2016年03月14日

「ハーバードでいちばん人気の国・日本」 (佐藤智恵・著)

駅前の書店の店頭でふと目に入ったが、2016年の我が最大目標を達成するための一環として「本は持っているものを繰り返し読み、新たには極力買わない」と決めたため、一度は思いとどまった。しかしどうにも気になって、翌日その書店で購入し、すぐ読み始めた(手持ちの未読の本を消化している最中だったので、本来なら後回しにするところだが、このタイトルとチラと読んだ内容に魅かれたのだ)。読み始めるや、読書スピードが決して速いとは言えない私が、仕事を挟んで3時間ほどで読み切ってしまった。硬い内容のビジネス書なのに、その面白さにグイグイ読み進んでしまったのだ。

タイトルにある「ハーバード」とは、ハーバード大学経営大学院のこと(以下ハーバード)。これまで政界や実業界に数多のリーダーを輩出してきた、世界最高峰の教育機関である。このいわば「世界最高の知性」が集結したハーバードで、今日本が「一番人気」を誇っているという。その理由を解き明かしたのが本書である。

250ページ余りと長くはないのに読みどころ満載の本書は、それをすべて書いたら膨大な量になってしまうので、私が感銘を受けた箇所を抜粋して以下に記す。


【 序章:なぜハーバードはいま日本に学ぶのか 】

日本はとてつもない力を秘めた国です。政治システムも安定しています。経済状態が悪くなっても、暴力的な事件や、暴動が起きるわけでもありません。日本がいかに平和で安定しているかというのは、経済問題を抱える他国と比較してみればよくわかります。日本は『平和で安定した国家をつくる』という偉業に成功した国なのです
(金融史を教えるデビッド・モス教授)


ハーバードで学んでいると、日本で働いていたときよりも、『日本はすごい国なんだ』と感じます。日本の価値を再発見する毎日です」「お金で人を動かすには限界がある、というのをハーバードでは大真面目に学ぶのです。しかし、社員の自主性や責任感を育てる日本企業では、それは当たり前のこと。日本の企業文化は、じつは欧米の先を行っているのではないかと感じることもあります」(日本人留学生・杉本洋平さん)

「日本にいると欧米がすべて先進的なことをやっているかのように思いますが、じつは伝統的な日本の企業文化のほうが進んでいることもあるのではないか、と思います」(日本人留学生・向山哲史さん)


【 第1章:オペレーション−世界が絶賛した奇跡のマネジメント 】

ハーバードを席巻するテッセイ「7分間の奇跡」「新幹線お掃除劇場」

「『カイゼン』は、優れた品質の製品や新しい技術を生み出すだけではない。働く人々に仕事の意味と誇りを与える。トヨタの成功の秘訣は、従業員のマインドにある(20年以上オペレーションを教えるアナンス・ラマン教授)

オペレーションの目的は「普通の人々が力を合わせて大きな偉業を成し遂げること」


【 第2章:歴史−最古の国に金融と企業の本質を学ぶ 】

なぜ日本は明治時代、アジアで唯一、近代化に成功することができたのか。一つには、すでに江戸時代に『高度に発展した特殊な文明社会』ができあがっていたこと。欧米よりも早く都市化が進み、国民の教育水準や識字率は驚くほど高かった。もう一つには、日本の支配階級が武士だったこと。黒船来航により、彼らはアメリカ人の武器を見て脅威を感じ、その危機感が明治維新につながった。また戦闘集団である彼らは、社会制度を力ずくで変革した。これが学者や知識人が国を動かしていた中国や他のアジア諸国との大きな違いだった」(20年以上日本の経営史を研究する、ハーバードを代表する知日派、ジェフリー・ジョーンズ教授)


【 第3章:政治・経済−「東洋の奇跡」はなぜ起きたのか 】

なぜ日本は奇跡的な経済成長を遂げることができたのか。その要因を学べば、学生は、発展途上国の経済成長にさらに貢献することができます。世界には戦後の日本と同じように貧困に苦しんでいる人々がたくさんいます。数千万人もの人々が、『日本人のように経済を復興させて、豊かな生活を送りたい』と願っているのです(「ビジネス・政府・国際経済」を教えるフォレスト・ラインハート教授)

政府主導によって資本を民間企業に配分する経済システムを作ったことが最も大きな原動力になったと思います。とくに中心的な役割を果たしたのが大蔵省と通商産業省(ともに当時)です。特定の産業や企業に対して低利融資を行ったり、補助金を付与したりすることによって、産業政策を推進していきました」(同)

「皆さんが思っているほど、日本経済は“悪くない”のです。日本人はもっと楽観的になった方がいいと思います。日本人とドイツ人は内省的で、“自分に厳しい”のです。とくに日本人には「謙遜の精神」がありますから無理もありません。日本人が悲観的になる気持ちもわかりますが、悲観主義が経済成長の妨げになっていることを理解してほしいと思います(前出・ジェフリー・ジョーンズ教授)

「日本に問題がないとは言いません。問題があるのは事実です。しかし、日本の人々が思っているよりも、はるかに日本経済は強い、と私は信じています。日本の強みは、結果的に弱点を凌ぐほどの威力を発揮してくれるはずです。長期的にみれば、日本の将来は明るいと私は思います」(前出・デビッド・モス教授)


【 第4章:戦略・マーケティング−日本を代表する製造業からIT企業まで 】

「意図的戦略」:経営コンサルティング会社や経営企画室が、市場の客観的なデータをもとにトップダウンで考える戦略
「創発的戦略」:現場からボトムアップで生まれてくる戦略
⇒ 日本企業が圧倒的に得意なのは「創発的戦略」であり、戦後の日本企業の躍進は、ほぼこの「創発的戦略」、つまり現場からの発想によるところが大きい


【 第5章:リーダーシップ−日本人リーダーのすごさに世界が驚いた 】

ハーバードの必修科目で教えられている日本の事例の中で、学生に最もインパクトを与えているのが、「楽天の社内英語公用語化」の事例:英語圏の学生と英語が苦手な留学生との相互理解のきっかけになる
⇒ 最初の授業で、留学生が英語の授業がいかに苦痛かを口々に訴え、それを聞いた英語圏の学生が驚く。そしてその後はクラスの空気が変わり、英語圏の学生が留学生の話を積極的に聞こうとし、クラス全体に協調的な雰囲気が生まれる

日本人が「英語化」に過剰反応する理由:@アイデンティティ A苦手意識が強い

福島第二原発をメルトダウン(炉心溶融)から救った増田尚宏所長と現場作業員たち
⇒ 冷却機能を復旧させるためのケーブル敷設:通常なら重機を使って1か月かかる作業を、作業員たちの人海戦術で、不眠不休で2日間でやり遂げた

これを可能にしたもの:増田所長の「センスメーキング」(置かれた状況を能動的に観察し、理解する)と「センスギビング」(周りの人が状況を理解する手助けをする)


【 終章:日本人が気づかない「日本の強み」を自覚せよ 】

インフラ先進国・日本、その理由:@戦後、すべてのインフラをゼロから再建しなくてはならなかった A日本国民の意識の高さ、社会に対する責任感 B秩序と清潔を重んじる日本人(ロザベス・モス・カンター教授)

☆最も多くの教授たちが指摘したのは「人的資本」:日本の強みは日本人そのもの
@高い教育水準:読解力・数的思考力で世界第1位
A分析的な特性:客観的事実とデータを重視
B美意識、美的センス
世界では、技術と美的センスを組み合わせた製品は高く評価されます。iPhoneはその象徴として有名ですね。日本は技術と美的センスの両方をすでに備えている国です。こんな国はほかにないでしょう」(前出・デビッド・モス教授)

日本の方々は、どんな些細なことでも、何か自分なりに少し工夫を加えようとするでしょう。そこに私は“芸術的センス”を感じるのです。だから日本の製品は美しくて魅力的なのだと思います。
 お店で商品を買えば、商品も美しければ、包装の仕方も美しい。街を歩けば、鮮やかな色のほうきで掃除をしている人がいる。日本には日常的に美意識が育成される環境があります。日本人の美的センスは、日本の強みとして大いに生かせると思います
(日本文化に造詣が深いジョセフ・バダラッコ教授)

C人を大切にするマインドと改善の精神:社員を人間として大切にする企業文化
D環境意識と自然観:限られたものをどうやったら有効に使えるか
E社会意識:公益を重視する企業ビジョン


≪ 日本の課題 ≫

T.グローバル化の遅れ

原因@:変化への極度の抵抗
原因A:日本人全体の内向き志向/グローバル派が「出る杭」とみなされる
「日本が非常に快適な社会であるがために、わざわざ不快な異国に行こうとは思わない。若者は世界に挑戦する必要性を感じない。これが内向き志向を生み、成長が停滞してしまった」(前出・ジェフリー・ジョーンズ教授)

U.イノベーション創出の停滞:「快適な国」もその一因

「このままの状況が進めば、日本は『博物館のような国』になってしまいます。過去の功労者ばかりがいる国、先人が築いた過去の遺産が並んでいる国、という意味です」(ジョン・クエルチ教授)

「高齢化社会であることはイノベーションを起こすチャンス」
(前出・ロザベス・モス・カンター教授)

V.若者と女性の活用

「少子高齢化が進む中、若者と女性という巨大な労働資源が日本の中に眠っているのです。日本企業が本来の力を発揮できていないのは、時代に合わせた能力開発やリソース活用ができていないからだと思います」(前出・デビッド・モス教授)

もっと海外に出て行って、新しいことに挑戦していただきたいと思います。日本には『恥の文化』があることを知っています。素晴らしい『謙遜の精神』もあります。こうしたものを維持しつつも、『日本が世界に教えられることはたくさんある』ということを認識していただきたいのです。自分の仕事は日本だけではなく、世界の人々に役立つ、と考えてください。
 日本人は、目の前にあるものを改善することが得意です。細部にこだわる精神も素晴らしいと思います。そのマインドセットをぜひとも、世界の人々と共有してほしいと願っています」(前出・アナンス・ラマン教授)


「抜粋して」といいながら、けっこうな長さになってしまった(苦笑)。だがお読みいただいた通り、我々日本人への敬愛あふれるメッセージの数々に、ついついたくさん書き出してしまった。

かつて私は、日本と日本人が好きになれなかった。過去における朝鮮・中国をはじめとするアジア諸国への侵略戦争、その際に行った残虐行為の数々。この「負の遺産」が心に重くのしかかった。そして現代においても、欧米の洗練されたゆとりある社会・文化と比べると、何かせわしくせせこましく、狭い島に大勢の人間がゴチャゴチャひしめいている国、という感じがした。自分の母国・わが民族でありながら、日本と日本民族を誇りに思えなかったのだ。この不快感はその後社会に出て、会社の必要以上に厳格な上下関係、不合理な指示命令や組織運営にさらされたことでさらに増幅し、「日本はアホだ、何だこの国は」との思いがさらに強くなった。

それが時を経て徐々に和らぎ、最近では逆に日本と日本民族を見直し、誇りにさえ思えるようになってきた。理由は2つあって、1つには自分が一番苦しい時に国に助けてもらったこと。もう1つには、世界の他の国々と見比べれば、日本は依然として世界でトップクラスのいい国であると知ったことだ。

この国だからこそ、この平和で安定した豊かな国だからこそ、私はこうして生き永らえることができている。そして今の生活も、決してリッチとは言えないが、世界の他の国の人々と比べれば、安全で安定した心穏やかな暮らしができている。

2002年にベストセラーになった「世界がもし100人の村だったら」に、こんな一文がある。

If you have money in the bank, money in your wallet and spare change somewhere around the house, you are among the richest 8.

(銀行に預金があり、財布にお金があり、家のどこかに小銭が転がっている人は、いちばん豊かな8人のうちの1人です)

私も一応、この”richest 8”には入っている。


こんな国に生まれて暮らしていけることは、とても幸運でありがたいことなのだ。そしてこんな国を作ってくれた偉大なる先人たちに、我々今を生きる者たちは深く敬意を表し、心から感謝しなければならないのだ。

ありがとう日本、ありがとう偉大なる先人たち。私もこの国を担う一員として、何かをやろう。何かを残そう。何ができるかはわからないが。



posted by デュークNave at 04:25| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする