先発投手は、ブルージェイズは通算221勝、サイ・ヤング賞3度受賞のM・シャーザー。対するドジャースは、初の二刀流でのWS制覇に挑む、MVP3度受賞の大谷翔平。まさに震えが来るようなすごい顔合わせだ。
大谷は第4戦以来、中3日での登板となる。レギュラーシーズンならありえないローテーションだが、第6戦で最終戦で先発予定だったはずのグラスノーが9回にリリーフ登板した時、大谷の第7戦での先発も大いにありうると思った(ルール上、リリーフでは指名打者はできない)。これが短期決戦の最終戦のスペシャルローテだ。
【 投手・大谷は痛恨の一発を浴びたが 】
立ち上がりは両投手とも先頭打者(大谷・スプリンガー)にヒットを許すが、後続を抑える。2回、大谷は2死満塁のピンチを招くが、159キロのフォーシームで空振り三振に討ち取る。
しかし3回裏、痛恨の一撃を浴びる。1死1・3塁から4番ビシェットに初球の甘く入ったスライダーを捕らえられ、先制の3ラン。マウンド上で両手で膝をつき、うなだれる大谷。ここで無念の降板となった。
一発での3失点はあまりに痛い。正直「これは今日はやられたかな…」と観念しかかった。
【 1点ずつしぶとく返す、粘りのドジャース打線 】
だが、この日のドジャース打線はしぶとい。4回表、1死満塁からT・ヘルナンデスのセンターへの犠牲フライで1点を返す。さらに6回表、3番手バシットを攻め、1死1・3塁でエドマンのセンターへの犠牲フライで1点差に詰め寄る。やや浅いフライだったが、3走の俊足ベッツがホームを陥れた。ともに3走を犠牲フライで返す、粘り強い打撃が光った。
【 終盤、「奇跡の一発攻勢」で同点に 】
しかし6回裏、4回から登板していたグラスノーが、無死2塁からヒメネスに右中間を破るタイムリー2塁打を喫する。後続は抑えたものの、この突き放す追加点はかなり重く感じられた。
8回表、マウンドには、このシリーズで快投を続けているルーキー・イェサベージ。ドジャース打線にとっては高く厚い壁になっていたが、1死無走者からマンシーが、高めのスプリットをライトスタンドに運ぶ。これで再び1点差。難敵・イェサベージから点をもぎ取ったのは大きかった。
そして大詰めの9回表、1死無走者で打席に入るのは9番ロハス。マウンドには8回から登板しているクローザーのホフマン。
「もしロハスが凡退したら、一発を避けてまた大谷は申告敬遠されるんじゃないか」
こんなことを思い描いていたら、奇跡の一打が生まれた。3−2からの7球目、スライダーをうまく払ったロハスの打球は、レフトスタンドに飛び込む起死回生の同点ホームラン! ロハスにとって今年のWS初安打が、ドジャースの息を吹き返させる千金の一撃となった。
【 山本由伸のサプライズ救援・好守でサヨナラのピンチを凌ぐ 】
しかしドラマ満載のこの試合、簡単には終わらない。その裏、8回からリリーフしていたスネルが1死1・2塁のサヨナラのピンチを招いてしまう。ここでロバーツ監督は、前日6回・96球を投げている山本由伸を火消しに起用する。
「ローテーションや球数を重視するMLBで、こんな使い方するか?」と我が目を疑ったが、この最終決戦のあとがない土壇場、「もっとも信頼できるピッチャーをつぎ込むしかない」という決断だったのだろう。
シビれすぎるこの場面。しかもカークに死球を与え、1死満塁とピンチを広げてしまう。自ら招いた絶体絶命の窮地。普通なら重圧に負けてしまうところだが…。
バーショが放ったセカンドゴロを、前進守備のロハスが好捕して本塁フォースアウト。続くこの日3安打のクレメントが、初球のカーブを捕らえて左中間に大飛球を放つ。代わったばかりのセンター・パヘスが、K・ヘルナンデスと交錯しながらこれを好捕。連続のファインプレーで、ドジャースはサヨナラのピンチを凌いだ。
【 そしてまたもや奇跡の一発・裏のピンチも山本がしぶとく切り抜ける 】
そして迎えた延長11回表。マウンドにはこの回から登板の7番手・ビーバー。大谷がセカンドゴロに倒れて2死無走者。
「まだまだ延長戦は続くのか。山本にあまり長く投げさせたくないな…」
こう思っていたら、またもや奇跡の一発が飛び出す。ウィル・スミスが、2−0からのスライダーをレフトスタンドに勝ち越しホームラン! 先行されては追いつくの展開だったこの試合で、ドジャースが初めてリードを奪った。
しかし波乱万丈のこの試合、勝利の女神様は簡単には勝たせてくれない。この裏、先頭のゲレーロJrがインハイのフォーシームを捕らえてレフト線にツーベースを放つ。ブルージェイズが勝てばMVP間違いなしのチームリーダーが、窮地でさすがの一打を見せた。
2塁ベース上で両手を挙げ、味方を鼓舞するゲレーロJr。これを見て私は、2023年のWBCの準決勝・メキシコ戦で、1点リードされた9回裏、先頭の大谷が2塁打を放ち、塁上で両手を振り上げて、ベンチに向かって「あとに続け!」とばかりに叫んでいたシーンを思い出した(このあと村上の逆転サヨナラツーベースで、サムライジャパンは決勝進出を決めた)。まさに敵ながらあっぱれ、MLB屈指の名選手だ。
カイナーファレファの送りバントが決まって1死3塁。ここでドジャース内野陣は前進守備のバックホーム態勢。続くバージャーはストレートの四球で1死1・3塁。内野陣はゲッツー狙いの中間守備に戻す。打席には強打者のカークが入る。同点か、抑えて連覇か。
0−2と追い込んだ3球目、外角のスプリットを捕らえたカークのバットが折れる。打球は2塁ベース寄りにショート・ベッツの前に飛ぶ。これをつかんだベッツは機敏に2塁ベースを踏み、ファースト・フリーマンに送球。ドラマ満載だったこの大激戦は、俊足好守のベッツの華麗なるダブルプレーで幕を閉じた。ドジャース、球団史上初のWS連覇達成である。

第3戦の大延長戦は18回裏のフリーマンのサヨナラホーマーで決着する「箕島パターン」だった。この試合は大延長戦にはならなかったが、先攻がホームランで勝ち越して勝負を決する「横浜パターン」になった。
【 気迫の連投・山本の、敵地でも動じない平静さ 】
MVPは、2度の先発とこの日のリリーフで3勝を挙げた山本。これは文句なしだろう。
インタビューで「無心で、野球少年に戻ったような気持ちでした」と語った山本。体は疲れていたはずだが、精神的には最高の状態でマウンドに上がったということだろう。
振り返れば、このシリーズで山本が挙げた3勝はすべてアウェーだ。初戦の敗戦を受けての第2戦の先発完投、2勝3敗の「カド番」に追い込まれての第6戦の先発勝利、そしてこの最終戦のリリーフ。WSは全試合・全シーンが修羅場だが、特に山本が相対したこの3試合は、すべてが絶対に負けられない窮地だった。
それをすべて跳ね返し、チーム初のWS連覇に導いた大活躍。この精神力、敵地の大ブーイングにも動じない平静さ。試合後に大谷が「山本が世界一のピッチャーであることがみんなわかったと思う」と最大級の賛辞を贈っていたが、その最高のパフォーマンスを支えているのは、この「不動心」だろう。スポーツは肉体のみならず精神でやるものだということが、山本を見ているとよくわかる。
ロサンゼルス・ドジャース、初のワールドシリーズ連覇。山本由伸、日本人選手では松井秀喜(ヤンキース)以来2人目のMVP。今年のMLBポストシーズンマッチは、最初から最後までドラマティック、メモリアルシーン満載だった。





