのミスが致命傷になる、こちらも激烈な戦いになりそうだ。

posted by デュークNave at 05:48| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月22日

P・チャン、貫禄の逆転優勝/三原舞依、惜しくも連続表彰台を逃す 〜フィギュアGPシリーズ第5戦・中国杯〜

GPシリーズも残り2戦。ファイナル出場を賭けた厳しい戦いが続く。すでに男子では宇野昌磨ハビエル・フェルナンデス、女子はエフゲニア・メドベージェワがファイナル進出を決めている。

今大会の主な出場選手は、男子ではスケートカナダ優勝のパトリック・チャン、優勝すればファイナル出場の可能性が出てくる「驚異の4回転ジャンパー」ボーヤン・ジン、セルゲイ・ボロノフ、マキシム・コフトゥンのロシア勢。女子では、スケートアメリカ優勝のアシュリー・ワグナー、エレーナ・ラジオノワ、エリザベータ・トゥクタミシェワのロシアティーネージャー、スケートカナダ2位のケイトリン・オズモンドに、本郷理華・三原舞依の日本勢である。


【 女子 】

有力選手が目白押しの女子は、非常にハイレベルで激しい戦いになった。

SP4位のトゥクタミシェワ。FSではスケートカナダでの曲を変え、昨季の曲で臨んだ。ジャンプを確実に決め、持ち前の妖艶さを生かした迫力のあるステップシークエンスで魅せた。5コンポーネンツでは4項目で8点台を獲得、FSでは2位となって表彰台に昇った。一昨年の世界女王が、その輝きを取り戻しつつあるようだ。

3位以内でGPファイナル進出が決まるワグナー。SP5位からの巻き返しを図ったが、後半のジャンプがことごとく回転不足判定を受け、技術点が伸びなかった。FSでは7位、総合6位に沈んだ。シリーズ総合ポイントは20点にとどまり、5年連続のファイナル出場は厳しくなった。スケートアメリカでの自信あふれるすばらしい演技を披露してくれたワグナー、「今の彼女ならメドベージェワにも十分対抗できるかも」と思い、彼女の演技をぜひファイナルでも観たかったのだが・・・。しかし5コンポーネンツではほとんど8点台の半ばから後半の得点を得ており、技術の高さと表現力の豊かさはやはりすばらしい。世界選手権でのリベンジに期待したい。

本郷理華はスケートカナダで回転不足が多かったジャンプを修正して臨んだが、ここでも抜けてダウングレードになったり着氷が乱れたりするなど、ジャンプの出来がまだ今一つ。柔らかな表現力は見せてくれたものの、総合5位にとどまった。暮れの全日本でどこまで仕上げてくるか。

SP首位のオズモンド冒頭の2つのコンビネーションはスピードと幅がすばらしく、上々の立ち上がり。しかし続く3ルッツで大きくバランスを崩し、後半の3ループで転倒。これが響いて技術点が伸びず、総合2位にとどまった。やはり4年ぶりのGPシリーズ優勝が懸かってプレッシャーがあったのか。しかしこの2位でシリーズポイントを26に伸ばし、初のファイナル進出を決めた。

「トゥーランドット」の調べに乗り、ここでも安定感抜群の演技を見せてくれたラジオノワ。高難度のジャンプを次々に決め、5コンポーネンツもほとんどが8点台後半の高評価。身長が伸び、雰囲気もぐっと大人びてきて、着実に自分の世界を創り上げつつある。オズモンドを逆転し、シリーズ通算4度目の優勝。4年連続のファイナル進出を決めた。GPシリーズで表彰台を外したことのない安定感で、女王・メドベージェワの牙城を崩せるか。

非常に惜しかったのが三原舞依だ。会心の演技でSPは2位発進。FSでは最終滑走となったがそれをものともせず、冒頭からジャンプを柔らかなランディングでことごとく決めた(このランディングの柔らかさは、TV解説をしていた織田信成さんの現役時代を彷彿とさせる)。伸びやかなスケーティングでステップも軽やかにこなす。しかし後半、3ルッツがシングルに抜け、3ループでも着氷が乱れる。これが響いてトゥクタミシェワに逆転され、2戦連続の表彰台を逃した。このミスがなければ、表彰台はおろかオズモンドも逆転して2位に入り、ファイナル進出の可能性も見えていた。それまでは本当にすばらしい演技を見せてくれていただけに、本当に惜しかった(本人もキスアンドクライで手で顔を覆っていた)。しかしシニアデビューのシーズンでこれだけの演技を見せ、世界に大きくその存在を知らしめた。「惜しかったが、本当によく頑張った」この一言だろう。


【 男子 】

元世界王者と驚異の新鋭がきわどい戦いを繰り広げた。

ロシアのベテラン・ボロノフ一昨年のGPファイナルでは表彰台に昇っている。冒頭の4トゥ−3トゥ、3アクセルー2トゥのコンビネーションは、大きなGOE加点を得たすばらしいジャンプ。しかし続く再度の4トゥ−3トゥのファーストジャンプが3回転になってしまい、セカンドと合わせて3トゥが3回になった。FSでは同じ3ジャンプを3度跳んではいけないルールになっており、このセカンドジャンプがノーカウントになってしまった。しかしこの後のジャンプはすべてGOEで加点され、着実に得点を積み重ねた。ロシア選手らしい繊細で柔らかな表現力も健在。FSでは3位に入り、総合でも3位。シリーズ2年ぶりの表彰台をつかんだ。ロシアは男子も負けてはいない。

SPでは会心のジャンプを連発し、首位発進となったボーヤン・ジン。FSの曲は「道」。(これを聞くと、バンクーバー五輪での橋大輔のFSを思い出す)冒頭、4ルッツはやや乱れながらも降り、4サルコウはきれいに決める。3アクセルからの3連続も流れよく決め、コミカルなコレオシークエンスで会場を沸かせる。後半、4トゥで転倒したが、直後に4トゥ−2トゥのコンビネーションを鮮やかに決める。この巻き返しはすばらしかった。地元の拍手と歓声の中で軽やかにステップを踏み、大きな盛り上がりの中でフィニッシュ。数々のジャンプもさることながら、プログラムそのものが観る者を魅了するすばらしい構成で、「このプログラムをファイナルでも観たいな。ぜひ優勝してほしいな」と思ったのだが・・・。

SPで3ルッツが2回転に抜けてポイントゼロとなり、思わぬ3位にとどまったパトリック・チャン4位以内ならファイナル進出決定だが、本人が狙うのはもちろん逆転優勝だ。最初の4トゥ−3トゥはスピード・幅ともすばらしく、続く3アクセルも流れるような着氷で、ともにGOE2点以上の完璧なジャンプ。だが次の「今季のチャレンジ」4サルコウは、スケートカナダと同じく転倒する。しかしミスはこれだけで、このあとはすべての要素でGOE加点を受け、後半の4トゥや2つのコンビネーションジャンプもきれいに決める。

TV解説の佐野稔さんが、「彼の滑っている時の体の傾斜を観ていて下さい」と言うので注目していたら、なるほどカーブする方向に体が傾き、それに合わせてエッジも傾いている。佐野さん曰く、「これが美しくかつ伸びるスケーティングの秘訣」なのだそうだ。私は佐野さんの熱い解説が大好きなのだが、加えてこういうプロらしい技術的なコメントをしてくれるのがうれしい。この「体の傾斜」に注目して見ると、特にステップシークエンスでのチャンの動きの流れが非常によく、「スケーティングのレベルが高いとはこういうことなのだ」と初めて知った。佐野さんのおかげで、フィギュア観戦のポイントをまた1つ得ることができた。

チャンはFSで1位、総得点でボーヤン・ジンとの12点以上の差を逆転。自身12度目のGPシリーズ優勝を決めるとともに、8度目のGPファイナル進出を決めた。


ボーヤン・ジンとパトリック・チャンの得点を比較すると、技術点の基礎点はボーヤン・ジンが約8点高いが、技術点の合計はほぼ同じ。つまりGOEでチャンが大きく稼いでいるのだ(13.65点)。そして5コンポーネンツでは、ボーヤン・ジンは7点台後半から8点台なのに対し、チャンはすべて9点台。合計で14点以上の差がついている。演技の完成度と洗練された表現力で、チャンが若き挑戦者を退けたのだ。

しかし、ボーヤン・ジンはまだシニアデビュー2年目の19歳。GOEや5コンポーネンツはこれから経験を積めば磨き上げられる。つまりまだまだ伸びしろがあるということだ。100点を超える技術点の基礎点の高さは非常に魅力的であり、このFS「道」のプログラム構成そのものも見応え十分だ。宇野昌磨と同年代のライバル、今後の成長がとても楽しみだ。


これでGPファイナルの残る椅子は、男女とも3つになった。今週末のシリーズ最終戦・NHK杯ですべてが決まる。男子は羽生結弦、ジェイソン・ブラウン、女子はアンナ・ポゴリラヤ、マリア・ソツコワ、宮原知子、樋口新葉らが出場。さあ、どんな結末が待っているのか。

posted by デュークNave at 04:54| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月15日

フェルナンデス、「連闘」をものともせず/樋口新葉、デビュー戦だが「当然」の表彰台 〜フィギュアGPシリーズ第4戦・フランス杯〜

シリーズも後半戦に突入した第4戦。男子は王者ハビエル・フェルナンデスが、競馬的に言えば「連闘」で登場。これにスケートアメリカ3位のアダム・リッポン、スケートカナダ8位の雪辱を期す無良崇人らが挑む。女子はスケートカナダ優勝のエフゲニア・メドベージェワ、スケートアメリカ5位から巻き返しを図るグレイシー・ゴールド、これがシニアデビューのロシア期待の新鋭、マリア・ソツコワ。日本勢は浅田真央、永井優香と、日本の超新星・樋口新葉(わかば)がついにシニアに初参戦する。


【 男子 】

アダム・リッポンはSP・FSとも安定した演技で、今回も3位表彰台を射止めた。しかし4ジャンプはFSでの4トゥループ1回のみで、この演技構成では表彰台には上がれても優勝はできないし、さらに上には行けない。今後の大きな課題だ。

無良崇人はFSの前半、2つの4トゥを着実に決めた。スケートカナダで転倒した後半の4サルコウを3回転に抑え、得意の3アクセルからのコンビネーションをきれいに降りる。最後の3ルッツで転倒したのが惜しかったが、全体的によくまとまった演技だった。ファイナルは逃したが、暮れの全日本に向けて調子は上向いてきたようだ。

これがシニアデビューの17歳、ネイサン・チェン(アメリカ)。SPでは4ルッツ・3トゥのコンビネーションと4フリップという、とんでもないジャンプ構成を目にも鮮やかに決め、2位につけた。昨シーズンのボーヤン・ジン(中国)を彷彿とさせる、衝撃のシニアデビューだった。FSは4種類の4ジャンプ(ルッツ・フリップ・サルコウ・トゥループ)を跳ぶという、これもすさまじい演技構成だった。冒頭のルッツとフリップはSP同様きれいに決めたが、中盤のサルコウとトゥループで転倒。しかし後半、失敗したトゥループに再度挑み、手をついたが成功。この負けん気の強さはいい。残念ながら表彰台は逃したが、末恐ろしい新星が今年も現れた。恐ろしいが面白い。

ケガから復帰したソチ五輪銅メダリストのデニス・テン(カザフスタン)。久々の公式戦だったが、持ち前のキレのいいジャンプと柔らかな表現力を見せてくれた。五輪以降はケガもあって本来の調子を取り戻せずにいたが、ようやく実力を発揮できるコンディションに復調してきたようだ。総合2位に入り、待望久しかった表彰台をゲットした。

「連闘」のフェルナンデス本人も「新しいチャレンジだ」と語っていたが、さすがに疲れがあったか、SP・FSともジャンプにミスが出た。しかしもともとの演技構成レベルが高いので、多少のミスがあっても他を凌駕する高得点をマークできる。SP・FSともトップで、貫禄のシリーズ連勝。宇野昌磨に続きGPファイナル進出を決めた。


【 女子 】

浅田真央はジャンプが依然として不安定だ。FSではほとんどの3ジャンプが2回転になってしまい、これではスピンやステップでレベル4を取れても、技術点の基礎点が低すぎて勝負にならない。総合9位はGPシリーズ参戦以来の最低順位。このジャンプの不調の原因はどこにあるのだろうか。全日本まであと1か月余り、どこまで調整できるか。

ハイレベルなティーネージャー軍団がひしめくロシア勢に、「まだこんな選手がいたのか」と思わされたのが、これがシニアデビューのマリア・ソツコワ昨季ジュニアGPファイナルとジュニア世界選手権でともに銀メダルを獲得、本人も待望のデビュー戦だっただろう。170cmの長身、その長い手足を生かした大きくあでやかな演技。SPで3位につけ、FSでは彼女の雰囲気にマッチした薄いピンクのコスチュームで、優雅でしっとりとした演技を見せてくれた。その中でジャンプは確実に決め、長身を生かしたスピンが観衆に訴える。観ていて「ロシアはこういう『美しい演技』をするスケーターを育てるのが伝統的にうまいよな」と感心した。

昨季のメドベージェワもそうだったが、シニアデビューでこれだけの演技ができるのは、ジュニアの時点ですでにしっかりした技術と洗練された表現力を身に着けているということだ。次々と驚異のティーネージャーを生むロシア女子、恐るべしである。


スケートカナダ優勝、この大会でGPファイナル進出を決めたい世界女王・メドベージェワ。SPでは貫禄のノーミスで1位につけ、FSでも冒頭の3フリップ−3トゥをしっかり決める。ところが続く3ルッツでまさかの転倒。公式戦で彼女が転倒するのを見たのはこれが初めてで、「あの安定感抜群の彼女が」と非常に驚いた。しかしこのあと乱れないのがこの人の強さで、後半の5つのジャンプではすべてGOE加点を受けるさすがの安定感。コーチが「他の選手よりも音楽に対する感性が優れている」と評するように、5コンポーネンツでも8〜9点台を得て、ここでも余裕の優勝。いの一番でファイナル進出を決めた。やはり今季も、この人が「女王の座」の本命だろう。


私が今季の日本女子で一番注目し、その演技を楽しみにしていたのが樋口新葉だ。2年前の全日本で初めて観て、そのスピードと大物感のある雰囲気に強烈なインパクトを受け、彼女のシニアデビューを心待ちにしていた。今季、シリーズ4戦目で満を持しての登場である。

最終滑走になったSPでは、持ち味のスピードを生かした滑らかなスケーティングを披露。後半の3ルッツ−3トゥも鮮やかに決め、ここまでは完璧だったが、最後の3フリップが2回転に抜けて得点ゼロになったのが惜しかった。それでも僅差の5位、表彰台は十分狙える位置につけた。

FSでは、冒頭の3ルッツ−3トゥをきれいに決め、SPで失敗した3フリップも流れよく決めて波に乗る。持ち前のスピードに柔らかな表現力が加わり、観る者に訴える演技だ。後半の3ルッツが1回転に抜けてしまったが、そのあとのコンビネーションを連続で決めて崩れない。最後までスピードが衰えないすばらしい演技でPBを更新。FSでは3位に入り、逆転で3位表彰台をつかんだ。

シニアデビューで表彰台なら上出来なのだが、彼女の場合は「ぎりぎり合格ライン、本当はもっと上に行けるでしょ」と思えてしまう(本人も満足はしていないようだったし)。GOEや5コンポーネンツでは2位のソツコワを上回っており、まだまだ伸びしろは大きい。日本期待の15歳の超新星、次戦のNHK杯が待ち遠しい。

posted by デュークNave at 05:05| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月07日

宇野昌磨「悔しい2位」、しかしGPファイナル確定/ポゴリラヤ、本領発揮のV3 〜フィギュアGPシリーズ第3戦・ロシア杯〜

この第3戦もすごいメンバーが顔をそろえた。男子は開幕戦のスケートアメリカを制した宇野昌磨と、世界選手権2連覇中のハビエル・フェルナンデス(スペイン)の対決。女子は昨季GPファイナル3位のエレーナ・ラジオノワ、昨季世界選手権3位のアンナ・ポゴリラヤ、ソチ五輪団体金のユリア・リプニツカヤ「ラシアン・ティーネージャー」トリオが地元のこの大会で揃い踏み。これにアメリカ大会の雪辱を期す村上佳菜子とGPシリーズデビューの松田悠良の日本勢が挑む。


【 女子 】

SPは予想通りロシア3人娘がトップ3を占めた。リプニツカヤは昨季の不振を振り払う落ち着いた演技を披露。驚異のキャンドルスピンも健在だ。ラジオノワは過去GPシリーズ6戦で優勝3回・2位1回・3位2回と、一度も表彰台を外していない。その抜群の安定感は今季も変わらず、ミスのない演技で71.93と70点台に乗せる。ポゴリラヤは昨季の世界選手権3位表彰台が大きな自信になったようで、雰囲気が落ち着きに満ちている。貫禄の演技でほぼPBの73.93をマークし、首位に立った。

そして迎えたFS。村上佳菜子はジャンプに精彩を欠き(特に苦手のアクセルで2度ともミスしたのが痛い)、総合11位に沈んだ。一方松田悠良は、演技冒頭で2アクセル−3トゥループ−3ループという、難度の高いコンビネーションを鮮やかに決める(この組み合わせは非常に珍しく、ループの得意な彼女ならではの技だ)その後のジャンプ
も安定感があり、よどみなくいい流れで演技を終えた。このFSでPBを更新し、シニアデビューを6位入賞で飾った。


上位では異変が起こった。SP3位のリプニツカヤが途中から動きがおかしくなり、演技を中断。再開したもののまったく不本意な結果に終わった。スケートアメリカを棄権したケガが十分回復していなかったのか。彼女の復活を心待ちにしていた場内のファンには、涙を流す人もいた。「彼女の復活を心待ちにしていた」のは私も同じであり、非常に残念だ。これで今季のGPシリーズ出場は絶望的だろう。残念!としか言いようがない。

ラジオノワはジャンプにわずかなミスが出たものの、持ち前の安定感で着実に2位を確保した。身長が167cmまで伸び、昨季と同様体のバランスを保つのが難しいだろうが、大崩れはしないのがこの人の強みだ。

優勝はポゴリラヤ。長い手足を生かした優雅な滑りでこのFSでもトップ、2014年スケートカナダ以来のGPシリーズ3度目の優勝を果たした。開幕戦のスケートアメリカでのワグナーにも感じたことだが、ポゴリラヤも世界選手権でのメダルが大きな自信になっているようだ。ワグナーも雰囲気が自信にあふれていたが、今大会のポゴリラヤにもリンクでの姿に落ち着きと風格を感じ、「ああ、これは一皮むけたのかな」と思った。

もともと手足が長いので演技が大きく見えるのだが、それに風格が加わってさらに大きく、深みを増している。SP・FSともPBには届かなかったが、トータルはPBを更新。これはこれまではSPとFSをいい演技でそろえることができなかったことを示しており、それができた今季の彼女にはかなり期待していいだろう。過去2シーズンで本来の実力を発揮できていなかったポゴリラヤに私も心を痛めていたが、ようやく本領を発揮し始めた彼女を見ることができて、個人的な彼女のファンとしてはとてもうれしい。


前半戦を終え、私見では今季も女王はメドベージェワが本命と見るが、自信を身につけたワグナーとポゴリラヤがかなり強力なライバルになりそうだ。


【 男子 】

SPで世界歴代3位の98.59を叩き出した宇野昌磨(しかも4フリップとコンビネーションジャンプが完璧ではなかったのにこの得点だから恐れ入る)。今大会で3位以内に入ればGPファイナル出場が決まる。一方世界王者のフェルナンデスは7点差の2位につけた。過去の実績から見ても、優勝争いはこの2人の一騎打ちの様相を呈していた。


その宇野のFS。冒頭の4フリップ、4トゥは無難に決める。しかし続く3アクセルは着氷が乱れてコンビネーションにできず、後半の4トゥ−2トゥでは転倒。だがスケートアメリカで転倒した3アクセル−1ループ−3フリップはきれいに決めた(このコンビネーション、サードジャンプはサルコウにするのが普通だが、より難度の高いフリップにしているのがミソ。疲れの出る後半にこんな高難度のコンビネーションを入れているのだから、相当にタフな演技構成である。FSではPBを更新できなかったものの、トータルはPBを更新する285.07。この時点で表彰台を確定させ、GPファイナルへの進出が決まった。


最終滑走のフェルナンデス。「エルビス・プレスリーメドレー」に乗り、得意のポップな演技をふんだんに見せた。冒頭の4トゥはきれいに決める。続く4サルコウは着氷がやや苦しくなったが、2トゥを続けた。後半の4サルコウも完璧。そして持ち前の陽気で明るい表現力。得点は200点を超え、宇野を逆転してロシア杯3連覇を果たした。世界王者の貫禄を示した見ごたえたっぷりの演技だった。


惜しくも世界王者の底力に屈した宇野昌磨。しかし完璧ではなかったSPで世界歴代3位をマークし、同じくミスが出たFSでも前回のミスはしっかりカバーして試合を壊さなかった。これでもっとミスを少なく抑えられれば、羽生結弦やフェルナンデスにも十分対抗できるだろう。まだまだ伸びしろはたっぷりありそうで、世界トップへの道を着実に踏みしめている宇野昌磨。まだジュニアだった2014年の全日本選手権に初出場していきなり2位になりながら、まったくうれしそうな表情をしていなかった彼を見て、「これはすごい選手になるかもしれないな」と予感した私だったが、この予感は想像以上の速さで実現してきている。彼のこれからの成長と活躍が本当に楽しみだ。


P.S. 宇野の後半の3アクセル−1ループ−3フリップのコンビネーションを褒めあげたが、上記の2014年の全日本選手権の映像を観てみたら、この時のFSですでに成功していることがわかった(しかも同じく後半の演技で!)。いや、恐れ入りました。


posted by デュークNave at 03:39| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月01日

男子はともに不完全燃焼、しかしそのチャレンジ精神はあっぱれ! 〜フィギュアGPシリーズ第2戦・スケートカナダ〜

GPファイナル4連覇がかかる羽生結弦とソチ五輪銀メダリストのパトリック・チャン(カナダ)が、2年連続この舞台で直接対決。女子もエフゲニア・メドベージェワ、エリザベータ・トゥクタミシェワ(ともにロシア)の新旧世界女王の揃い踏みに、宮原知子・本郷理華・永井優香の実力ある日本勢が加わる錚々たる顔ぶれだ。


【 女子 】

永井優香ジャンプをゼロから見直している最中とのことで、SPはジャンプがほとんど決まらずにまさかの11位。しかしFSでは、ジャンプに持ち前のキレの良さが戻り、笑顔で演技を終えた。次戦のフランス大会でどこまで仕上げられるか。

本郷理華(6位)は、FSで鈴木明子さん振付の「アラビアのロレンス」に挑んだ。全体的にまとまった演技で、持ち前の長い手足を生かしたダイナミックさに柔らかさが加わり、成長を感じさせたが、アンダーローテーションやダウングレード判定を受けたジャンプが多く、技術点が伸びなかった。次戦は中国大会、細かな調整が必要になってくる。

世界ランク1位で大会を迎えた宮原知子。SPではジャンプの回転不足で5位に沈んだが、FSではそれぞれのジャンプを着実に決め、演技に流れがあった。ホルストの「惑星」は、女子の試合に使うにはなかなか難しい曲と思われたが(特に「火星」は)、力強い振付で果敢に挑んできた。地元の大声援を受けたケイトリン・オズモンドには及ばなかったが、シリーズ初戦でしっかり表彰台をつかんだ。

一昨季のGPファイナルと世界選手権を制したトゥクタミシェワ昨季は層の厚いロシア勢との争いに敗れ、両大会とも出場できなかった。復活を期しての今大会だったが、FSのジャンプでコンビネーションのミスやダウングレードがあり、本領を発揮できなかった(4位)。だがしっとりとした妖艶さは健在であり、中国大会では2015世界女王の「妖しい魅力」を見せつけてほしいものだ。


昨季の世界女王・メドベージェワ。シニアデビューの年にいきなりトップに上り詰めた反動はどうかと思ったが、当の本人はまったく意に介さず、またもあっさりと優勝を勝ち取ってしまった(SP・FSとも、抽選で最終滑走を引き当てた。スケートの女神が「女王の貫録を見せなさい」と告げたかのようだ)。安定感のあるジャンプ、繊細な表現力、そしてジャンプをたびたび手を挙げて跳ぶなど、GOE加点を意識したプログラム構成。これらの強みは今季もまったく揺るがず、さらにグレードアップしている。この調子を維持できれば、今季も彼女が女王の最有力候補だろう。


【 男子 】

SPで2位につけた無良崇人は、FSで新たな4ジャンプ・サルコウに挑んだ。惜しくも転倒したが、この熾烈な「4回転戦争」のさ中にあっては、挑まねばファイナルや世界選手権には行けない。この他にもジャンプにいくつかミスが出て、総合8位に終わった。しかしSP・FSとも意欲的なプログラムであり、チャレンジングな姿勢は見える。次戦のフランス大会では、持ち前のダイナミックな演技をさらに磨いてほしい。


SPのジャンプでミスを連発し、まさかの4位発進となった羽生結弦今季のFSは、4ジャンプ4本(前半で4ループ・4サルコウ、後半で4サルコウ−3トゥループ・4トゥループ)、さらに後半に3アクセルからのコンビネーションが2本と、究極の高難度プログラムになっている。

冒頭の4ループは、SP同様の回転不足で転倒。しかし直後の4サルコウは完璧に決める。後半のコンビネーションは、4サルコウが2回転になったが、4トゥはこらえる。3アクセル−2トゥ、3アクセル−1ループ−3サルコウはきれいに決め、ここ数年の鬼門・最後の3ルッツも鮮やかに降りる。最後のポーズの前に後ろによろけるほどのタフな構成だったが、気迫で滑り切った。得点はPBには遠く及ばないが、左足甲のケガで2か月練習ができず、調整不足の中で、これほど意欲的なプログラムに挑む彼の向上心の強さには、いつもながら感嘆させられる。次戦のNHK杯では、SP・FS揃った「作品」を見せてほしいものだ。


2011年から3年連続で世界選手権を制したパトリック・チャン彼こそが今の「4回転戦争」の火付け役だった。あまりにも完璧で美しい4ジャンプを跳び、世界王者に君臨し続けるチャンに、他の選手たちは「彼に勝つには4ジャンプに挑むしかない」と強く駆り立てられたのだ。

その後の4回転戦争は、まさに日進月歩。2014年のソチ五輪の時はまだほとんどが4トゥループだけだったが、翌2014−2015シーズンから4サルコウを跳ぶ選手が増え始め(羽生結弦もその一人)、さらに昨季は、4ルッツをコンビネーションで跳ぶというとんでもない選手(ボーヤン・ジン)が現れた。そして今季は、4フリップを宇野昌磨、4ループを羽生結弦が公式戦で跳び、これでアクセル以外の5つのジャンプで4回転が勢ぞろいした。このレベルアップの速さたるや驚異的である。

この激流の中、火付け役のチャンも進歩・向上の必要に迫られた。ソチ五輪の翌季は休養したが昨季復帰し、GPファイナルや世界選手権では結果を出せなかったが、最後の四大陸選手権で見事な復活優勝。そして今季は、4回転に新たにサルコウを加えてきた。これまでは4トゥをはじめとする高いレベルでの安定感、表現力と演技構成の妙で高得点を重ねてきたが、各選手のジャンプ構成が急激にハイレベルになってきている現状では、従来のままでは勝てないと悟ったのだろう。

その4サルコウは惜しくも転倒したが、冒頭の4トゥ−3トゥはいつもながらの安定した美しいジャンプ(GOEで+3.00)。後半のジャンプは着氷の乱れや、3回転が2回転になるなどのミスがあり、FSは羽生に次ぐ2位に終わったが、SPでの貯金がモノをいって逃げ切り、昨年に続く地元カナダでの連覇を達成した。切れ味のいいスケーティング、繊細な表現力は、さすが元世界王者の貫禄である。


無良、羽生、チャンと、男子選手は次々と新しい技に挑戦している。この流れだと、いずれ「最後の未踏峰」4アクセルに挑む選手も出てくるに違いない。それはいつの日か。2022年の北京五輪か、もっと早いのか。まさか平昌五輪では早すぎるだろうが・・・。

posted by デュークNave at 03:57| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする