2015年12月30日

羽生善治と羽生結弦:「二人の羽生」の、意外かつすばらしき共通点

シーズンになるとその関連の記事を連発してここに載せるほど、私はかなりディープなフィギュアスケートファンである(その割には一度も現場で観戦できていないのが残念だが)。と同時に、私は永年の将棋ファンでもある。そのフィギュアスケートの世界で男子シングルの「絶対王者」として君臨しているのが羽生結弦。そして将棋界でかつて7つのタイトルを独占し、今もなお4冠王(名人・王位・王座・棋聖)として確固たる地位を築く第一人者が羽生善治である。

羽生(ハブ)善治と羽生(ハニュウ)結弦。読み方は違えど同じ苗字のこの2人が、ともにそれぞれの世界でトップを極めているのは偶然だけど面白いな、なんてくだらないことを考えていた私だったが、先日この2人に「意外だがすばらしい共通点」があることを知った。


スポーツ専門誌「Number」892号はフィギュアスケート特集。その記事の中心は、NHK杯とGPファイナルで異次元の世界最高得点を連発した羽生結弦である。ここに掲載された羽生関連の3つの記事は、さすがNumber、どれもすばらしい内容だったが、とりわけ目を引いたのが松岡修造氏の記事だった。

松岡氏はGPシリーズとファイナルで総合司会的な役割を務め、解説の織田信成氏とともに「情熱の司会」を続けてきたが(最近はこの「アツさ」があまり気にならなくなってきた。同じようにアツい佐野稔氏の実況解説(私は彼の解説が大好きだ!)に影響されたようだ)このNumberで連載している「熱血修造一直線」は、アツさに元アスリートらしい冷静なまなざしと分析が加味され、かなり読ませる内容になっている。

今回はこの「熱血修造一直線」の特別編として、「羽生結弦だけに見える、パーフェクトの向こう側」と題したインタビュー記事である。NHK杯でのパーフェクト演技に至る経緯について羽生結弦が語るのだが、記事の最後に非常に興味深いエピソードが語られていた。


NHK杯のSPで自分の前にボーヤン・ジン(中国)が95.64をマークした時のこと。「95点って点数を見た瞬間、『おお、ノーミスだったんだ! 彼の完全なる実力が出たんだ。よっしゃー』と思って」


「よっしゃー? やばいじゃなくって?」といぶかる松岡氏に、羽生がコメントを続ける。

昔からそうなんですけど、誰かが悪い演技をしたときに勝つのってすごい嫌なんですよ。相手が実力を全部出した上でそれでも俺が1位なんだ、っていう。そこまで追い詰めたいんだと思うんですよね。自分を」

「相手が悪い演技をした時に勝つのは嫌」これを目にした時、「あれ、これどこかで見たな」と思った。そこで思い出したのが、将棋界のスーパースター・羽生善治四冠王のエピソードである。


このブログの「書評」にしたためた「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」の記事(http://keep-alive.seesaa.net/article/273822341.html?1451430331)。2009年の第57期王座戦、羽生王座と山崎隆之七段(当時)の一戦でのこと。終盤まで息詰まる攻防が続いたが、最終盤で山崎七段が失着を指し、羽生王座の勝ちとなった。その時、羽生王座が喜びではなく怒りの表情を浮かべたのだ。

「あれ、むかつきますよ、勝ってんのに」とこぼす山崎七段。勝ったのに怒るとはどういうことか。それは、羽生さんは勝負師であるとともに「すばらしい、美しい将棋を指したい」というアーティストの側面も持った人だからだ。将棋は自分と対戦相手との共同作業で1局の将棋が出来上がるわけだが、双方が最後まですばらしい手を続けた時、羽生さんの目指す「美しい将棋」が完成する。しかしこの時は、終盤まですばらしい熱戦が続いていたのに、最後の最後で山崎七段が失着を指したため、それまで2人で築き上げてきた「美しい将棋」が壊れてしまったのだ。羽生さんの怒りは、その「美の崩壊」に対する怒りだったのだ。

谷川浩司・日本将棋連盟会長がかつて「羽生さんには、他の棋士には見えないものが見えている」と語っていたが、それはこういう境地を言っているのではないだろうか。勝ち負けを超えた、深淵かつ崇高な地に羽生さんは立っているのだ。


この「二人の羽生」は、同じ境地に立っているのではないか。「究極の美しい将棋」を目指す羽生善治、「自分がスケートをしている目的は、どれだけ自分の演技を極められるか」と語る羽生結弦。ともに己を厳しく見つめ、決して現状に満足せず、常により高みを目指す。これからもこの二人の活躍、これから残していく足跡に目が離せない。


(いつかどこかのメディアでこの「二人の羽生」の対談をやってくれないかな。かなり面白くて興味津々の内容になると思うんだけど)

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2015年12月28日

宮原知子、「安定感」の連覇:樋口新葉ら、百花繚乱のジュニア世代 〜フィギュアスケート全日本選手権:女子シングル〜

【 目移りしてしまう、若き(幼き?)才能の競演 】

昨季もそうだったが、この全日本では特に女子で目移りがして、目がクラクラして困ってしまう(苦笑)。ラス前の第3グループからジュニア世代の才能ある選手が次々と登場して、次々と才能のきらめきを見せてくれるからだ。しかしそれでも、永井優香(17歳・スケートカナダ3位)、本田真凜(14歳・全日本ジュニア3位)といった有望選手がフリーで最終グループに入れないという今の日本女子の層の厚さは、ティーネージャー軍団がますます勢いを増すロシア勢にも引けを取らないのではないだろうか。

この「若き才能のきらめき」をいちいち書いたら「真っ白な灰に燃え尽き」てしまいそうなので(笑)、コメントはフリーの最終グループに限ることにする。


【 「盤石」の宮原知子、連覇達成 】


いきなりの1番滑走になった宮原知子しかし彼女にとっては、滑走順など何の関係もなかった。今季4度目の「ため息」は今回も盤石だった。「こんなハイレベルな演技構成(特にジャンプ)を、どうしてこんなにきれいに決められるんだろう」と観る側が感銘を通り越して呆然となるほどの、揺るぎない安定感。フリー139.59、トータルは212.83のパーソナルベスト(PB)。いきなりのハイパフォーマンスで、事実上この時点で宮原の連覇は決まった。


【 またも大物ぶりを発揮した樋口新葉 】


2番滑走は樋口新葉(わかば)。初出場した昨季の全日本でいきなり3位。そのスケーティングのスピードに驚かされたのは記憶に新しいが、今季はそのスピードに気迫を加え、さらに成長した姿を見せてくれた。切れ味のいいジャンプ、レベルアップした表現力。ここに持ち前のスピードと気迫のこもった表情がマッチして、観る者にすばらしく訴える演技だった。フリー127.87、トータル195.35のPBをマーク。シニアでも十分優勝に値する高得点で堂々の2位に入り、また一段ステップアップ。昨季初めて見た時に感じた「大物感」はさらに強まった。この先どこまで「化ける」のか。


続く白岩優奈(14歳・ジュニアGPシリーズで2連勝)もすばらしかった。「ジャンプの申し子」の異名を取る彼女だが、高難度のジャンプを次々ときれいに決め、最終盤には3−2−2の予定を「攻めていこう」と3ルッツ−3トゥループ−2ループに変更して見事に成功(これにはTV解説の荒川静香さんも「あまりにもあっさりと決めましたね」と驚いていた)。トータル186.33をマークしたが、これでもPBではないというからすごい。これは「女性版ボーヤン・ジン」の出現か。末恐ろしい新星の誕生だ。


【「根性」で踏みとどまった浅田真央 】


このジュニア世代の競演に負けじと、シニアのお姉さんたちもがんばった。本郷理華は、GPファイナルに出られなかった悔しさをこの舞台にぶつけた。演技前半、3ルッツで転倒という彼女にしては珍しいミスが出たが、これ以外は着氷の安定したジャンプと、手足の長さを生かしたダイナミックな動きで演じ切った。ジャンプのミスの減点が響いて2年連続の表彰台は逃したが、昨季に続く世界選手権の切符は手にした。そのスケールの大きな演技を、世界最高峰の舞台で存分に見せてほしいものだ。


NHK杯から下降線に入っていた浅田真央SPでもその流れを止められず、ジャンプでまたもミスが出て5位と出遅れた。そしてフリーでも、6分間練習ではきれいに決めた3アクセルで転倒し、続くコンビネーションも3フリップの着氷が乱れて単独に。この時点ではどうなることかと思ったが、ここで踏みこたえてジャンプを着実に決めていき、大人の柔らかな表現力で演技を締めた。

終わった時の浅田の表情が印象的だった。目を閉じ、小さく何度かうなずく。「今自分にできる精一杯はやった」という安堵の表情に見えた。ジャンプの連続ミスでの出だしから、崩れずに踏みとどまって試合を作る。佐藤信夫コーチがかつて「根性はハンパじゃない」と語っていたが、この立ち直りはまさに「根性」としか言いようがない。3位表彰台を確保し、世界選手権への出場も決めた。今度は3か月の時間がある。じっくり取り組み、「女王復活」へ心身ともにコンディションを整えてほしい。


最終滑走になった村上佳菜子。SPでは久々に会心の演技を見せたが、このフリーでは思わぬ「落とし穴」が待っていた。冒頭の3ループ、2アクセル−3トゥはきれいに決めたが、続く3フリップで転倒してコンビネーションにできなかった。ここから演技構成を変えたのだが、途中で3フリップを跳ぶべきところを、跳ばずにパスしてしまった(確かに観ていて「あれ、今のところジャンプするんじゃなかったのか?」と思った)演技終了直後、「あちゃ、やっちゃった」という表情を見せ、頭をかきながらリンクを引き上げる村上。彼女らしいお茶目さだが、力が出し切れなかったのは残念だ。


優勝・宮原、2位・樋口、3位・浅田。以下本郷、白岩、村上。女子はフリーもかなりハイレベルな戦いだった。しかも後ろからジュニアの有望株が続々と追い上げてくる。すごい時代になったものだ。


来年3月のボストン世界選手権への出場者は、男子シングル:羽生結弦・宇野昌磨、女子シングル:宮原知子・浅田真央・本郷理華と決まった。現時点でのベストメンバーと言っていいだろうし、男女でダブル王者となってもまったく不思議ではない、世界に誇る強力布陣だ。さあ今季最後の大舞台、どんなドラマが待っているのか。

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2015年12月27日

羽生結弦、「下り坂」でも4連覇達成:「攻めた」宇野昌磨、世界選手権当確 〜フィギュアスケート全日本選手権:男子シングル〜

【 ハイレベルなSP、やや低調なフリー 】

今年の全日本選手権・男子シングルを総括すると、「ショートプログラム(SP)はなかなかのハイレベルだったが、フリーは全体的にミスが目立ち、やや低調だった」といえる。


全日本選手権は、日本人選手にとってはここにターゲットを絞り、ピークを合わせてくる最高峰の舞台である。しかし観る側にとっては(少なくとも個人的には)、これまでのGPシリーズ6戦とGPファイナルの方が「世界での戦い」であり、スケールも大きくレベルも高いので、注目度や注ぎ込むエナジーも正直こちらの方が高い。全日本も非常に魅力的な大会であることは確かだが(GPシリーズでは観ることができない選手、特にジュニア世代の有望株をたくさん観ることができるのは楽しい)あのGPファイナルの「世界一決定戦」の盛り上がりと比べると、テンションが下がるのは否めないのだ。

フリーでトップスケーターたちにミスが目立ったのも、「世界での戦い」のあとの疲労感が残っていた感がある(特に羽生結弦は)。それでも大崩れはせずにしっかりと結果を残したのはさすがだ。


【 90点以上が3人も出た、世界最高レベルのSP 】

SPでは、GPシリーズでは不調だった無良崇人が完璧な演技を見せ、90点を超えて3位に食い込んだ。今シーズンの世界選手権への日本男子の出場枠は2つしかなく、GPシリーズでの実績で羽生と宇野昌磨に後れを取っている無良にとっては、この全日本で2人の上に行かねば世界選手権への道は開けない。その気迫がこもった、彼本来のダイナミックさを存分に見せたすばらしい演技だった。


しかしその上を行ったのが宇野昌磨だった。3つのジャンプをすべてきれいに決め、磨き上げてきた表現力もさらにアップ。またもPBを更新し、初の90点台(97.94)。シニアデビューの今季にいきなりGPファイナル進出を果たし、3位表彰台をゲット。その急成長の勢いそのままに、この全日本でも大きくなった姿を日本のファンにアピールした。


SP首位はやはりこの人・羽生結弦(102.63)。しかし冒頭の4サルコウで転倒するなど、世界最高得点を連発した過去2試合と比べると調子に陰りが見えた。しかしそれでも100点を超えたのは、冷静に考えるとすごいことだ。過去2試合で自らの記録を破るまでは、ソチ五輪でマークした101.45が世界最高得点だったのだ。当時は完璧な演技での世界初の100点超えだったのだが、今回は4サルコウで転倒していながら(転倒の−1、4ジャンプ転倒のGOE−4を喫しながら)100点を超えたのである。当時と比べ、技術レベルが上がり、演技構成点がさらに高い評価を得ているからこその高得点なのだ。


【 不調でも大崩れしないのが世界のトップスケーター 】


しかしフリーでは、このトップスリーがともに最高とは言えない出来に終わった。無良崇人は前半で得意の3アクセルがシングルに抜け、その直後に構成を変えて再度3アクセルを決めた。このとっさの修正が功を奏して技術点を落とさず、及第点の出来で演技を終えた。上位2人の牙城を崩すことはできなかったが、全日本で表彰台に上がったことで、フラストレーションが残ったであろうGPシリーズのうっぷんはかなり晴らすことができたのではないだろうか。


宇野昌磨は「世界連戦」の疲れが最後に来たのか、冒頭の4トゥループが2回転になり、最終盤の3連続ジャンプも最初のジャンプが2回転に抜けて単独に。このジャンプのミスで技術点が伸びなかった。SPでの無良との得点差は5点弱だったので、「これは逆転されたか?」と思ったが、1点ほど後れを取っただけで総合2位を守った。得点を見ると、技術点では無良を6点ほど下回っているが、演技構成点で無良を5点以上上回っている。意識して磨き上げてきた表現力がここでもモノを言い、昨年に続く全日本2位の座を保った。

演技後のインタビューで「ジャンプにミスは出たが、最後まで攻める気持ちは失わなかった」と語った宇野。ミスをした割には演技終了直後の表情が晴れ晴れとしていたのが不思議だったのだが、このコメントで納得した。この強い気持ちを保ったまま、恐らく「当確」となった来春の世界選手権に挑んでほしい。


羽生結弦は結果的には圧勝だったが、彼も「世界連戦の疲れ」が後半に出たようだ(TV解説の本田武史さんは「ブライアン・オーサーコーチが『調子の波が落ちかけているところだ』と語っていた」と明かした)。後半の4トゥループで転倒してコンビネーションにできなかったため、前半の4トゥのリピート扱いになり、基礎点が70%に減点された。さらに続く3アクセルでもまさかの転倒。「羽生が3アクセルで転倒するなど何年ぶりだろう」というレアなミスだった。

それでも技術レベルの高さと、究極と言っていい表現力はこのミスをカバーするに余りあり、貫録の全日本4連覇を決めた。本人は全く納得できないだろうが、下り坂にあってもそれなりにまとめて地力で勝つことができるのが、「絶対王者」たる彼の強みだ。


この結果、優勝した羽生結弦は文句なしに世界選手権の切符を得た。残る1つは、2位に入り、GPシリーズ〜GPファイナルと着実に結果を残している宇野昌磨が「当確」だろう。この日本の誇る「トップ2」で、昨季2枠に減らした出場枠を再び3枠に増やしてほしい(いやそれどころか、この2人での1−2フィニッシュも十分可能だと思う)

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2015年12月15日

羽生結弦、「自分超え」:宇野昌磨、日本男子初のルーキー表彰台:宮原知子、”step by step”で銀 〜フィギュアスケートGPファイナル:男女シングル・フリー〜

【 自らに課したハードルを越えた羽生結弦 】

NHK杯で羽生結弦が世界最高得点をマークした時、ブライアン・オーサーコーチは言った。

「この記録はしばらく破られないだろう。破られるとしたら、それは彼自身によってだ」

しかしわずか2週間後に、これが実現してしまうとは思わなかった。


演技内容に細かく言及するのはやめよう(NHK杯もGPファイナルも「ほぼ完璧」だったのだから)。どういう点が前回より上だったのか、この2つの演技のスコアを見比べてみたい。

NHK杯/SP 技術点:基礎点48.05+GOE11.39=59.44 演技構成点46.89  計106.33
    FS 技術点:基礎点95.79+GOE23.08=118.87 演技構成点97.20  計216.07


GPF/SP 技術点:基礎点47.45+GOE14.36=61.81 演技構成点49.14  計110.95
  FS 技術点:基礎点95.19+GOE25.73=120.92 演技構成点98.56  計219.48


SP・FSとも技術点の基礎点がNHK杯よりGPファイナルが0.60点下回っているが、これはステップシークエンスがNHK杯ではともにレベル4判定(3.90点)だったのが、GPファイナルではともにレベル3判定(3.30点)になっているためだ。

しかし、こんな細かなマイナスを凌駕したのが、GOEと演技構成点だ。SP・FSともNHK杯を上回った。あの「究極の演技」と思われたNHK杯のさらに上を行く。至高のハードルをどんどんクリアしていく羽生結弦、いったい彼はどこまで昇っていくのだろうか。

最後に個人的に、「あれはよかった」と思った点について語らせていただきたい。NHK杯のフリー、最後の両腕を左右に開いての決めポーズ。あの時の羽生は笑顔だった。「まさかこんな演技ができるとは」という喜びが抑え切れなかったのだろう。しかし、私はあの表情には不満だった。このプログラムは陰陽師・安倍晴明を演じているのだから、最後のポーズもキリッと締まった「晴明顔」で決めなければならない。「常に自分をコントロールできる彼にしては、ちょっと最後で緩んでしまったな」と思ったのだ。

しかし今回のGPファイナルでは、最後の決めポーズも「晴明顔」で締めていた。私はこれを見て「よし、それだ!」と拍手を送った。これは本人が修正したというよりも、NHK杯では「まさかこんな演技が・・・」だったのが、今回はあれをハードルに置いていたので、最後まで緊張が途切れなかったということだろう。とにかく再び「究極の演技」を見せてくれた彼に、今はただ「ありがとう!」、そして「GPファイナル史上初の3連覇、おめでとう!」の言葉を贈るのみだ。


【 さすがトップ6、「名作」の競演 】

羽生の演技がすばらしすぎて、本来ならここで書くエナジーが途切れるところだが(笑)、他の選手もすばらしい演技を見せてくれたので書かずにはいられない。2位のハビエル・フェルナンデスは、フリーでは持ち味を存分に見せた。ダイナミックなジャンプ、繊細かつコミカルな振付。エンターテイメントな演技をやらせたら、この人とジェイソン・ブラウン(アメリカ)が双璧だろう。魅せてくれた。


「書かずにはいられない他の選手の演技」のNO.1は、宇野昌磨だ。見事に「ジャパンオープンの再現」を果たしてくれた。演技内容もさることながら、演技終盤に向かって観客の声援がどんどん盛り上がっていき、最終盤でのあの大歓声(たぶん演技が終わる前に立ち上がった人もいるのではないだろうか)。まさに「ジャパンオープンの再現」だった。

橋大輔にあこがれ、「魅せる」スケーターになりたいという宇野。それはすでに着実に身に付き、観る者にしっかりとアピールできていると思う。17歳、日本男子初の「シニアデビュー年でのGPファイナル表彰台」。精悍さが出てきた表情、雰囲気とともに、どこまで大きくなってくれるのか。じっくり見守りたい。


SPでは「ルールの罠」にはまってしまったパトリック・チャン。しかしフリーでは「世界選手権3連覇」の力を見せてくれた。伸びやかなスケーティング、キレのいいジャンプとステップ。この人本来の「切れ味のよさ」が戻ってきた。フリーでは宇野を上回って3位、特に演技構成点96.08はすばらしい(10.00のフルマークを付けたジャッジも何人かいる)。来る世界選手権では、SP・フリーとそろえた真の姿を見たいものだ。


「驚異の4回転ジャンパー」ボーヤン・ジンは、最後まで大舞台の緊張感が払拭できなかったようだ。フリーでも得意のジャンプでミスが出て、GPシリーズのような演技ができなかった。しかしシニアデビューの年に、ハイレベルな4ジャンプを連発して世界を驚かせ、ファイナル進出。これだけでも十分な成果だ。この経験を糧に、大舞台でもビビらない精神力を身につければ、羽生らトップスケーターをも脅かす存在になれるだろう。


村上大介は結局6位。トップ6の中でさすがに気後れしたのか、フリーでは本来の伸びやかな演技が見られなかった。しかしかつてケガなどで引退を考えるまで苦しんだことを思えば、GPシリーズ連続表彰台とファイナル出場は、本人にとっては夢のような高い位置に戻ってきたといえるだろう。暮れの全日本では、昨シーズンのNHK杯優勝で見せたような爆発力を見せてほしい。


【 ロシアティーネージャーに割って入った宮原知子 】

ロシア2人・日本2人・アメリカ2人で鎬を削ることになった女子シングル。このフリーでは、それぞれの国の2選手が、やや明暗を分けた。


SPでミスが出て6位発進になったアシュリー・ワグナーだが、フリーでは持ち味のダイナミックさを存分に発揮した。ジャンプにわずかなミスは出たものの、躍動感あふれる演技でフリーでは3位。魅せてくれた。一方グレイシー・ゴールドは、ジャンプで回転不足や抜けが出て流れに乗れず、総合5位に終わった。これは過去3年連続表彰台のワグナーと初出場のゴールドの経験の差か。


エレーナ・ラジオノワは後半の3ループで転倒したが、その他は大きなミスなくまとめて3位に入り、2年連続で表彰台を確保した。身長が8cm伸びて体のバランスが変わり、中国杯ではミスに苦しんだ。しかしロシア杯でこれを克服し、ファイナルでもメダルを獲得。不安定ながらも、大きくは崩れずに上位をキープする地力はさすがだ。


SP1位のエフゲニア・メドベデワは、そのプレッシャーをものともせずにフリーでものびのび滑り、シニアデビュー年にいきなりのファイナル優勝を果たした。シリーズ開幕戦のスケートアメリカで初めて見て以来、とてもシニアデビューとは思えない落ち着きのある演技に驚かされてきたが、その落ち着きはこの大舞台でもまったく揺らぐことがなかった。「凄い!」としか言いようがない。


そして、日本勢。SP4位の宮原知子は、PBをマークしたNHK杯をさらに上回る完璧な演技で、初出場で見事に銀メダルを手にした。NHK杯ではやや乱れた冒頭の3ルッツ・2トゥ・2ループのコンビネーションをきれいに決めて波に乗り、すべてのジャンプを滑らかに降りる(特に後半の2アクセル・3トゥ2本を完璧に決めたのがすばらしかった)。ステップとスピンはすべてレベル4、文句のつけようのない演技でまたもPBを更新。この人も着実にステップを昇ってきている。


最後に、浅田真央。演技については詳しく言及すまい。今シーズンのこれまでを振り返ると、初戦の中国杯はすばらしかった。続くNHK杯ではやや乱れが出たが3位確保。そしてこのファイナルでは、SP・フリーとも不本意な出来に終わった。

原因は精神面か。それもあるだろうが、私はバイオリズムが低下しているんじゃないかと思っている。調子の波ともいえるのかもしれないが、とにかく全体的に下降線に入っている気がするのだ。しかしこの波はいずれ上昇してくるものなので、2週間後の全日本までに上向きになれば、と願っている。


今年もさまざまなドラマを見せてくれたGPファイナル。しかしフィギュアシーズンはこれからがクライマックスだ。暮れの全日本、そして世界選手権。またどんなドラマが待ち受けているのか、そしてどんな「名作」を見せてくれるのか。楽しみに待とう。


posted by デュークNave at 06:27| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月12日

羽生結弦、君はどこまで飛んでゆく 〜フィギュアスケートGPファイナル:男子シングル・ショートプログラム〜

グランプリファイナルのショートプログラム(SP)は男女まとめて書くつもりだったが、こんなすごいものを見てしまったからには書かずにいられない。羽生結弦が、2週間前のNHK杯でマークした驚異の世界最高得点を、さらに更新してしまったのだ。

実は私はこのことを、不覚にも観る前に新聞の夕刊で知ってしまった(一面にカラー写真つきで載っていたため、目に入ってしまったのだ)。ただ得点とかまで詳しく知ってしまうとつまらないので、記事は読まずにおいた。

「あの演技のさらに上を行ったということは、冒頭の4サルコウを完璧に決めたということか」こういう予想はついていた(NHK杯では、着氷がやや苦しくなってGOEが+1.00にとどまっていた)。しかし2週間前の「106.33」を過去に追いやったのは、これだけではなかった。

冒頭の4サルコウ、続く4トゥ−3トゥがともにGOE+3.00のフルマーク! NHK杯のフリー、後半の3アクセル−2トゥでGOE+3.00をマークしたのを私は「ジャンプのGOEの満点は初めて見た」と書いたが、それをダブルで再現してしまったのだ。後半の3アクセルも+2.71、3つのスピンも当然のようにすべてレベル4、GOEも1点以上の加点を得る。ダイナミックなステップで会場を盛り上げ、フィニッシュ。

得点は、なんと110.95。技術点は初めて60点を超え、61.81。GOEで14点以上もの加点を得ている。さらに驚異的なのは演技構成点で、計49.14。ジャッジ全員がすべての要素で9点以上をつけ、「動作/身のこなし」は10.00のフルマーク。他もすべて9点台後半である。私はNHK杯の羽生のSPを「ほぼ極限と言っていいような得点」と書いたが、その極限をさらに超えてきたのだ。

私はNHK杯の羽生のSPとフリーを観て「ZONEに入っていたな」と感じ、「あれはもう一度見たいと思ってもなかなか見れないだろうな」と思っていたのだが、それを次のチャンスであっけなく、しかもさらに上を行って実現してしまった。華奢な体に強靭な精神力を秘めたこの青年、いったいどこまで高く飛んでいくのだろうか。

ただ本人がコメントしていたように、NHK杯ではレベル4だったステップが、今回はレベル3にとどまったのがわずかながらの難点だ(素人目には、ステップのレベル3と4の違いなどさっぱりわからんが)。しかしということは、まだ伸びしろが残っているということになる。・・・空恐ろしい。


2位はハビエル・フェルナンデス。GPシリーズで唯一連勝したが、ともにジャンプの出来が今一つだった。それをこのSPでも修正しきれず、冒頭の4サルコウで軸が傾いて着氷が乱れ、続くコンビネーションもセカンドジャンプが2回転になってしまった。しかし「マラゲーニャ」のリズムに乗った振り付けはすばらしく、ステップでは羽生をも上回るレベル4、+2.10のGOEを得た。地元バルセロナでのグランプリ初優勝を期すフェルナンデス、フリーで得意の4ジャンプをきれいに決めることができるかがカギになりそうだ。


3位に入ったのは「驚異の4ジャンパー」ボーヤン・ジン(金博洋)。しかしこの初の大舞台にさすがのスーパールーキーも緊張したのか、GPシリーズでは目にも鮮やかに決めていた冒頭の4ルッツで手をつき、続く3トゥが回転不足になってしまった。後半の4トゥも着氷がやや乱れ、GOEでは減点。これが頂上決戦の重圧なのか。しかし基礎点の高さで上位は占めた。フリーでは本来のキレのいいジャンプが見たい。


4位は宇野昌磨演技後半の4トゥで転倒+回転不足となり、このGOE-4.00、転倒の減点1.00と基礎点のダウンが響き、僅差でジュニア時代からのライバル、ボーヤン・ジンの後塵を拝した(本人は試合後「思い切りが足りなかった」と反省した)。しかし他のジャンプやステップ、スピンはすばらしい出来で(特にステップのレベル4、GOE+1.70は羽生をも上回っている)トータルの印象はボーヤン・ジンよりも上だった(ジャンプで大きく減点されながらも86.47の高得点。演技構成のベースがいかに高いかを示している)

次のフリーでは、ジャパンオープンで満場のスタンディングオベーションを浴びたあの演技をこのファイナルの大舞台で再現できれば、表彰台は十分射程圏内だ(というか、この大舞台であの見事な演技を世界中に見せつけて、「宇野昌磨」の名を全世界に知らしめてほしい)


村上大介は5位だったが、得点はパーソナルベストを更新した。後半の3ルッツ−3ループの予定が、ルッツがエッジ不鮮明判定で、セカンドジャンプが2トゥになってしまった。しかしミスはこれだけで、初のファイナルでのびのびとした演技を見せてくれた。フリーでも、持ち味の情感あふれる「訴える」演技を見せてほしい。


かつての世界選手権3連覇、パトリック・チャンはまさかの最下位に沈んだ。冒頭の4トゥが3回転になり、それを取り戻そうと跳んだ後半のコンビネーション(3ルッツ−3トゥ)が、「SPでは同じ3回転ジャンプを2度跳んではいけない」というルールに抵触し、このコンビネーションが得点ゼロになってしまったのだ。セカンドジャンプが2回転だったら得点できていたという、ルールの皮肉。これが10点以上のロスとなり、このハイレベルの戦いにあっては致命的なミスになってしまった。フリーでは本来のキレのいいジャンプ、伸びやかなスケーティングを取り戻せるか。


羽生結弦があまりにもすさまじい得点を出したため(2位以下とは20点近い点差)、フリーでよほどの大崩れをしない限り、羽生の史上初のGPファイナル3連覇が濃厚になった。2位フェルナンデスから5位村上までは約8点と大差なく、この4人による表彰台争いは熾烈になるだろう。さて、どんな結末が待っているのだろうか。


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2015年12月03日

「オリンピック出場決定」の瞬間を初めて現場で見た! 〜ライブ観戦の楽しさ・その4〜

先の日曜日(11月29日)、女子7人制ラグビー(セブンス)のアジア予選を観に、秩父宮ラグビー場に行ってきた。15人制のラグビーは何度も秩父宮で観たことがあるが(今年も2度行った)、7人制は見たことがなかったし(テレビで観たのも、男子セブンスが来年のリオデジャネイロ五輪への出場権を決めた香港戦が初めてだった)、何より「オリンピック出場決定の瞬間を現場で目撃したい」と思い、仕事に挟まれて疲労困憊の体にムチ打って出かけて行った。


【 予選トップ通過でリオ五輪出場権獲得 】

リオ五輪への出場権を懸けたこの大会、日本代表(通称「桜セブンス」)は第1ラウンドである香港大会で優勝しており、この第2ラウンド・日本大会でも優勝すれば、リオ五輪への出場が決まる。前日の試合で3戦全勝しており(特に香港大会で敗れた中国に20−7で快勝したのが大きかった)、この日の残り2試合で連勝すれば文句なしに出場権獲得という状況だった。


【 球場前の長蛇の列:ラグビー人気の高まりがここにも 】

チケットは事前に入手していたものの(セブンイレブンの多機能コピー機で簡単に買える)、自由席だったし(前売りで2,000円。当日だと2,500円になる)、五輪出場がかかる試合なのでかなりの客足になるだろうと思い、試合開始(10:00)の30分前に秩父宮に着いた。案の定、当日券売り場には長蛇の列ができており、チケットを持って開場を待つ客の並ぶ列も、「ここが最後尾です」という看板を持った係員がいるほどの長さになっている。「ああ、やっぱりチケット買っておいてよかったな。少し早めに来たのも正解だった」と胸をなでおろした。それにしてもこの客足、五輪出場がかかっていることもあるだろうが、15人制男子のW杯での大活躍の好影響が、ここにも及んでいるようだ。また先に男子が五輪出場を決め、その試合が地上波で放送されたことで、女子の試合への関心も一気に高まったのだろう。球場前のこの賑わいを見て、とてもうれしくなった。


【 ボールがよく動いてエキサイティングなセブンス:五輪を機に人気スポーツになるか? 】

この日は日本の3試合を含め、9試合が行われた。セブンスは試合時間が7分ハーフ・ハーフタイム2分・計16分(決勝は10分ハーフ・計22分)と短いため、1日でたくさん試合を行うことができるのだ。これも観る者にとっては大きな楽しみだ。

セブンスはFW3人(左右プロップとフッカー)・BK4人(スクラムハーフ・フライハーフ(15人制のスタンドオフに相当)・センター・ウインガー/フルバック)で構成され、フィールドは15人制と同じ広さのピッチを使う。スクラムはFW3人で組み、球出しも早い。15人制よりも密集戦が少なく、パスとランプレーが多くなるため(ボールを持った選手が何10メートルも独走するシーンも多く見られる)、選手にはフィジカルの強さよりもスピードとスタミナが求められる。1人1人の運動量が15人制に比べて格段に多いため、試合時間も短くなっているのだ。プレーする方はかなりのタフネスさを求められるが、観る側にとっては、ボールの動きがわかりにくい密集戦が少なく、スピーディーでピッチを広く使ったパスとランプレーが多いため、かなりスリリングで面白い。ラグビーにさほど詳しくない人でも十分に楽しめるので、五輪の正式種目に採用されたのを機に、これから日本でも人気が高まるのではないだろうか。


【 「ラグビー愛」を共有する心地よい雰囲気 】

さて、試合である。桜セブンスは第1試合でスリランカに49−0で圧勝し、リオ五輪まであと1勝にこぎつけた。このあと中国−香港、カザフスタン−グアム戦が行われ、2試合目のインターバルの間には日本のジュニアチームの試合が行われた。秩父宮のラグビーファンはかなりディープなファンが多く(年齢層も比較的高い)、日本代表と関係のない試合でも、ちゃんと観てちゃんと応援する。つまり「ラグビーが好きで、ラグビーが観たくて」来ている「アツい」ファンが多いのだ(私もその一人)。この「ラグビー愛」を共有した心地よい雰囲気の中、2試合目が始まった。


【 「勝てば五輪決定」だったが・・・ 】

予選プールの最終戦は、日本大会でともに4戦全勝の日本−カザフスタン。日本はカザフには香港大会で2連勝しており(7−5、22−0)、この試合で引分け以上で五輪出場が決まる。しかし大一番で硬くなったのか、前半終了間際に先制トライを挙げたものの、後半にトライ・ゴールで逆転され、そのまま敗戦。五輪出場決定は決勝戦でのカザフとの再戦に持ち越しになった。

決勝戦までは2時間以上の間があり、ここで出場が決まっていたら、もしかしたら帰宅していたかもしれない(この日は遅い時間からの仕事が控えていたし)。しかしこんな状況で帰るわけにはいかないので、日が傾いて肌寒くなってきた秩父宮で、じっと決戦の時を待った。

この間、さまざまな年代の女の子たちによるチアリーディングショーが行われた(アメフトのハーフタイムショーのようなものか。あれほど派手ではないけれど)。私の前方の席におそろいのパーカーを着たママさんと思しき人たちが座っていて、「あれは何だ?」と思っていたのだが、チアリーディンググループの名前を記したパーカーだったのだ。「なるほど、娘の晴れ舞台を見に来ているわけか」と納得した。彼女らはそれぞれデジカメを構え、我が娘を熱心に撮影している。オトコ比率の高い秩父宮だが、こういうイベントで女性客が増えるならそれもよしだろうし、ショータイムとしてもけっこう楽しめる。激しい戦いの場でのいいクッションだなと思った。


【 いざ、決戦! 熱狂的声援の果てに・・・ 】

さて、試合再開。5位決定戦・グアム−スリランカ戦、3位決定戦・中国−香港戦を経て、ついに決勝戦。場内の盛り上がりは最高潮だ。我がバックスタンド側は7〜8割が埋まり、熱気が渦巻いている。試合前の国歌斉唱、最初は君が代を黙って聞いていたが、周りのかなりの人たちが歌うのにつられて途中から声が出た。こういう現場ならではの臨場感はやはりいいものだ。

試合は日本が早いボール回しで主導権を握り、3分にトライ・ゴールで先制。しかし終了間際、相手ゴールライン寸前まで攻め込みながら決め切れず、前半は7−0で終了。ややフラストレーションが残る終わり方で、余韻がよくなかった。

すると案の定、後半開始直後にラインブレイクを許し、トライ・ゴールで同点にされる。いやなムードが漂ったが、桜セブンスは冷静だった。この後ブレイクダウンでカザフが反則を繰り返し、日本がいいリズムで敵陣に攻め込む。そして後半7分、敵陣22mライン付近のPKからすばやく攻め、パスを受けた小出が外を向くと見せかけて内に切れ込み、ポスト下に勝ち越しトライ(ゴール)を決めた。

この時の場内の熱狂はすごかった。密集になるとカザフが反則し、日本が着実に敵陣に押し込んでいく。そうしてじわじわとムードが高まっていたところに、鮮やかなラインブレイクからの中央へのトライ。スタンドは全員総立ち、大歓声と興奮の坩堝と化した。私も久しく味わっていなかった激情を、周囲の「濃い人たち」とともに堪能させてもらった。

試合は日本7点リードのまま、歓喜のエンディングへと向かう。残り10秒、場内でカウントダウンが始まる。そしてノーサイド。日本が苦闘の末、リオ五輪への出場権を獲得した。スタンドはまたも総立ち、満場のスタンディングオベーションで桜セブンスを称えた。

試合後、カザフスタンの選手たちがバックスタンドの前へ大きく手を振りながらやってきた。それを日本の選手たちと同様、総立ちの拍手で迎える観客たち。これぞノーサイド精神、すばらしい戦いを見せてくれた彼女らへの心からの称賛、「敵ながらあっぱれ!」なのだ。これは感動的な光景だった。「だから俺はラグビーファン好きなんだよな」と改めて思った。


【 知らなくてよかった「朗報」:おかげで味わえた大感激 】

翌日の新聞で、この決勝戦は、たとえ負けても22点差未満ならトップ通過で出場権獲得だったことを知った。私はこれを目にした時、「知らなくてよかった・・・!」と胸をなでおろした。もしこれを決勝戦の前に知っていたら、応援はかなり気が抜けたものになっていただろう。「勝たなきゃ五輪に行けない」そう思い込んでいたからこその必死の応援であり、それゆえ味わえた大きな感激だったのだ。朗報は早く知った方がいいのが世間の常識だが、知らない方がいい朗報もあることを、人生で初めて知った。


やっぱりライブ観戦はいい。特に秩父宮は、ラグビー観戦にこれほどすばらしい場所はない。次は大学選手権か、また観に来よう(トップリーグは日曜日にやってくれないから観れないんだよな〜)。

posted by デュークNave at 07:47| Comment(0) | スポーツ-ラグビー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月01日

羽生結弦、異次元の演技で300点超え/宮原知子、ハイレベルな安定感でシリーズ初優勝 〜フィギュアスケートGPシリーズ最終戦・NHK杯:男女シングルフリー〜

【 男子シングル 】

ショートプログラム 106.33
フリー 216.07
総合得点 322.40

恐らく当分の間は「世界最高得点」として刻まれるであろう、今大会での羽生結弦の得点である。SPで自己の持つ世界最高得点を更新したその翌日、フリーでも史上初の200点超え。総合得点も初めて300点を超え、しかも322点という圧倒的な高みに到達した。

そのフリー。冒頭の4サルコウのきれいな着氷にまず驚いた(GOEは+2.86)。昨シーズンからランディングにやや乱れがあった4サルコウをスムーズに決めたことで、「これはすごい演技になるんじゃないか」という予感を抱いた。続く4トゥループもすばらしく美しく決める(GOEは+2.57)。コンビネーションスピンとステップも流麗にこなし(ともにレベル4)、後半に入る。

4トゥ−3トゥ、3アクセル−2トゥ、3アクセル−1ループ−3サルコウという、後半に入れるには非常にタフなコンビネーションも流れよく決める(3アクセル−2トゥのGOEは、何と+3.00! ジャンプのGOEの満点は初めて見た)。3ループのあとの最後のジャンプ、羽生の「鬼門」3ルッツもきれいに降りる。すべてのジャンプをミスなく決めた時点で、「これはいったい、どんな得点が出るんだろう」と観ている方も興奮してきた。2つのスピンとコレオシークエンスも流れよくこなし、満場の手拍子の中フィニッシュ。場内は大歓声、羽生も大きくガッツポーズ。そして叩き出した世界最高得点。

一言で言って「スゴすぎる」。SPもそうだったが、もともとの演技構成が非常にタフでハイレベルであり、そこにこの完璧な出来とくれば、至高のハイスコアが出るのは当然だ。スコアを見ると、技術点の基礎点が95.79、GOEを加算した合計が118.87。すべての要素で加点を得、GOEで23点以上もの加点を得ている。さらに演技構成点(計97.20)では、5項目すべてが9点台で、「動作/身のこなし」「振付/構成」「曲の解釈」で10点のフルマークをつけたジャッジが複数いる。つまり技術・演技構成とも、ほぼ極限と言っていいような得点を得ているのだ。

まさに異次元の高得点を叩き出した羽生。しかし本人がコメントしているように、「次からはこの数字がかなりのプレッシャーとしてかかってくる」来るGPファイナルで史上初の3連覇なるかは、この緊張感をいかに克服できるかがカギになる。


羽生の演技がスゴすぎて、他の選手についてコメントする気力がほとんどない(苦笑)。2位に入った金博洋(中国)はまたもパーソナルベストを更新、シニアデビューの年に堂々のファイナル進出を決めた。伸び盛りの17歳、ファイナルの大舞台でもスーパージャンプでまたひと暴れするか。SP3位の無良崇人はフリーではジャンプにミスが出たものの、SPでの貯金がものを言って3位表彰台をゲット。これで自信を取り戻しただろうから、暮れの全日本選手権までどう仕上げてくるか注目したい。


【 女子シングル 】

羽生の300点超えの余韻が冷めやらぬままに始まった女子のフリー。宮原知子が持ち前の安定感を発揮してGPシリーズ初優勝を遂げるか、浅田真央、アシュリー・ワグナーら歴戦の強豪が巻き返すかが注目された。

SPでまさかの最下位に沈んだアンナ・ポゴリラヤ(ロシア)。しかしこのフリーではそれを払拭し、本来の実力に近い演技を見せてくれた。ジャンプに若干のミスが出たが、伸びやかなスケーティング、艶のある柔らかな表現力と、彼女のカラーはかなり出せていた。残念ながらファイナル進出は逃したが、さらに立て直して、ロシア選手権では持ち前の「氷上で映える演技」を見せてほしい。

GPシリーズ初出場の木原万梨子・18歳。彼女の演技を観るのは初めてだったが、しっとりとした表現力を見せてくれた。ジャンプで転倒や着氷の乱れなどが出たが、最後までスピードが落ちず、のびのびとした演技を披露。PBを更新し、笑顔で初のGPシリーズを終えた。暮れの全日本も楽しみだ。

李子君(中国)と長洲未来(アメリカ)は本来の演技が戻ってきた。李子君の華やかさ・艶やかさ、長洲未来のキレのあるジャンプと柔軟性。ともに持ち味を見せてくれた。アシュリー・ワグナー(アメリカ)は持ち前のダイナミックさと繊細な表現力を見せてくれたが、ジャンプで小さなミスがいくつか出たのが災いして表彰台を逃した。しかしファイナルへの切符は手にしたので、来る大舞台では、「肉感的スケーター」の面目躍如の、躍動感のある作品を見せてほしい。


浅田真央は、SPでの失敗を払拭できなかったのか、フリーでもジャンプの出来が今一つだった。現役復帰して初めて迎える母国での試合、やや気負いがあったのか。演技後の表情も曇ったままだった。しかしもともと技術レベルが高く、演技構成点でも安定した高得点を取れるので、失敗があっても得点のアベレージは高い。表彰台はしっかり確保し、ファイナルへの進出を決めた。この2週間で今回のミスをどう修正してくるか、楽しみに待とう。


SPでPBを大幅に更新して2位につけたコートニー・ヒックス(アメリカ)。GPシリーズ初の表彰台がかかったフリーではかなりプレッシャーがかかったと思うが、それを跳ね返す堂々たる演技を見せた。転倒はあったもののダイナミックなジャンプ、スピードに乗ったステップと、演技全体に躍動感がある(ワグナーに次ぐ「肉感的スケーター」と言ってもいいかもしれない)。フリーでも3位を確保し、浅田を上回って2位に入った。TV解説で荒川静香さんが指摘していたように、ジャンプの軸がずれることがあるのが難点だが、これを克服できれば、グレイシー・ゴールド、ワグナーを脅かす選手にもなれるだろう。


優勝は宮原知子SPで見せた「高度な安定感」を、このフリーでも遺憾なく発揮した。ジャンプでわずかなミスがあったが、ランディングの美しいジャンプ、ポジションのきれいなスピン、きめ細かなステップに加え、磨き上げて大きくなった表現力。総合力の高さで他を圧倒した。フリーでもPBを更新し、総合得点では自身初の200点超え(これはシーズン当初から彼女が目標の一つにしていた)。圧巻の演技でGPシリーズ初優勝を飾り、もう一つの目標であるファイナル進出も決めた。

荒川静香さんが「頑張ったらここまでなれるということを、たくさんのスケーターたちに伝えるような演技でした」とコメントしていた。14歳でシニアデビューしてからずっと見てきたが、年々、1試合ごとに着実に成長し、大きくなっているのがよくわかる。「練習の虫」と呼ばれる彼女、フィギュアに対する真摯な思いで練習に打ち込み、1つ1つの経験を着実に自分の糧にしているのだろう。こういう選手は自然と応援したくなる。大舞台でもこの「高度な安定感」で、歴戦の強豪たちを打ち破ることができるか。大注目である。


これでGPファイナル(バルセロナ)への出場選手が決まった。

男子:ハビエル・フェルナンデス、羽生結弦、宇野昌磨、パトリック・チャン、金博洋、村上大介

女子:グレイシー・ゴールド、エフゲニア・メドベデワ、宮原知子、浅田真央、エレーナ・ラジオノワ、アシュリー・ワグナー

この顔ぶれの中で、連続出場するのは男子ではフェルナンデスと羽生、女子ではラジオノワとワグナーしかいない(ゴールドは前回は負傷で欠場)。チャン・浅田の「復活王者」、宇野・金・メドベデワの「スーパールーキー」、そして村上・ゴールド・宮原の「初出場だが実力派」震えがくるような豪華で魅力的なメンバーになった。

来週末の頂上決戦が待ち遠しい。毎年こういう大きな楽しみがあるから、フィギュア観戦はやめられない。バルセロナでの至高のドラマを、今は静かに待とう。

posted by デュークNave at 06:49| Comment(0) | スポーツ-フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする